287 :364:2006/03/01(水) 00:06:33.15 0
銀色の永遠 〜卒業するその前に@〜


『はぁ!?中止ってどういうこと!?』
『ごめんね…や、やる予定だったんだよ?
 予定だったんだけどさ…練習中にちょっと大きな事故があってさ、
 出演予定だった後輩が8人も怪我しちゃって…』
『じゃあやれないの?お姉ちゃんの卒業公演?』
『しょうがないっしょ…高等部の部員ほとんどなんだから』
『っていうか8人もそんな舞台できなくなるような怪我する事故でお姉ちゃんは大丈夫だったの?』
『ん、なっちは平気だよ、ちょうどその事故現場にはいなかったからさ。
 でもアミには悪いけど、ちょっとこっちもバタバタしてるからこっちに来るって話、やっぱナシって

ことでいいかい?』
『ええー!?また!?
 結局お姉ちゃん中・高と1回もお姉ちゃんのところ来させてくれないじゃん!』
『しょうがないっしょ!部活のこともあるし、短大の入学準備とかで忙しいの!
 短大入学前に1回そっちにも帰るからさ!
 また連絡するから!』
『あっ!ちょ、話はまだ…!』

ピッ


ツー ツー ツー……





288 :364:2006/03/01(水) 00:08:43.27 0

いつもそうだ。
なっち姉ちゃんは私がなっち姉ちゃんの通ってる学校のある街に行こうとすると
ギリギリになってドタキャンしてくる。
去年の夏は「受験勉強」だって言ってたし、一昨年の夏は「彼氏と会う約束があるから」だったし、
一昨々年の夏と冬は「他所の学校と対決することになった」とかいうワケの分からない言い訳だったし


こう連続でドタキャンされると、何だか私をなっち姉ちゃんの街に近づけたくないと
思ってるような気がしてならない。
なっち姉ちゃんは「最近物騒だから」とか何とか理由つけたりしてくることもあるけど、
あの抜けてるなっち姉ちゃんよりは少なくとも私はしっかりしているつもりだし、
何よりこれだけ来させてもらえないと逆に行ってみたいと思うものだ。


幸い、期末テストも終わって、春休み前の補講まで少しだけど学校は休みだし。
まぁもともとなっち姉ちゃんの卒業公演と卒業式で補講も最初何日かは休むつもりだったけど。
短大に進学したら今の家から隣の市に引っ越すとか言ってたし、
今のなっち姉ちゃんの家とか学校を見る機会は今しかないっ!

ついでに何でなっち姉ちゃんが私を来させたがらないかの理由が調べれればいいんだけど…それはちょ

っと難しいかもしれない。
でもお姉ちゃんに内緒で行って、こっそり遠くから高校生ななっち姉ちゃんの姿を見るだけでも何か面

白いかもしれない。


思い立ったら止まらない。私はすぐに押入れから修学旅行のときに新しく買ったスーツケースを引っ張

り出して、洋服を詰め込み始めた。




289 :364:2006/03/01(水) 00:10:53.67 0
    ◇     ◇     ◇     ◇     ◇

「もりおう…ちょう…かぁ…」

2日後、私、『安倍麻美』は杜王駅のロータリーに立っていた。
あのあとすぐに銀行でお金を下ろし、お母さんに頼み込んで飛行機のチケットを取ってもらい、
こうしてこの街にやってきたというわけだ。

駅前に池があったり花壇もあったり、街路樹もたくさんあるみたいだし、けっこう自然も多い町みたい

だ。
なっち姉ちゃんの話とか、地元で買ったタウン情報誌だと隣のS市のほうが大きくていろいろ便利そう

だけど…。
自然が大好きななっち姉ちゃんのことだ。きっとこの自然が気に入ったのかもしれない。
住宅街とかのほうでも自然が残ってるっていうし。


ちょうど近くの学校の下校時刻なのかな。制服を着た中学生や高校生が駅に入っていったりバスを待っ

てたりしてる。
この制服は見たことある。多分なっち姉ちゃんの通ってるぶどうヶ丘高校のものだ。
ここに来させてはくれないけど、写真とかは見せてもらったことはある。
演劇部の公演の衣装とか、制服姿とか。部活動中なのか、ジャージ姿の写真もあったけど。

今は3時半、ってことは今帰る人は部活をやってない人…ってことになるけど、どうしようかな。
公演が中止になったってことはなっち姉ちゃんが今日部活してるかどうか分からないし。

家に帰っちゃってたら厄介だ。内緒で来てるから顔は出せないし、家の中じゃあ何をやってるかちょっ

と調べようがない。
その気になれば調べれるんだけど、いろんな意味でリスクが高いし、失敗してバレたりしたら目も当て

られない。
まだ学校とかにいて下校したり寄り道したりするのを後をつけれたらいいかもしれないけど…それで何

かが分かるとも限らないし。
後をつけるにしても、家の中を調べるにしてもはた目には思いっきり怪しい人だし。

あーあ、やっぱり考えなしにここまで来たのは失敗だったかなぁ…




290 :364:2006/03/01(水) 00:11:48.10 0

「あーん、みつかんないよぉ……」


ん?なんだろ?
振り向いてみたらなっち姉ちゃんと同じ制服を着た女子高生が地面に伏せて何かを探していた。
ショートカットでちょっと明るい茶髪のボーイッシュな感じの女子高生だ。
腕にも脚にも包帯を巻いてて、そばにはカバンと松葉杖も転がってる。随分ひどい怪我をしてるみたい


周りの人はその子を避けて通ってるみたいだ。
そりゃそうだよね、確かに可愛い女の子なんだけど、あんな大怪我してるし、何か普通じゃないよ…。


「あの…何か、探してるんですか?」


声、かけちゃった。
私も何かちょっと関わりあいになりたくないと思ってたはずなのに。
なんか「引かれあう」みたいなヘンな感覚を覚えたと思ったら自分でも気付いたら声をかけてた。
やっぱり知らない町に一人で来て、しかも誰にも頼れないどうしようもない状況で寂しかったのかな。

「あ、すいません、コンタクトを落としちゃって…」
「この辺りなんですか?」
「はい、なかなか見つからなくて…」

なんだ、話しかけてみたら全然普通の人だった。
コンタクトかぁ…確かに落としちゃったら普通は見つけにくいもんね。
私は彼女のすぐ横にしゃがんで、コンタクトを探し始めた。




291 :364:2006/03/01(水) 00:12:42.95 0

自慢じゃないけど、私は物を落として困ったことっていうのはほとんどない。
落とさないわけじゃない。落としてもすぐに見つけることができるからだ。
それは自分の力っていうより、私にある不思議なチカラのお陰なんだけど…。
いつだったか、お財布を落としたときも、割とすぐに見つけることができた。
まぁ、丸1日お買い物して、その途中でなくしたと思って探したのが、
家の目の前の階段で見つかったときは自分でも少しマヌケだと思ったけど…。

今回もこのチカラを使えばすぐに見つけてあげられると思う。
でもこれをするにはすごい集中しなきゃいけないんだよね。こんな人ごみの中じゃなかなか集中できな

い。
集中しようとしてたら手が止まっちゃうだろうし、そうしたら「手伝ってない」って彼女をがっかりさ

せちゃうかもしれない。
そう思った私は彼女から私が何をしてるか分からないように背を向けた。
そして目を閉じて集中しようとしたその時…


「あったー!!」


背後から彼女の声が聞こえた。




292 :364:2006/03/01(水) 00:14:07.68 0

「ありました?」
「ええ、すいません、助かりました」
「いえいえ、私何もしてないですよ」
「そんなことないです、本当にありがとうございました」

見つかったならよかった。
私の不思議なチカラは使うとすごい疲れちゃうし、使わないにこしたことはない。

「あの…その怪我、どうしたんですか?」
「あぁ…ちょっと部活の練習中に失敗しちゃって…エヘヘ」
「そうなんですか…大変な部活やってるんですね」
「まぁこういう怪我も慣れてるからいいんですけどね。
 僕なんてこれでも軽いほうで…まだ入院してる子もいるし…」
「やっぱり怪我とかで部活できなくなるとすごいつらいですもんね…」
「ええ、先輩や後輩にも迷惑かけちゃいますし。
 今日も部活出てる先輩たちはみんな入院してるメンバーのお見舞い行くみたいでしたけど。
 まぁ僕は今日顔出したら『怪我人は家で寝てろ』って追い返されたんですけどねw」
「何の部活やってるんですか?」
「僕は演劇部で……ヤバ!電車の時間が!
 あ、すいません、僕もう行かなくちゃ!本当にありがとうございました!」
「いえいえ!気をつけて、怪我、お大事に」
「それじゃ、失礼します!」


293 :364:2006/03/01(水) 00:15:25.63 0

そういうと彼女は松葉杖を突きつつ、慌てて駅のほうへ歩いていってしまった。
…びっくりした。なんか引きつけられるように話しかけた女の子がなっち姉ちゃんと同じ部活だったな

んて。
自分を僕って呼ぶちょっと変わった女の子だったけど。
そういえば名前を聞くの忘れちゃったな。また会えるかな。
でも、そうするとなっち姉ちゃんの言ってた「後輩が事故で怪我して卒業公演ができない」ってのはホ

ントみたい。
なっち姉ちゃん随分部活に入れ込んでたし、すごい悔しがってるんだろうなぁ。

でもやっぱりおかしい。
公演がやれないのが本当でも、それだけで私がこの町に来るのをドタキャンさせる理由にはなってない

よね。
ほかに理由があるのかな…。

そういえばさっきの子、「先輩たちは入院してるメンバーのお見舞いに行く」って言ってたよね。
ってことは多分なっち姉ちゃんもたぶん行くよね。
前になっち姉ちゃんが怪我したときに「ぶどうヶ丘総合病院」にかかったって言ってたし、多分そこだ

よね…
学校や家で待ち伏せるよりそっちのほうが可能性があるかも!



