00 :六部198:2005/11/28(月) 20:35:49 0
銀色の永遠 〜ストレイ・シープ〜1

(お姉ちゃん・・・今どこでどうしてるの?)
活気のある演劇部の部室の中、『道重さゆみ』は窓際で一人ため息を付いていた。
最近、行方知れずの姉のことばかり考えている。
亀井と遊んでいるときや、久住の指導に熱中しているときは、幾分か気が紛れるが、
亀井は鏡の前でダンスの練習をしており、話しかけられる状況ではない。
そして久住は風邪を引いてしまったらしく、学校を欠席していた。

(今日のさゆみは可愛くないの・・・)
自己陶酔に浸るべく鏡の前に立ってみたが、
鏡に映る自分は別人のように可愛くなかった。
(・・・帰るの・・・)
道重は部室を出ようと扉に手をかけた。
「あれ?さゆ?どうしたの?」
それに気づいた亀井が練習を中断して声をかけた。
「今日は気分が乗らないの、だから帰るの」
「あ、それなら僕も一緒に・・・」
「平気なの、それに・・・ちょっと一人になりたいの」
亀井の言葉を遮って、道重は一人部室を後にした。
「さゆ・・・?」


101 :六部198:2005/11/28(月) 20:43:29 0
銀色の永遠 〜ストレイ・シープ〜2

校舎を出て正門に向かう途中、道重はなにやら視線を感じて立ち止まった。
(ん?)
見ると正門の陰にギリギリ隠れるように、誰かが立っていてこちらを見ている。
(・・・!!あれは?!)
よく見てみると『それ』は、行方不明中である姉の姿であった。
「お姉ちゃんッ!!!」
そう叫ぶと、姉は「スッ」と正門の陰に隠れてしまった。
「待って!」
道重は正門に向かって走り出した。

だが、正門には既にその姿は無かった。
(あれ?どこに・・・?)
周りを見回すと、50メートル程先の路地に姉が入っていくのが見えた。
「待ってなの!!」
道重は必死の思いで後を追いかけた。


123 :六部198:2005/11/29(火) 00:56:32 0
銀色の永遠 〜ストレイ・シープ〜3

はあ・・・はあ・・・

(なんで追いつけないの?)
姉はただ歩いているだけなのに、いくら走っても走っても何故か追いつけない。
そして必ず曲がり角に入っていく後姿だけが見える。
(・・・・何かおかしいの・・・でも・・・)
道重は心の中で違和感を覚えながら、それでも姉の影を追った。

やがて建物の中に姉が入っていくのが見えた。
「ここは・・・?どうしてこんな所に・・・」
道重は一度足を止め、息を整えた。
そこは現在使われていない廃工場であった。

いつの間にか日が落ち、周辺は暗くなり始めている・・・
道重は不安だったが、僅かな希望を頼りに工場の中へ入っていった。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・


124 :六部198:2005/11/29(火) 00:58:24 0
銀色の永遠 〜ストレイ・シープ〜4

シクシク・・・・シクシク・・・・・

薄暗い工場の中に女のすすり泣く声が響く。
「お姉ちゃん!どこにいるの?!」
道重は大声で叫んだ。
「・・・さゆみ・・・なのね?」
奥から自分を呼ぶ声がした
目を凝らしてみると、大きな古い機械の陰に女がしゃがみ込んで
両手で顔を覆っているのが見える。

「お姉ちゃんッ!!」
道重が駆け寄ってみると、
その姿はまさしく姉のプリンセスさゆみん(以後さゆみん)であった。
「駄目っ!来ないで」
さゆみんは顔を覆った手の片方で制した。
「え?どうしてっ?!」
道重は意味がわからず聞き返す。
「だって・・・私のこと、きっと嫌いになるわ・・・」
そう言うとさゆみんは、またシクシクと泣き出した。
「?何を言っているの?さゆみがお姉ちゃんのことを嫌いになるわけないの!」

シクシク・・・・シクシク・・・・・


125 :六部198:2005/11/29(火) 01:01:20 0
銀色の永遠 〜ストレイ・シープ〜5

「だって昔さゆが飼ってたうさぎを逃がしちゃったことがあったでしょ?
そのとき、すごく怒って私のこと嫌いって言ったでしょ?」
「・・・あの時は確かに怒ったけど、もうそんなことはどうでもいいの!」
道重はそう言って一歩さゆみんに近づく。

ザザザッッ!!!