400 :364:2006/03/02(木) 22:43:44.45 0
銀色の永遠 〜卒業するその前にA〜

ぶどうヶ丘病院 ロビー

病院の雰囲気ってあんまり好きじゃない。
何でも病院の壁が白いのは患者に圧迫感を与えて早く退院するように仕向けるためらしいんだけど。
どっちかっていうとピンクとか可愛い色でリラックスできたほうが治りが早いような気がするんだけど


まぁ私は黒とかも好きだけど黒い壁はさすがにちょっとねw
そういえば、病院の前の池に『危険 飛び込み禁止』なんて看板があって柵がしてあったけど何でだろ

う?
まさか病院の池で泳ぐバカな人でもいるんだろうかw

そんな取りとめもないことを考えながらロビーでなっち姉ちゃんが来るのを待っていた。
そろそろ病院に来て30分くらい経つ。
なっち姉ちゃんはまだ来ない。
っていうか、改めて考えてみたらホントに来るかどうかも分からないんだよね。
情報源がさっき会ったばっかりのあの怪我した女の子だけだし。
何で信じて来ちゃったんだろう。これだったら学校の前で張ってたほうがよかったかも。
そろそろ今夜の泊まるところのことも考えなきゃいけないな。


ガーッ


自動ドアが開いた。

コツコツコツ……

きたぁぁぁっ!!
ホントに来た!なっち姉ちゃんだ!
あの童顔の顔!ちょっと三日月型のエロ目!そして写真で見たとおりの制服!
久々に見るなっち姉ちゃんは明るかった髪をちょっとだけ黒っぽいブラウンに染めていて、ちょっと大

人っぽくなっていた。


401 :364:2006/03/02(木) 22:45:02.31 0

っていうか……

隣の男の人、誰?


整ったちょっとハーフ顔立ち、鮮やかな金髪、一見すると女の人にも見えそうな細身のカッコいい男の

人と一緒に
なっち姉ちゃんは病院に入ってきた。
誰?
演劇部の先輩?
いやでも女子の部ってなっち姉ちゃん言ってたし…
どこかで見たことあるような気もするけど…


そっかそっか、なるほど。
なっち姉ちゃん、そういうことなんだ。
普通の友達だったら部活の後輩のお見舞いなんかに連れてこないだろうし。
多分、私をなかなかここに来させたがらなかったのもそういうことなんだ。
やだなー、私にくらい教えてくれたっていいのに。別にお母さんに言ったりしないのに。

金髪の『彼氏さん(たった今命名)』はなっち姉ちゃんと別れて、何かを買うのか売店のほうに行き、
なっち姉ちゃんはそのままエレベーター乗って上の階に上がっていった。
さすがに同じエレベーターには乗れないので、エレベーターが5階で止まったのを確認してから階段を

駆け上った。


402 :364:2006/03/02(木) 22:46:26.69 0


「ハァ…ハァ…ハァ…」

さすがに5階までダッシュで駆け上るのはつらい。
どうやらこの階は怪我人の病棟なのか腕や脚に包帯を巻いたりしている人が結構目に付く。
当然ながらなっち姉ちゃんの姿はもうない。
どうやら既に目当ての病室に行ってしまったみたいだ。
一つ一つ病室の扉に耳でも当てて中からなっち姉ちゃんの声が聞こえるか調べてみようかと思い、
病棟の見取り図を眺めていると

チーン ガーッ

『彼氏さん』がエレベーターで5階に上がってきた。
『彼氏さん』はそのまま私の後ろを素通りして(まあ私の顔を知らないんだから当然だけど)、ある病

室に入っていった。
私も扉が閉まるのを確認して、その病室に向かった。


403 :364:2006/03/02(木) 22:47:31.77 0

ぶどうヶ丘病院 508号室前
『高橋愛 道重さゆみ』
『彼氏さん』は間違いなくこの部屋に入っていった。
少しだけどなっち姉ちゃんの声もするし、お見舞いの相手はこの部屋の人で間違いないみたい。
多分演劇部の後輩さんたちなんだろうけど…。
やっぱりこの高橋さんと道重さんもなっち姉ちゃんと『彼氏さん』のこと、知ってるのかな。
いや、『彼氏さん』がこの高橋さんや道重さんのお兄さんというのもありえるかな。
そうだよ、それだったら全ての辻褄があう。
演劇部とは関係なさそうなあの男の人はなっち姉ちゃんの彼氏さんで、この病室の高橋さんか道重さん

のお兄さんなんだろう。
自分の中で納得いく結論がついてスカッとした私は、病室の中の話を聞くべく病室の扉に耳を当てた。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


404 :364:2006/03/02(木) 22:48:56.97 0
「あーしは別に怒っタり恨んダりはしてまセんヨ
 結局あーし自身が弱かっタのが悪いンですカラ」
「さゆみは…さゆみも…そうです。
 ただ…小春ちゃんを傷つけてしまったことが…
 それもさゆみが未熟だったから…」
「そっか…そう言ってもらえば助かる。
 もともとごっちんの今回の件は遡れば私に原因があるようなものだしね」
「そうなンですカ?」
「ん、まぁ…昔の話だけどな」
「ごっちんの行方はほかのメンバーで今も探してるけどね
 徳永ちゃんのレーダーや亀ちゃんに空から見てもらってるけどまだ見つかってはないね」
「見つかったら…吉澤さんは、後藤さんをどうするんですか?」
「あっしはリベンジしたいネー、今度はゼったい負けン」
「高橋さんには聞いてないの」
「………まだ、どうなるかなんてわかんねぇけどな…」
「よっすぃーも、まだ気持ちの整理ついてないっしょ
 いつかすべて納得できるときが来るべさ…」


…『ごっちん』さんのことはなっち姉ちゃんから聞いたことがある。
確か随分前、演劇部にすごいエースが入った、って嬉しそうにしてたはずだ。
その人もその事故に関係があるってことなのかな?
探してる、ってことはどこかに行って見つかってないとか?

…………私のチカラなら探せるんじゃないか?


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


405 :364:2006/03/02(木) 22:50:04.53 0

「悪かったな、突然押しかけてヤなこと思い出させて」
「ちょっと暗くなってきたし、まだ新垣たちの所も行かなきゃいけないから
 もうなっちたち行くね」


やばっ!!
隠れないと!!
私はとりあえず隣の病室に隠れようと振り向きざま走り出そうとした。

タッ… ドンッ

「えっ!?」
走り出して1歩目で私のすぐ後ろにいた男の人にぶつかって尻餅をついた。
「す、すいませんっ!」
私は慌てて立ち上がり、その人の横をすり抜けて走り出そうとした。

そこで『異常』に気付いた。


廊下に人が誰もいなかった。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ




406 :364:2006/03/02(木) 22:51:37.66 0

そんなバカな!!
確かに病室の声に集中はしてたけど、廊下側からも足音や話し声はしてたはず!
いつの間に!?
私はとっさに、今や廊下に二人きりになってしまった、ぶつかった男の人を見上げた。
180cmを超えようかという長身にアフロヘアー、真っ黒なサングラス、あごひげと繋がったもみあげ。
洋服も靴も黒ずくめのその人はハッキリ言って異様だった。

ガシッ!

突然腕を掴まれた。
「ちょ〜っと静かにしててもらうよ、ボクのことを誰かに話されると厄介だからね」
抵抗しようとする私に、男の人は様相とは全く違うテノールの軽い声で言った。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


407 :364:2006/03/02(木) 22:53:31.67 0

ガチャッ  ドンッ

背後のドアが開いた瞬間、私は男の人に突き飛ばされ、ドアを開けた人にぶつかってそのまま将棋倒し

になった。
「な…ッ!」
「なんだテメーはっ!」
私が黒ずくめの人に抗議するよりも早く、私に薙ぎ倒される形になった『彼氏さん』が叫んだ。
あぁ、どうやら『彼氏さん』にぶつかって倒しちゃったみたい。
部屋の中に何人かいるみたいだけど、私にはそれを確認する余裕もなかった。
静かにしてもらう、そうこの黒ずくめの男は言った。
つまり私やこの部屋の中の人たちに何か危害を与えるつもりだ!
そして何かは分からないが、こいつはそれができる力を持っている!
「アミッ!?」
後ろでなっち姉ちゃんが私の名前を叫ぶのが聞こえた。
ばれた!
でも今はそれどころじゃない、この男は危険だ!
部屋に入れちゃいけない。ドアを閉めて鍵をかけて、話はそれからだ!

私は病室に入ってこようとしている男の人を押し返そうと立ち上がろうとして、
男の人が何か銀色のボールのようなものを持っているのに気付いた。

「『ミラーボーリズム』ッ!!ニャオ〜!!」
手のひら大の、ミラーボールのようなそれを病室に向けて男の人が高らかに叫んだ瞬間、
ボールが病室内を眩しく照らし、私の意識は光の中に溶けていった…。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ



492 :364:2006/03/03(金) 23:08:34.64 0
銀色の永遠 〜卒業するその前にB〜

「……ミ……アミ……」
「………ん……」

誰かに揺すられてる感触、そして忘れようもないこの声。
「なっち…姉ちゃん…」
目を覚ますと、すぐ目の前になっち姉ちゃんがいた。
「アミ…怪我とかない?」
「うん、平気、なっち姉ちゃんは?」
「なっちは平気だよ。まぁもともと怪我人だった子があっちにいるけどね」
そういえば、病室で気を失って…。
慌てて起き上がって周りを見ると、顔まで包帯でぐるぐる巻きにされた女の子と、
右手を吊って顔と手足を絆創膏だらけにした、パジャマ姿の二人の女の子がすぐ近くの壁にもたれて座

っていた。
向こう側では『彼氏さん』があちこちを探っている。

「はぁい☆」
右手を吊った女の子が私に左手を振ってきた。
思わず会釈を返す。
「あンた安倍サンの妹なんやってナー。ホントそっくリで驚いたで」
え、何で私のこと?
…ヤバ!
「お姉ちゃん、ゴメン!」
そういえば見つかってバレたんだった。私は慌ててなっち姉ちゃんに向き直って頭を下げた。
「まぁいいべ、来ちゃったものはしょうがないっしょ
 それよりここから出ること考えなきゃね」
なっち姉ちゃんは苦笑いしながらだけどそう言ってくれた。


493 :364:2006/03/03(金) 23:09:15.40 0

そういえば、ここは…?

ブラックライトで照らされたかのように青く絵が浮かび上がった白い壁。
テーブルや棚の上にはたくさんの人形やぬいぐるみ。
部屋の壁近くにある箱の中にはおもちゃがたくさん詰まってるみたいだ。
カラオケボックスみたいだ、と思ったのは天井にある巨大なミラーボールのせいか。
カラオケボックスと、子供部屋をごちゃまぜにしたみたいな部屋だ。
「ここ、どこ?」
「わかんない、閉じ込められちゃったみたい」
「この部屋、ドアが無いんヨー」
「いま吉澤さんが出口を探してるの」
なっち姉ちゃんと怪我してる二人の女の子が口々に言う。
『彼氏さん』は吉澤さんって名前なのか。
てっきりこの二人のどちらかのお兄さんかと思ったのに。全身包帯の子なんてお兄さんいそうな感じだ

し。
そういえばこの二人もなっち姉ちゃんと同じ演劇部なんだろうか。
「そういえば、あの黒ずくめの人は…?」
「この部屋にはいないよ。大丈夫」
そういうとなっち姉ちゃんは私を安心させるように抱き寄せた。
やだなぁ、私もうそんな子供じゃないよ、恥ずかしいよ、私よりも年下の子も見てるのに。
でも、さっきのあの人の言ってたこと、そして出口が無いっていうこの部屋…。
あの人が私たちをここに連れてきたのは間違いないはず。
私たち、一体どうなっちゃうんだろう。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


494 :364:2006/03/03(金) 23:10:41.61 0

「ダメっすね安倍さん、やっぱりどこにも扉とか出口とか無さそうです」
数分かけて『彼氏さん』…いや、吉澤さんが戻ってきた。
「ダメかぁ…ってことはやっぱりここは…」
「……ええ…だと思います…」
なっち姉ちゃんと吉澤さんが顔をしかめあう。
高橋さんや目だけしか顔が見えない道重さん(吉澤さんが探してる間に自己紹介してもらった)も渋い

顔をしてる。
でも今の話し振りだと、この部屋が何なのか、みんな知ってるみたいだ。
「ってことはもうこの壁ブチ破るしかないッスけど…やっちゃっていいッスか?」
吉澤さんがなっち姉ちゃんに聞く。
でもどっちかっていうとなっち姉ちゃんよりも私のほうを見ているような気がする。
「……しょうがないか………まずは出るのが先決っしょ、任せていいかい?」
「わかりました…高橋、道重、いけるか?」
「当たり前ヤよー、片手ヤけど」
「派手にやってやるの」
3人で壁を破るってことだろうか?高橋さんも道重さんも大怪我してるのに?
それだったら私やなっち姉ちゃんがやったほうがいいんじゃないか?
そう言おうとしたところでなっち姉ちゃんにうずくまるように押さえつけられた。
「アミ、ちょっと危ないから伏せてて、あと耳も塞いでて」
え、でも手伝ったほうが…そう反論しようとしたらなっち姉ちゃんに上から覆いかぶさられた。
何をするっていうんだろう。


「おおおおおおっ!!『Mr.ムゥゥゥゥゥゥゥゥンライトォォッ』!!!」
「『ルァイクァ・ルノアァァァァァァァルゥッ』!!」
「『シャボンッ!イィィィィィィィィィルッッッ』!!」

ギュァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!


495 :364:2006/03/03(金) 23:12:41.56 0

「Hey! Com'on EveryBady Say………
AUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAU!!!!!」
「おぉぉぉぉォォォォォォォォォちょきんしねまぁぁぁァァァァァァァァァァァァァァァァァァっ!!


オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァァーー!!」
「ゼロ距離射程ッッ!!必殺ッッッ!!シャボンだまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ

ぁぁァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」
ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ

ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ
ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
チュドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドガガガガガガガガガ

ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガーーーーーーーン!!!!!!!!!!!!

何!?
なに何ナニ!!?
あの3人は何をしてるの!!!?
この轟音と熱風、ポケットに果物に見せかけた爆弾でも仕込んでたっていうの!?
なっち姉ちゃんに顔を強く押さえつけられて見るどころか顔を上げることもできない。
耳鳴りがひどい。音があんまり聞こえない。


「ハァ…ハァ…ハァ…ウソだろ……傷ひとつ、焦げ跡ひとつつかねぇなんて…」
「ハァ…ハァ…あーしラハ現役の演劇部員でも物理破壊力だけナら恐らくトップ3ヤのに…」
「壁が壊れないどころか、こっちの自信ってヤツがブッ壊れそうなの…」

ようやくなっち姉ちゃんが手を離してくれたけど、煙の中に汗だくの3人が見えるだけだった。
いったい3人は何をしてた…?壁を殴ってたとでもいうの?


「ニャオ〜ン!ムダムダ!この部屋の壁を破るなんてできやしなぃヨォウ!」

突然、異様に明るい、テノールの声が部屋に響いた。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ



528 :364:2006/03/04(土) 11:30:48.42 0
銀色の永遠 〜卒業するその前にC〜

「誰だテメェはっ!!」
吉澤さんが怒鳴る。
「ニャオ〜ン!自己紹介が遅れたね。ボクはミラーボール星からやってきたダンス☆マンさ。
 キミたちにはボクのゲームの相手になってもらうよ」
「ザケたこと抜かしてんじゃねェェェ!!」

ボゴァッ!ガシャーン!