しかしさゆみんは、素早い動きで更に奥の機械の陰に隠れてしまった。
「それに、私・・・あなたの名前を勝手に使って仕事をしてる・・・」
「そんなこと大した問題じゃないの!さゆみはお姉ちゃんのことが大好きなの!」
「本当に?どんなことをしても許してくれるの?」
「当たり前なの!」

シクシク・・・・・シクシク・・・・・・・

「お姉ちゃん・・・さっきからどうして泣いてるの?何が悲しいの?」
道重はさゆみんに近づきながら尋ねた。
「・・・悲しい?違うわ・・・悲しいから泣いてるんじゃないの・・・嬉しいのよ・・・」
そう言ってさゆみんは立ち上がり、クルッと道重の方に向き直った。
「!!!」
その顔は道重の知っているさゆみんではなかった!
顔が半分崩れた『化け物』であった!
「さゆのことを食べられるから嬉しいのよッ!!!」

ギャウウウウゥゥゥゥゥンンンンンン!!!

さゆみんの形をした化け物は道重に飛び掛り、右肩に喰らいついた!
「うあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」
工場内に悲鳴が響いた。


126 :六部198:2005/11/29(火) 01:03:53 0
銀色の永遠 〜ストレイ・シープ〜6

ブヂイィィッッッ!!!

嫌な音を立て、道重の右肩の肉が食いちぎられた。
「ああああ・・・・!シャボンイールッ!!」
たまらず道重がスタンドを出すと、さゆみんは素早く飛び退いた。

ザザッ!!

「・・・・ッ!痛いのおお!!!」
痛みに耐えかねて道重はひざをついた。
「ゴメンね・・・痛かった?でも・・・さっき言ったよね?どんなことをしても許してくれるって・・・
私もさゆのことが大好き・・・だから残さずに全部食べてあげる」
さゆみんの声がどこからともなく響く。
(くそったれなの!声が反響してどこにいるか掴みづらいの!)

ザザザッ!カンカンカン!!!

工場内を飛び回る音がする。
(ま・・・また来るの?)

ザッ!

すぐ後で足音が聞こえた。
「そこなのッ!」
すかさず振り向いてスタンドを構えた。


127 :六部198:2005/11/29(火) 01:08:47 0
銀色の永遠 〜ストレイ・シープ〜7

「きゃあッ!!」
予想どうりそこにさゆみんがいた。
しかし・・・攻撃できない・・・。
「さゆ・・・やっぱり私が嫌いになったの?さっきの言葉はウソだったの?」
さゆみんは潰れた目から涙をこぼした。
「うう・・・」
それを見た道重がうめくと、さゆみんはニヤリと笑って
今度は太ももに噛み付こうと飛び掛った。
「ガルアァァッ!!!」

バシイッ!!

しかし、寸でのところで道重はスタンドでガードし、噛み付きを退けることが出来た。
そして再びさゆみんは暗闇の中に消えた。
「お姉ちゃん!どうしてッ?!どうしてこんなことをするのッ?!」
道重は涙目で暗闇の中にいるであろう『さゆみんに』に叫んだ。

「『お姉ちゃん!どうしてッ?!どうしてこんなことをするのッ?!』」
道重のセリフが鸚鵡返しにされた。
それは、さゆみんの声ではなく男の声だった。
裏声を使って、あからさまにコケにした感じだ。
「おめバカじゃねーの?!!!まだ気づかないのかよ!
スタンド攻撃だよ!S・T・A・N・D攻撃!!」
工場の2階部分にあたる通路から男が姿を現した。


191 :六部198:2005/11/30(水) 05:48:36 0
銀色の永遠 〜ストレイ・シープ〜8

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・

暗くて顔は判断できないが、影から想像すると、
長身で筋肉質・・・いや、少し太って見えるか・・・。
「まんまと引っ掛かりやがって!このド低脳がぁっ!!」
男は道重を散々侮辱すると、続けて大声で笑った。
「ほら、ぼやぼやしてると『大好きなお姉ちゃん』がマヌケな妹を喰いに来るぞ!」
男が言うと、さゆみんが飛び回りながら近づいてくる音がする。

カンカンカン!!!