吉澤さんが何かを蹴ったと思ったら、それが天井のミラーボールに命中したらしい。
でもミラーボールには傷一つない。
あれ?ぶつかった物が降ってこない。吉澤さん、何を蹴った?
「よっすぃっ!」
「ぁ……すいません…」
なっち姉ちゃんが吉澤さんを怒鳴る。一体どうしたっていうんだろう。
「ムダムダァ〜。この部屋は絶対にぶっ壊せないよ〜。
 ここから出るにはボクにゲームで勝つしかないんミャオォ〜ン」
そういえばこの声、どこから聞こえる?
部屋の中にあの男の人(ダンス☆マンとか言ったな)は見当たらないのに。
「……ゲームの方法は?」
なっち姉ちゃんが低く押し殺した声を出す。
と、テーブルの上から小さなぬいぐるみが1体動き、立ち上がった。
アフロでサングラス、黒の服。まるでさっきの黒ずくめの人だ。
「何でもいいよ〜ん。キミたちの好きなものでお相手するニャオ〜ン」
ぬいぐるみが、まるで腹話術のように口を動かして喋った。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


529 :364:2006/03/04(土) 11:31:51.43 0


「ほォ〜う?何でもエエって言ったなァ?」
「ミヤァァァァ〜ォウ!!何でもいいよぉ!」
「じゃあっ!あっしのケンカの相手しろやァァァァァァァッ!!」
「バカ高橋よせっ!!」
「高橋っ!?」
突然高橋さんが人形のいる机に突進した!
ぬいぐるみを壊す気だ!
「おぉぉぉぉぉっ!!『ライクァ・ルノアァァァル』ッ!!」

バギャーン!!

高橋さんは一瞬赤く染まった左手を人形に叩きつけた!
だが……


「バ・バカな……!」


突然テーブルと高橋さんの間に現れた緑色の大きな人形が
高橋さんの左手を受け止めている!!
「な、何で麻琴の『FRIENDSHIP』が…!」

ガスッ!


530 :364:2006/03/04(土) 11:32:54.57 0

ガスッ!

「クッ!!」
高橋さんは緑色の人形に殴られた勢いで数歩下がり、緑の人形と距離を取った。
「テメェ小川をどうしたぁ!」
吉澤さんが叫んだ。
どういうこと?あの緑色の人形は何なの?
『小川さん』ってのがあの人形の名前?
「あぁ、ちょーっとあの病院の他の人には眠ってもらったんだよねぇ〜。
 その中でちょっと使えそうだったからもらったんだミャォ〜ン!」
え?え?
話が見えない。
病院の廊下の消えた人たち、それを消したのは
この黒ずくめのダンス☆マン、それは間違いない。
そのときに使えそうだから『小川さん』をもらった?
いや、あの『小川さん』の姿…服も顔も全部緑で筋肉質…
ある意味、病院で見たダンス☆マンって人よりも異様なあの姿…。
もしかして、私の『右手』と同じ…。
「高橋!『大塚愛』みたいなのかも、傷つけられたらやばい!」
なっち姉ちゃんが叫ぶ。
『大塚愛』、また知らない単語が出てきた。何がどうなってるの?
その人とこの人形に関係があるの?


531 :364:2006/03/04(土) 11:33:30.12 0


「ク…どうすれば…」
高橋さんが後ずさりする。
どういうことかは分からないけど『小川さん』を攻撃することはできないみたい。
「おやおやぁァ〜?ケンカって言ってきたのはそっちだよねェ?
 何で逃げるのかなぁ〜?」
「んだと…あっしは逃げタりしねェェェ!!」
高橋さんが飛びかかる!「逃げる」って言葉が癪に障ったみたいだ。
高橋さんの向こう側に赤い人影が映る。
「バカ戻れ高橋ィィッ!!」
「高橋さん落ち着くのっ!!」
「おぉぉちょきんしねまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


ゴシャシャシャシャシャッ!!


「が…はっ……バカ……な…」

倒れたのは緑色の人形でもテーブルでもなく、高橋さんだった。


532 :364:2006/03/04(土) 11:34:33.95 0
「デュエル・エレジーズ……ニューオーダー…ラブ・シード…」
なっち姉ちゃんたちも信じられないものを見るような目で見ている。
倒れた高橋さんの周りには、さっきの『小川さん』と同じような、
それぞれ緑・ピンク・茶色の3体の人形が新たに立っていた。
あの瞬間、高橋さんの攻撃を『小川さん』が受け止め、
さらに次の瞬間現れた3体の人形が高橋さんをボコボコにぶん殴ったのだ。
「何が起こってるの……あの人形は何…?」
呆然とした私は思ったことを口に出していた。
「あ…アミ…見えるの?あの4体の『人形』が…」
なっち姉ちゃんが心底驚いた目で私を見てきた。
「え、う、うん……」
「いや安倍さん、コイツは…違う、ビジョンじゃない、『スタンド』じゃないっすよ!」
「よっすぃ!………でも確かに実体がある…アミにも見えてるし……どういうこと?」
どういうことなのかはこっちが知りたい。
多分あの人形も、この部屋も、なっち姉ちゃんも吉澤さんも知ってるんだ。
それでいて私に隠そうとしてる?
私には普通は見えないもの?見えてるはずのないもの?
それが見えるとしたら……私のチカラのせい?

「ニャォォォォ〜ウ!ケンカとは言ったけど、1対1とは言ってないよねぇぇ?」
「てメ、キたね……ウッ!!」

ボシュウゥゥゥゥゥ!!

高橋さんと、4体の人形が消えた。
そこに残っていたのは…。

右手を包帯で吊っている、涙型の大きな目をした、女の子のぬいぐるみだった。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


557 :364:2006/03/04(土) 16:25:54.03 0
銀色の永遠 〜卒業するその前にD〜

「あぁそうそう、言い忘れてたけどゲームに負けたら、
 ぬいぐるみになってボクと遊んでもらうんだミャォォ〜ン!」
「テメェ…ザケんじゃねぇぇ!!」
ドカッ!

吉澤さんがまた何かを蹴って、テーブルの上のダンス☆マンぬいぐるみを吹っ飛ばした!
「ゲームは終わりだ!高橋を元に戻せ!」

「乱暴だなぁ〜、次はキミがゲームの参加者かい?」
吉澤さんが吹き飛ばした人形の隣にあったぬいぐるみが起き上がり、喋り出した。
「うっせぇうっせぇうっせぇ!!」

ドガッ!

また何かでそのぬいぐるみを吹き飛ばす。
「宝探しゲームでもするかい?
 そうやってぬいぐるみを壊していけば、いつか本当のボクに当たって壊せるかなぁァ〜?」
「上等だ!やってやろうじゃねぇかっ!」
「よっすぃー待って!落ち着いて!」
「おぉぉぉぉぉっ!!」

ドガガガッ!!

吉澤さんは何かを蹴り飛ばしてテーブルを倒し、
上にあったぬいぐるみをテーブルの下敷きにした。
でもこの部屋はぬいぐるみだらけだ、これを全部壊すってなると…


558 :364:2006/03/04(土) 16:26:30.25 0

「もう、ホント乱暴だなぁ…キミのお友達もいるのにさぁ」

次に起き上がって喋ったぬいぐるみは、右手を吊った高橋さんのぬいぐるみだった。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


「ちょっと考えればわかるよねぇ〜?
 ボクがこの子をぬいぐるみにしたってことは、
 病院のほかの人もぬいぐるみにしてるってことだよ?」
「…テメェ…」
「他のぬいぐるみを壊さずに、本当のボクだけを壊すことができるかなぁ〜?」

つまり、この部屋のどこかに本物のダンス☆マンっていう
あのアフロで黒ずくめの人がいて、腹話術か操り人形か知らないけど、
他のぬいぐるみや人形を操ってる、ってこと?
その本物を見つなきゃいけないってこと?


「次はさゆがやるのっ!!」

バァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!


559 :364:2006/03/04(土) 16:27:12.31 0

「道重よせ、今度は俺が…!」
「シゲさん待って、あなた高橋以上の怪我人じゃないの、
 そんな身体で何するって言うんだい?」
なっち姉ちゃんの言うとおりだ。
全身包帯でぐるぐる巻きで、自分で立ち上がることもできないじゃないか。
殴り合いはもちろん、ゲームだってできるはずがない!
「ミャォォォ〜ン、また怪我人かい?
 捨て石にするのが好きだねぇ、キミたちわぁ」
「んだとテメェ…」
「黙るの」
「道重…」
「怪我人だって病人だって、強い精神を持つ者はいるのっ!!
 さゆはお姫様になるという夢のために、邪魔するものは全て乗り越えていくのっ!」

バァァァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!

何という気高い精神!!
この子はただの中学生じゃないっ!!


「勝負には、カラオケを提案するの」


え?
カラオケ?
「カラオケの採点で、高得点だったほうが勝利なの!」

ドバーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!


560 :名無し募集中。。。:2006/03/04(土) 16:27:21.57 0
みなさん乙ッ!


561 :364:2006/03/04(土) 16:27:46.49 0

「ちょ、ちょっとシゲさん、それはちょーっとまずいんでないかい?」
「そうだぜ、確かに殴り合いよりは可能性があるかもしれないけどよ、
 さすがに無謀ってもんだぜ」
どうしたんだろう?
なっち姉ちゃんも吉澤さんも、なんか焦ってるみたいだ。
そんなに危険な勝負なんだろうか?カラオケなのに?
「ミャオォォォォン!GOOD!ボクも地球人の歌に非常に興味があったところさ!」

ボンッ!

部屋の壁のところに突然カラオケセットが現れた。
どういう原理かは分からないけど、普通のカラオケボックスに
あるのと同じ、本格的なカラオケの機械みたいだ!!
…なんだか、不可思議なことばかりで、私も慣れてきちゃったみたいだな。
「先攻は、さゆが歌うの。麻美さん、マイク持っててほしいの」
「え、うん、いいけど…」
「安倍さんと吉澤さんは、可愛いさゆのこと、『よく見てて』ほしいの」
「あぁ…」
「…お手柔らかにお願いするべ……」
私はカラオケセットからマイクを引っ張ってきて、壁にもたれて座る道重さんの口元で支える。
「ミャオォォ〜ン!準備はできたかな?
 採点で低い点だったらキミも人形になってもらうよぉ?」
「曲はさゆが演劇部で初めて舞台で歌った『赤いフリージア』なの」
道重さんは高橋さんのダンス☆マン人形を無視して宣言した。
確かに、歌い慣れてる曲でのカラオケでの勝負だったら
今の道重さんでも勝機はあるかも!!
そして、曲のイントロが流れ出す。


タラランランラ………


562 :364:2006/03/04(土) 16:28:47.67 0





           じ      と   す
从*・ 。.・)< 信    る     に   る     〜
                こ          わ








563 :364:2006/03/04(土) 16:29:08.73 0

なんだこの歌声はぁぁぁぁーーーッ!!
この人演劇部員なんじゃないの!?
ミュージカルとかするんじゃないの!?
歌い慣れてるんじゃなかったの!!?
ちょ、音がかなり外れたりしてるんだけど!!
思わずなっち姉ちゃんのほうを見ると…

「へぇ〜シゲさん上達したね〜、随分と歌えるようになったっしょ」
「そうですね、声が震えなくなりましたね、
 これならもう少ししたら前列でメインパート任せられるようになりますよ」

えええええぇーーーーーーっ!!!?
ちょ、なっち姉ちゃん!?それでいいの!?
っていうかこれで上達したの!?
大丈夫?演劇部!?

「はぁぁ……歌いきったの…満足な出来なの…」

動揺する私をよそに、道重さんはうっとりと恍惚の表情(目だけだけど)を浮かべた。

ピピピピピピピピピピピピピピピ……ダーーン!

『91点』

「やったのっ!この曲の自己ベスト更新なのっ!!」

バァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!


564 :364:2006/03/04(土) 16:29:39.64 0
銀色の永遠 〜卒業するその前にE〜


道重さんは91点という高得点を取った。
あとはダンス☆マンが90点以下だったら道重さんの勝ちだ!!

「う〜ん、キビしいなぁ〜。
 確かに素晴らしい歌だ、音程ではなくキミのソウルを感じたミャオ〜ン」
「ごたくはいいからさっさと歌うのっ!そして敗北を認めるの!!」
「それじゃあ次はボクが歌う番だニャォォ〜ン!」
そういうと高橋さんの姿をしたダンス☆マン人形はカラオケマシンから
マイクを引っ張って、両手で持った(小さい人形だから大変そうだ)。
「地球の歌は大好きだよぉ。ミラーボール星にはないソウルがあるからねぇ〜。
 でも今日は!地球の歌をミラーボール星言語で
 カバーして歌うんだニャォォォォォ〜ン!!」

バァァァァァァァーーーーーーーーーーーーン!!

「それじゃあ聞いてくれ、『BEST OF MY LOVE』。」

ズンズンズンズンズン♪


565 :364:2006/03/04(土) 16:30:10.58 0

「泡♪ 泡♪ 浴衣♪ バスタオル舞う風呂♪」


こっちも特徴的だぁぁァァァーーーーーッ!
え、え、洋楽だよね?これ?
気のせいかな?日本語に聞こえるんだけど?
ミラーボール星ってナニ!?
ミラーボール星語って日本語なの!?
しかもバスタオル舞う風呂って意味わかんないんだけど!!?

ジャジャジャジャーーーン♪

「いやぁ…やっぱりミラーボール星語で歌うのは難しいな…」
絶対ミラーボール星語なんてウソだぁぁぁーーっ!!
い、いや、そんなことよりも得点だよ!
90点以下なら道重さんの勝ちだ!!



ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ……ダーーン!



『90点』




566 :364:2006/03/04(土) 16:30:38.35 0
90点!道重さんの勝ちだっ!!
「やったの!さゆの勝ちなのっ!!
 さぁ、高橋さんやみんなを戻して元の病室に帰すのっ!!」

「ニャォォォン?何言ってるんだい?勝負はボクの勝ちじゃないかぁ」
「えっ!?」
私たちは採点の画面をもう1度見る。

『900点』

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

「な、何で…さっきは90点だったのに…」
道重さんはなっち姉ちゃんたちを振り返る。
「いや…その人形野郎は何も変な動きはしなかった…」
「シゲさん歌ってるときも自分が歌ってるときも何もしてなかったべさ…」
な、何が起こったっていうの!?
100点満点のカラオケで900点なんて!?

「別に機械の故障とかじゃあないよねぇ〜。
 人形、いやこの部屋の中の物を自由に動かせる、
 ってことは、点数いじるくらい簡単だよねぇ?」
「そ、そんな……」
「キミたちはこの部屋にいる限り、トランプだろうが球技だろうが、
 絶対にボクには勝てないんだニャォォォ〜ン!」
「ひ、卑怯者…ッ」
「勝負方法を決めたのはキミだろぉぉ?
 ミャォォォ〜〜〜ン!!この勝負……ボクの勝ちだ」

ボシュウゥゥゥゥゥ!!

道重さんは、ピンクのパジャマを着た包帯ミイラのぬいぐるみになって、部屋の床に転がった。




52 :364:2006/03/05(日) 21:55:03.22 0
銀色の永遠 〜卒業するその前にF〜


「さぁあと3人だねぇ〜。それとも怪我人ばっかりだったからここからが本番かなァ〜?」
高橋さんの姿をしたダンス☆マンぬいぐるみがケタケタ笑う。
勝負に負けたらぬいぐるみにされる。そして勝負はこの部屋にいる限り私たちは勝てない!
どうすればいいの…ッ!?

「アミ」

「え?なに?」
私にくっついていたなっち姉ちゃんがいきなり話しかけてきた。
「あとで、どっかゴハン食べに行こうか?」
「え、でも……」
ここから出れないのにどうやって、とは続けられなかった。
「ハンバーグがいいな。ホントはお母さんのハンバーグが食べたいけど、
 それは来月室蘭帰ってからにして、どこか食べに行こうよ」
なっち姉ちゃんはどうしちゃったっていうんだろう。
恐怖でおかしくなっちゃったの?
「それからプリクラ撮りに行って、カラオケ行って…」
……なっち姉ちゃん、震えてる……?
「行こうよ……ねっ?」

ポタッ

えっ…?
突然首筋に垂れてきた雫にびっくりして顔を上げる。


53 :364:2006/03/05(日) 21:55:49.55 0

なっち姉ちゃんは泣いてた。
どんなときにも笑顔を絶やさないまるでヒマワリみたいななっち姉ちゃんが、
私の前で初めて泣いてた。
絶句しつつも
「う、うん…いいけど……」
と答えるしかなかった。
「ありがと…約束だかんね………」
笑顔を浮かべると、なっち姉ちゃんは立ち上がった。

「アミ………ごめんね………」
涙をぬぐったなっち姉ちゃんはそう呟くと、ダンス☆マンぬいぐるみを振り返った。
思わずなっち姉ちゃんに手を伸ばそうとした。
けど身体は固まってしまったかのように動かなかった。

なんだか、なっち姉ちゃんが遠くに行ってしまうような気がした。


54 :364:2006/03/05(日) 21:57:37.05 0

「さぁ次は誰がボクと遊ぶのかな〜?」
「ガタガタうっせぇんだよ!!次は俺が…!」
「よっすぃ!!次はなっちがやるべさ」
「安倍さん!でも……」
「なっちがやる、と言ってるんだべ」
「……ッ!!」

吉澤さんが気圧されて黙り込む。
向こうを向いているなっち姉ちゃんの顔は今、どうなっているんだろう。

「ボクはどっちでもいいんだけどねぇ〜、何なら二人でかかってくるかい?」
「五月蝿いべ人形。繊維までズタズタのコナゴナにされたいのかい?」
「ってことはキミもケンカをお望みかなぁ〜?」
ダンス☆マンぬいぐるみの前にさっきの緑・ピンク・茶色の4体の人形、
その他にも真っ赤な人形、7人の小さな金色の小人、紺色のヘビが現れる。
たった一人であれだけの数を相手にするなんて無茶だ!
でも…


「『チェイン・ギャング』」

ドギャァァァァァァァッ!!