「!!どこから?」
道重が慌ててスタンドを構える。
「ガアアアァァァッ!!!」
さゆみんが唸り声をあげて、正面から飛び掛ってきた。

ズブウッ!

さゆみんの歯が道重の首筋に食い込んだ。
「うあああああ・・・・!!!」


192 :六部198:2005/11/30(水) 05:50:56 0
銀色の永遠 〜ストレイ・シープ〜9

(・・・こんなところで死ぬわけにはいかないの・・・でも・・・意識が・・・)
薄れ逝く意識の中、うっすらと前方に亀井の姿のようなものが見えた。
(ああ・・・絵里・・・でもこんなところにいるわけないの・・・幻覚が・・見え・・・・て・・・)
亀井がどんどんこちらに向かってくる。
「おい・・・・誰・・・お・・・・はっ?!!!」
二階の男が何かを叫んでいる気がする。
その瞬間!

モグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグ!!!!!

ドッギャーーッ!!!

「ウェーウェー!!」
首に突き立てられた歯が離れ、さゆみんの身体が宙に浮き、
そして地面に叩きつけられた。

ドスン!

「さゆっ!!しっかり!!」
それは紛れもなく『亀井絵里』だった。
亀井は道重を抱きかかえると、声をかけ励ました。
「絵里・・・なの・・・?でもどうしてここが・・・?」
「さゆが心配で・・・悪いとは思ったけど、後を尾いてきたんだ!
突然走り出したから一回見失ったけど・・・ああ・・・こんなに傷ついて・・・
あの時無理にでも一緒に帰っていれば・・・」
亀井は後悔の念を露にした。


193 :六部198:2005/11/30(水) 05:52:48 0
銀色の永遠 〜ストレイ・シープ〜10

「うう・・・くそが・・・」
男のうめき声が聞こえる。
さゆみんは男のスタンドであり、スタンドがダメージを受けたので
当然男の身体にダメージが返ってきているのだ。
「お前!!人の弱みに付け込んで・・・なんて卑怯な奴なんだ!」
亀井は男に向かって叫んだ。
「うるせー!!弱点を突くのは当たり前だろーが!甘いこと言ってんじゃねー!!」
男は亀井に向かって中指を突きたてながら怒鳴った。
「このっ・・・」
「いいの・・・絵里・・・」
道重が亀井の手を離れ、一人で立ち上がった。
「たしかに・・・アイツの言う通りなの・・・さゆみが甘かったの・・・」
「・・・」
「途中からおかしいとは思っていたの・・・でも・・・アレが『お姉ちゃんかもしれない』
と一瞬でも思ったのなら・・・追いかけていかないわけにはいかなかったの・・・」
「さゆ・・・・君ってやつは・・・」

「おい!感動に浸ってんじゃねーぞ!」
男が二人の会話に割り込んできそう言うと、さゆみんの姿をしたスタンドが再び襲い掛かってきた。
「お前は確か、亀井絵里だなっ?!ちょうどいい!てめーらまとめてぶっ殺してやるぜ!!やれっ!ネイキ

ッド・キング!」
(・・・ッ?どうして僕のことを?いや、今はそれよりもさゆを守らなきゃ!!)

ドドドドドドドドド・・・・・

196 :六部198:2005/11/30(水) 06:27:39 0
銀色の永遠 〜ストレイ・シープ〜11

ギャーーースッッ!!!

『ネイキッド・キング』と呼ばれる『さゆみんの形をした』スタンドが向かってきた。
すかさず亀井は道重の前に立ちはだかり、『モグモグ・ウェーウェー』の体制をとる・・・が・・・

ギャリイィィッッ!!