なっち姉ちゃんの隣に、ピンク色と白色の鮮やかな人形が現れた。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


60 名前:364 :2006/03/05(日) 23:54:45.07 0
銀色の永遠 〜卒業するその前にG〜


理解した。
何でなっち姉ちゃんがこの町に来させたがらなかったのかを。
何で私の前ではずっと笑顔を絶やさなかったのかを。

なっち姉ちゃんは怖かったんだ。
私にこういうチカラを持っていると知られるのが。
私をこういうチカラを持った人に出会わせるのが。
私を自分たちとチカラを持った人たちとのこういう戦いに巻き込むことが。
私に理由はどうあれそういうチカラで人を傷つけている自分を知られることが。
私にそんな自分を拒絶されることが。

さっきの「ごめんね」は…「『巻き込んじゃって』ごめんね」だということが。

頭じゃなくて…心で理解した。


バカだ私。
ちっぽけな好奇心で、6年間なっち姉ちゃんが守り続けてきたものを全部壊しちゃった。
離れていても、こんなになっち姉ちゃんに愛されてるんだって…気付けなかった。


61 名前:364 :2006/03/05(日) 23:55:34.84 0


でもね…なっち姉ちゃんも知らないんだよ。
私の中にある想い。

なっち姉ちゃんが室蘭から出て行ってすぐ、突然身についたこのチカラ。
誰にも相談できなくて、部屋の端っこで泣いてた私に手を差し伸べてくれたのは、なっち姉ちゃんが教えてくれた歌だったんだよ?
演劇部で歌ったっていう歌。愛さえあればいいよ、っていう歌。
あれに私は救われたんだよ?

そして…私にチカラのこと、知られたからって自分が一人になったなんて思わないで。
私が同じように一人で泣いてるなっち姉ちゃんの涙を拭ってあげるから…。


なっち姉ちゃん……今度は私がなっち姉ちゃんを救う番だよ……。
ハンバーグ、いっしょに食べに行こうね……。

私は立ち上がり、それまで小声でしか呟いたことがなかったその名前を、初めて大きく叫んだ。

「『Answer Me』!!!」

バァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!


62 名前:364 :2006/03/05(日) 23:56:25.93 0

風が吹いた。
いや、吹いたんじゃない、巻き起こったんだ。
私の隣に現れた『ソレ』から。

人の形をしてるけど、どこか人とは違う、
地面から10センチほど浮かんで立っている『ソレ』から。



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


ぼろぼろの服を纏って、黒い帽子…というよりフードを被っている。
首には首輪やネックレスや鎖がたくさんついている。
腕も脚も、それぞれそれぞれ左右違ったものを身に付けている。
そして、フードの下の顔は…

どこか私に似ていつつも、目の周りが黒く、やはりどこか似つかないものだ。
昔、何かの本で見た堕天使を連想した。


63 名前:364 :2006/03/05(日) 23:57:02.14 0

「なっ……アンタも『スタンド』を……」
「へぇ〜、キミもスタンド使いだったんだねぇ。
 まぁ今はこっちの子と遊ぶから順番ミャォォ〜ン。
 それとも、お姉ちゃんといっしょに戦ってみるかい?」
吉澤さんも人形も驚いている。
当然だ、私だって全身の姿は初めて見たんだ。

これまではチカラを使おうとしたときに、私の右手に
こいつの右手がうっすらダブって見えるくらいだった。
でもこのかすかに不気味な外見を見ても、私は怖いとは思わない。
むしろ誇らしい気分だ!チカラがどんどん沸いてくるみたいだ!

「アミ……」

「なっち姉ちゃん……」


64 名前:364 :2006/03/05(日) 23:57:29.73 0

「…そっか、そういうことだったんだ!
 あーっはっはっはっはっは!!
 なっち全然気付けなかったよ!あーっはっはっはっは!!」
「なっち姉ちゃん…?」
「アミ、そこでなっちを見てて。もう大丈夫、なっちは負けない。
 負けるわけにはいかなくなったべさ」
なっち姉ちゃんの顔が少しだけ柔らかくなった。

「ニャオォォォォ〜ン!こっち無視してるんじゃないよぉう!
 どっちがやるんだい?姉か、妹か!!?」
痺れを切らしたのかダンス☆マンが叫んだ。
「やるのは、なっちだべさ。
 人形をたとえ何体揃えようが、絶対になっちには…なっちたちには勝てないべ」
「何ぃぃ…
 ミャ……その余裕が何分持つか試してやらァァァァ!!」

赤い人形とピンクの人形が突っ込んでくる!
それに合わせてなっち姉ちゃんと白とピンクの『スタンド』も
人形へと駆け出していった
303 :364:2006/03/10(金) 06:54:18.97 0
銀色の永遠 〜卒業するその前にH〜

「ちゅらっ!らっ!」

ガッ!ドスッ!

なっち姉ちゃんはピンクの人形の攻撃を腕をクロスしてガードする。
なっち姉ちゃんの『スタンド』は赤い人形の攻撃に膝で合わせ、そのまま蹴り返し、さらにピンク

の人形に体当たりして突き飛ばした!
でもその隙に他の人形がなっち姉ちゃんたちを取り囲む。
「なるほど…思ったとおり、こいつらは『スタンド』だけど『スタンド』じゃない…
 や、『スタンド』だけど実体があるからなっちも触れるし、
 向こうもなっちの『チェイン・ギャング』に触れる、といったところか…」
「だったらどうするかなぁ?コナゴナにするってんならしてもらおうじゃないのぉ!?」
ダンス☆マン人形の叫びと同時に取り囲んだ人形がなっち姉ちゃんに突っ込む!
「行くよ!なっちの『チェイン・ギャング』!!
 ちゅららららららららららららららーーっ!!」

ガッガッガッゴッガッバキッ!!

なっち姉ちゃんは『チェイン・ギャング』と背中合わせになって、
人形の攻撃をあるいは受け止め、あるいは捌き、
あるいは肘や膝を合わせてカウンターを決めている!
すごい…演劇部の練習の一環で合気道を習ったことがあるとは
言ってたけど、こんなに強かったなんて!
ガッガッガッガッゴッガッゴッゴッゴスッ!
なっち姉ちゃんはさっきから一撃ももらってない。
確かに、この調子だったらなっち姉ちゃんはあれだけの数相手でも勝てるかも!
そう思ったときだった。


304 :364:2006/03/10(金) 06:54:57.38 0

「まずいな…急がないと…」
吉澤さんがそう呟いて壁際に行くと、おもちゃ箱の中身をゴソゴソやりだした。
「何がまずいんですか?なっち姉ちゃん全然有利じゃないですか」
「……安倍さん、今のままじゃ負けるよ」
「そんなはずないですよ!今だって、あんなに…」
そう言いながらなっち姉ちゃんのほうを振り返った。

ガッガッガッバキッガスッ…

相変わらず、なっち姉ちゃんは人形たちの攻撃を受け止めたり受け流したりしてる。
でも…さっきとなんか違う。
「あれ…?」
なっち姉ちゃん、反撃してない…?
さっきは攻撃を防ぎながら、隙を見て蹴りを入れたりして反撃してたはずだ。
今は防戦一方になってる。

「安倍さんと戦ってるの、高橋と道重と、ほかにも病院に入院してる
 演劇部の連中のスタンドなんだよ。
 まぁ能力を使ってこないし、本物かどうかわかんないけど」
「えっ…」
「スタンドを傷つけたら本体も傷つくから、万一を考えて安倍さんは全力で戦ってない」
だからさっきの高橋さんも…。
「安倍さんの能力じゃあ、あのスタンドどもまでコナゴナにしちまう」
「でも、それじゃあなっち姉ちゃんが…」


305 :364:2006/03/10(金) 06:55:25.50 0

バキッ!

「うっ!」
私の呟きとほぼ同時に、なっち姉ちゃんが殴られて倒された。
ピシッ…
なっち姉ちゃんのスタンドが手をついた床に一瞬ヒビが入る。
すぐさま元に戻ったが、あれがなっち姉ちゃんの能力らしい。
「っつ…ちゅらぁぁっ!まだまだっ!」
すぐに飛び起きてまた人形…スタンドに立ち向かう。
さっきのなっち姉ちゃんの顔。あのなっち姉ちゃんが絶対に負けるわけがない。
でも…攻撃できないんだったらどうやって勝つ?
私も『スタンド』を出したはいいけど、正直、私のチカラでどうなるとも思えない。

「一番手っ取り早いのは、本体を見つけて叩くことだ」
「えっ?」
思案に沈んでた私は吉澤さんの言葉に反応できなかった。
「さっきあの人形野郎が言ってた。
 この空間を操ってる人形野郎の本体はこの中に紛れてる、ってな。
 確かに、数は多いけどこの中にいるとしたら、それを叩ければ可能性はある。
 本体さえ潰せばこの空間は維持できなくて元の病院に戻れるはずだ」
「問題はどうやって本体かを見分けるかだが…見分ける方法がない以上、
 虱潰しにやるしかねぇ!」
吉澤さんはまたおもちゃ箱の中を探り始めた。
何百何千ある人形の中からたった1個の本物を探す…
しかも、本物を触っても本物と分かるわけでもない。
それでも吉澤さんはやるというのか!


306 :364:2006/03/10(金) 06:56:19.39 0

ガッガゴッガッガッガスッガッガッ…
相変わらずなっち姉ちゃんは防戦一方だ。
ヘビや小人はともかく、5人相手に『殴り合い』をしてるんだから当然だ。
それもさっきよりもさらに攻撃を受け流したりするんじゃなくて
ガードする頻度が増えている気がする。
多分なっち姉ちゃんも高橋さんたちのスタンドとここでまともに
勝負して勝てないのは分かってるんだ。
それでも勝負を挑んだ!無謀と分かっているのに!!
なっち姉ちゃんは怖くはないというのか!?

違う。
怖くないわけがない。でもそれを乗り越えたんだ!
確かにノミのように勝ち目がない巨大な敵に向かっていくのは無謀かもしれない。
でも、なっち姉ちゃんは私にスタンドを知られる恐怖を乗り越えた!
だから私の前でああして戦っていられるんだッ!
「勇気」とは「怖さ」を知ることッ!「恐怖」を我が物とすることッ!!
現になっち姉ちゃんのあの目は勝利を確信している目だ!
なっち姉ちゃんも吉澤さんも諦めてない。私も諦めるわけにいかない!


307 :364:2006/03/10(金) 06:56:51.43 0




「Answer Me…『教えて』………」
私は床に転がっていた道重さんの人形をAnswer Meで拾い上げてチカラを発動させる。
「吉澤さん?ちょっと、いいですか?」
そしてそのまま吉澤さんに話しかけた。
「何?あんまり余裕がないから手短にね」


「道重さゆみさん、1984年7月13日生まれの15歳。
 ニックネームは「さゆ」「シゲさん」、だけど「さゆみん」と呼ばれたがっている。
 演劇部には去年の6月に入部、同期入部は藤本美貴さん、亀井絵里さん、田中れいなさん。
 スタンド名は『シャボン・イール』、あそこにいる紺色のヘビ…
 いや、ウナギのスタンドで、シャボン玉型の爆弾を吐き出す。
 ……合ってますか?」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ





308 :364:2006/03/10(金) 06:57:21.97 0


「な…なんで、そんなことを…」
「合ってるんならいいです。
 本体は私が見つけますから、見つけた後のこと、お願いしていいですか?
 多分、本体を捕まえられるのは吉澤さんだけですから」
「お、おい…まさかっ!?」

私の能力は右手で触れることで対象の記憶を読み取る能力!
サイコメトリー、っていうんだっけ?こういうの。
本体に触れさえすれば、私なら本体を見分けることができる!
私は道重さんの人形を吉澤さんに放ると、なっち姉ちゃんたちの戦いの輪に向かって走り出した。
ダンス☆マンの本体の居場所の前に確かめなきゃいけないことがある!

ヒュンヒュン!
「Answer Me!」
高速で飛んできた金色の小人2体をスタンドでガードする。
痛い…石でもぶつけられたみたいだ。
やっぱり、スタンドのダメージは本体に還る、ってのはホントみたいだ。
腕にアザとかできてるかもしれない。
でもひるんでなんていられない!
「アァァァァァァァァァァァァンサァァァァァァァァァァミィィィィィィッ!」
なっち姉ちゃんを取り囲んでいた『小川さん』…いや、小川さんのスタンドに殴りかかる!

ゴブォッ!!




309 :364:2006/03/10(金) 06:57:55.81 0


「ぐえっ…」
腹に…振り向きざま、カウンター…

ガスッ!
「う…っ!」
そのまま蹴り飛ばされた。
ダメだ…ある程度予想していたとはいえ、パワーじゃ全然『かなわない』……。
「ミャォォォ〜ン!ゲームの邪魔してんじゃねぇよっ!
 次やったらテメェからヤるぞコラ!」
ダンス☆マンがキレ気味に叫んだ。
「おい、何してんだよ!?大丈夫か?」
吉澤さんに助け起こされる。
「いつつ…大丈夫です…、そして、今のでこのスタンドの謎も大体理解しました。
 本体見つけたら合図出しますよ」
「ちょっと待てって!おいっ!」
私は立ち上がるともう一度、なっち姉ちゃんたちに向かって走り出した。




310 :364:2006/03/10(金) 06:58:38.90 0




さっき、ダンス☆マンは私が割って入ろうとしたとき、『邪魔』って言った。
しかも、ある程度予想していたけど私はぬいぐるみにされなかった。
つまり、部屋の中にいても、ぬいぐるみに変えるためには特定の条件があるということ。
そしてそれは恐らく…

『じゃあっ!あっしのケンカの相手しろやァァァァァァァッ!!』
『宝探しゲームでもするかい?
 そうやってぬいぐるみを壊していけば、いつか本当のボクに当たって壊せるかなぁァ〜?』
『上等だ!やってやろうじゃねぇかっ!』
『次はさゆがやるのっ!!』
『勝負には、カラオケを提案するの』
『やるのは、なっちだべさ』

ダンス☆マンとのゲームを受けること、のはず。
だとすれば、残ってる3人の中でゲームを受けてないのは私だけ。
そして、ここまでの勝負の流れを見る限り、ダンス☆マンはこちらが勝てない勝負を仕掛けてきて

る。
そうすると、吉澤さんの「本体探し」も絶対に見つからないか、手出しできないところにいる可能

性が高い!
だとすると…




311 :364:2006/03/10(金) 06:59:13.27 0

「アァァァァァァァァンサァミィィィィィィィィッ!!」
私は再びなっち姉ちゃんを囲んでいる人形に殴りかかる。今度は茶色のスタンドだ!
やっぱり振り向くと同時にカウンターを入れようとしてくる。
ガッ!
今度は左手でガードする。

ゴシャアッ!

突然茶色のスタンドが吹っ飛んだ。まるで何かを食らったみたいに…。
思わず振り返ると、
「止まるな!何かするんだろ!?」
後ろで吉澤さんが叫んだ。
吉澤さんのチカラ!さっきも何度か見たけど、見えない何かを蹴るチカラみたいだ。
私は左右から殴りかかってくるピンクと緑のスタンドをガードして、
スタンドで倒れた茶色のスタンドに触れた。
「Answer Me、『教えて』!」




312 :364:2006/03/10(金) 07:00:15.76 0
銀色の永遠 〜卒業するその前にI〜


  教えて…貴方はスタンド本体……?

  …………….


答えてくれない!?相手がスタンドだから!?
でもだとするとこれは本体じゃないということにもなるはず…
…いや、『スタンド能力で生み出されたものだから』だとしたら…?
シュルルルルッ!
「しまっ…ムグッ!」
道重さんのシャボン・イールが私の口に巻きつく。
これじゃあ吉澤さんに…!
「アミっ!?」
「ム……ゥゥ……グゥッ!?」
そのまま首にも巻きついて締め付けてきたっ!
「邪魔すんなッつったろーがっ!
 ぬいぐるみにして可愛がってやろうと思ったが気が変わった!
 姉の目の前で殺してやるッ!!」
ギリギリギリ…
やばい…ヤバイ!息が…ッ!
「ム…ムゥゥム…ググゥゥ…」


313 :364:2006/03/10(金) 07:01:06.15 0

「アミッ!」
なっち姉ちゃんも他のスタンドに囲まれてて助けにこれない。

ゴシャッ!
その上茶色のスタンドが私を蹴り転がす。
ガスッ!
「ヴッ!」
ゴスッ!
「ヴグッ!」
ガスッ!
「グゥッ!」
呻き声といっしょに締め上げられた喉から空気が搾り出される。
「ほらほらぁ!ゲームに割り込もうとするとこういう目に遭うんだよぉ!?
 ほらほら!いい勉強になったろう!?」
ガスッ!
「ヴ…」
ドゴッ!
「ヴグッ!」

げ…ゲームに割り込む、ってダンス☆マンが言った…
それがもし、今のことなら…本体は……スタンドじゃ、なくて…やっぱり……
伝えなきゃ…よしざ…さんに……
でも…動け、ない…
ダメだ…このままじゃ、ホントに死ぬ…。
周りが白くなってきた…
なっち姉ちゃん…吉澤さん…気付いて…本体……は…


314 :364:2006/03/10(金) 07:01:51.93 0

「オラァ!見つけたぞこの人形野郎!」

グシャッ!

遠くなる耳に一瞬吉澤さんの声が聞こえた、と思ったら締め付けられている感触が消えた。
「ウッグ…ゲホッ、ゲホッ…」
喉を押さえて咳き込みながら起き上がると、吉澤さんが高橋さんの人形を床に叩きつけていた。
「まさか高橋に化けてやがるとはなぁ…ああっ!?」
ゴシャアッ!
吉澤さんがぬいぐるみを蹴り飛ばす。
と、高橋さんのぬいぐるみが膨れ上がり、アフロに黒ずくめの、あの病院で見たダンス☆マンに変

わった。
見つけたんだ…本体を……。

「アミ、大丈夫?」
なっち姉ちゃんが私を支えて助け起こしてくれる。
シャボン・イールたちといっしょに、スタンドたちも消えたみたいだ。
「な、なんっ、とか…、な…っち、姉ちゃん、こそ……」
まだ苦しくてうまく喋れないけど。
「こんなの、かすり傷っしょ、アミに比べたら…」
「ニャ…なんで!?何で、ボクの本体が……!?」
「これまでの展開見てりゃ丸分かりだろうがよ。
 お前が絶対に俺らが手出しできないか見つけられないものに化けてるのは。
 安倍さんの妹さんがギリギリでそのことを教えてくれた」
吉澤さんが私のほうを指差す。え?どういうこと?
「アミ…これ、気付いてないの?自分で書いたんじゃないの?」
なっち姉ちゃんが私の服を引っ張る。
そこには、血のような真っ赤な字でこう書かれていた。

『私はいま、なっち姉ちゃんの助太刀をした』




315 :364:2006/03/10(金) 07:02:23.95 0

「本体かどうかを確認するためにスタンドに立ち向かった安倍さんの妹さんが
 やった行動が『本体探し』じゃなくて『安倍さんの助太刀』…
 つまりそのスタンドどもの中に本体はいないってこった。
 そしたら、演劇部員の格好をした人形しかいねぇだろ。
 道重も違うし、他の演劇部の連中よりは、人形になってる瞬間を見た
 高橋のほうが確率高いと思ったからなぁ!」
「そ、そんニャ…」
「さぁ、ゲームは俺たちの勝ちだ!今度こそ元の病院に戻してもらおうか!」
それにしても、いつの間に私、これを書いたんだろう。
自分でも身に覚えがない。
でもあの絞め落とされる瞬間浮かんだことを思い出すと、
これを書いたのは…

「AnswerMe?」
私が呟いた瞬間、部屋中が眩しく輝いた。慌てて目をぎゅっと閉じる。

サァァァァァァァァァァァァァァァァァァ……

次に目を開いたとき、私たちは、元の病院の病室に戻っていた。












316 :364:2006/03/10(金) 07:03:24.58 0
銀色の永遠 〜卒業するその前にJ〜



「結局、偶然とはいえあの部屋の中で私たちが唯一勝てるゲームが、
 吉澤さんの受けた『本体を見つけられるかどうか』なんですよね」
「安倍さんの妹さんに教えられるまで判んなかったけど、
 気付いてみれば単純な言葉のトリックだったんだよな」
「あの高橋が、例え4対1だろうとあんなにあっさり降参するわけないっしょ」
「最初に壁をブチ破ろうとしたときも、俺や道重の能力はともかく、
 高橋の能力なら能力の壁といえど一瞬であれ凹むはずだからな」
「よっすぃーもシゲさんも自分のことで手一杯で高橋のスタンドまで見てなかったし。
 なっちだってアミのことかばうのでいっぱいいっぱいだったし」
「一番最初に戦った、と見せかけて、その時にはもうぬいぐるみにしてたんですね」
「まーったく、卑怯なやつっしょ。さて、コイツどうしようか?」
病室に戻ってきた私たちは、崩れ落ちているダンス☆マンを見下ろしながら
こんな会話を繰り広げていた。
そう、一番最初にやられたと思っていた高橋さんこそが、
実はあの空間の本体、ダンス☆マンだったんだ。
どうやら、私たちが目を覚ます前から高橋さんに成りすましていたらしい。
ちなみに、人形にされてた道重さんと高橋さんは
元に戻ったけどまだベッドで気絶したままだ。



317 :364:2006/03/10(金) 07:03:53.44 0
「アミ、好きにしていいよ。一番酷い目に遭ったのアミだし」
「好きなだけやり返してやんな」
「ミャ…ヒ……ヒィッ!」
そうだ、私はコイツにあの空間でボコボコにされたんだ。
同じくらいやり返してやらないと気が済まない!
「じゃあ遠慮なく…『Answer Me』!」
「ヒッ…ヒィィィーーッ!!」
スタンドの『左手』でダンス☆マンに触れる。
「私があの部屋で受けたのと同じ痛みを味わってもらうね…
 この痛み……AnswerMe、『気付いて』!!」

バリバリバリ……ドッバァァァァァァァァァァァン!

「ギャ……ッグ、グゥゥゥゥゥーーーーーーッ!!」
あの空間で土壇場で発動したこの力。
AnswerMeは人や物から情報を読み取るだけじゃなくて
自分の感覚とか情報を他のものに伝えることもできるみたいだ。
私があの部屋で受けた『痛み』『苦しみ』をダンス☆マンに伝えてみた。
骨とか内臓には異常はなさそうだけど、けっこうボコボコにされたしね。
首も絞め殺されそうになったし。
初めてにしてはうまくいったみたいだ。


「あ…ァァ…あぅあぅあぅ…」
「てめー、これで終わったなんて思ってねぇだろうな?」
「アミはよくても、なっちの可愛い妹をあんな目に遭わせた
 オトシマエはしっかりつけさせてもらうべさっ!!」
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「Be Up&Doing!!!!!!AUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAU!!!!!!!!」
「ちゅらららららららららららららららららららららららららららららぁーーーーッ!!!!!」

ドッギャ〜ン!


318 :364:2006/03/10(金) 07:04:43.03 0



高橋さんと道重さんは、あの後すぐに目を覚ました。
あの部屋に行ったことは覚えてるけど、人形にされたあとのことは覚えてないらしい。
廊下や他の病室の、あの空間で人形にされてた人たちもそれぞれ元の場所に戻れたみたいだ。
窓の外はもう真っ暗になっていたし、ほかの演劇部の皆さんも気がつくのに
時間がかかるだろう、ということでなっち姉ちゃんと吉澤さんは
ほかの部屋にお見舞いに行かず、すぐに帰ることになった。
3人での帰り道、吉澤さんに『彼氏さん』のことを話すとものすごく笑われた。
別に演劇部員の人と付き合ってる、というのは今はないみたい。
何故かなっち姉ちゃんは照れて真っ赤になってたけどw

別れ際に吉澤さんが私に何か言いたそうだったけど、なっち姉ちゃんが言わせなかった。
多分、私のチカラで、病室で立ち聞きした『ごっちん』さんを探してほしいと思ったんだと思う。
でも多分、なっち姉ちゃんは私にそれをしてほしくないんだ。
いや、『ごっちん』さんは見つけたいけど、私を巻き込みたくないんだ。
だから、私は首を突っ込まないようにすることにした。
私のチカラはなっち姉ちゃん吉澤さんと、3人だけの秘密になった。


結局私はなっち姉ちゃんの家に泊まることになった。
怪我の手当ては家に帰ってからなっち姉ちゃんがしてくれた。
病院で手当てしなかったのは『病室の窓から長身でアフロの人が飛び降りた事故』との
関係で面倒なことになるのを避けるため、なんだそうだ。
手当てしたあと、約束どおり行って、色んなことを語り合いながら
二人で食べたハンバーグは、とっても美味しかった。

駅で会った怪我した女の子や、高橋さんや道重さんにもまた会いたいし、またこの町にも来たいと

思った。
さすがになっち姉ちゃんも今回みたいにこっそり来るよりはマシだと思ったのか、
事前連絡することを条件に許してくれた。
こうして、私の杜王町への旅行はとっても実り多いものに終わったんだ。


319 :364:2006/03/10(金) 07:05:31.56 0









トゥルルルルル…トゥルルルルル……

ピッ

「…もしもし?」
『………』
「あぁ、アンタか、どないなった?」
『………』
「ってことは結局アカンかったんや?」
『………』
「まぁしゃあないわな、あんまり露骨にやると俺のこと怪しみだすよってな」
『………』
「俺ントコにおる能力者に『忘れさせ』てもよかったんやけど、それやったら他の連中が黙ってな

さそうやし」
『………』
「アイツは付き合い長い分俺の考えもよく知ってるよってな」
『………』
「まぁ襲わせといて何やけどアイツなら演劇部を離れても俺に牙を剥くこともないやろ、しばらく

は監視もつけるつもりやけど」
『………』
「とりあえずコマ貸してくれてありがとさん、埋め合わせは今度するわ」

ピッ

ツー ツー ツー


320 :364:2006/03/10(金) 07:05:54.40 0





安倍麻美   軽傷
スタンド名:Answer Me

ダンス☆マン 再起不能
スタンド名:ミラーボーリズム


TO BE CONTINUED…