「ぐあああ!!!」
通り過ぎざま、腹に爪の引っ掻きを受けダメージを喰らってしまった。
(・・・くそっ・・・躊躇してしまった・・・さっきはとっさに行動できたが・・・
まがりなりにもさゆのお姉さんの姿・・・それを攻撃したら、さゆは悲しむかも・・・)
亀井は腹を庇いながら振り返った。
道重は壁に寄りかかって、苦しそうに下を向いている。
「男のくせに恥ずかしくないのかーッ?!こんな卑怯な真似をして!!」
「はははは!!何とでも言えッ!!」
「くそったれー!!」
亀井は口を憚らず罵った。
だが男はそれを無視する。

「絵里・・・それはだめなの・・・」
道重が口を開いた。
「へ?」


197 :六部198:2005/11/30(水) 06:28:36 0
銀色の永遠 〜ストレイ・シープ〜12

亀井は、突然道重をおかしなことを言うので、思わず間抜けな声を出してしまった。
「そんな汚い言葉を使っちゃいけないの・・・」
こういうときは、今から言うようなセリフを言ってからキメルの」
道重は亀井の前に出てシャボン・イールを構えると、
声高にこう続けた。

「我が名は『道重さゆみ』我が愛しき姉の魂の名誉のため!」

「我が友『亀井絵里』の優しき心に報いるため!!」

「この私が貴様を絶望の淵へ叩き込んでやるのっ!!」

バアアアアァァァンンンンンンンン!!!!!!!!

「私は覚悟を決めたの!!」
「おい!何をするつもりだッ!!」
尋常じゃない雰囲気に男が口を挟む。
「こうするのッッ!!!必殺!シャボン玉ああああ!!!!」
そう叫ぶとシャボン・イールがシャボン爆弾を半径15メートル程に目いっぱいばら撒いた!


198 :六部198:2005/11/30(水) 06:29:57 0
銀色の永遠 〜ストレイ・シープ〜13

ドシュウううウゥゥゥゥゥ!!

工場内に、みるみるとシャボン玉が充満していく
それは勿論、あの本体である男の近くまで届いている。
「ちょ!?さゆッ!!!」
「絵里も覚悟を決めるのッ!!!」
道重は亀井の頭を押さえ、地面に伏して防御体制をとった。
「これは?!たしかシャボン爆弾?!おい!そんなことをしたらお前らまで・・・」
男が動揺して叫ぶと同時に爆発が起きた!

ボンッ・・・・ボン・・・ボン!

シャボン爆弾が誘爆を繰り返し始める!
「くそっ・・・まずいッ!ネイキッド・キング!戻って俺を守ッ・・・・」
しかし時は既に遅く、爆破の連鎖は止まらない。

ボン!!ボン!!!!ボン!!!!!ボ・ボ・ボボボボボボ!!!!!!

「やめろーーーーーー!!!!!!!」

ドガアアアアアアアアアアアアァァァァンンンンンンンンンンン!!!!!!


199 :六部198:2005/11/30(水) 06:34:43 0
銀色の永遠 〜ストレイ・シープ〜14

ンンン・・・・ンンン・・ンンンンンンン・・・・・・・・・

「うう・・・・耳鳴りが・・・」
爆発が収まり、亀井は立ち上がった。
「ゴホッゴホッ・・・凄い煙・・・」
まだ煙が充満しており、おもわずむせ返った。
「ハッ!さゆっ?!大丈夫?!」
亀井は、地面にうつ伏せになっている道重に声を掛けた。
「う・・ん・・・平気なの・・・一応さゆみ達の周りにはシャボン爆弾を配備しなかったから・・・」
とはいえ、偽さゆみんに噛み付かれ、さらに爆風を浴たその姿は、とても『平気』には見えなかった。

煙が晴れ、工場内を見回してみると機材などの殆どが吹っ飛び、床に散乱していた。

「てめえ・・・正気じゃねーぜ・・・・」
「ッ?!」
その声に振り返ると、ボロボロになった男がいた。
距離が離れていたためか、命を奪うまではいかなかった様だ。
とっさに亀井がスタンドを構え警戒する。

ズシャア・・・・

が、男はその場に倒れこんでしまった。
「俺の負けだ・・・もう力がでねえ・・・」
観念したのか、仰向けに大の字になって息をついた。
「・・・お前・・・なぜさゆを?・・・それに、僕のことを知っている。
・・・一体お前は何者なんだ?」
亀井はスタンドを構えたまま尋ねた。
道重も傷ついた身体を起こし、男を見ている。


200 :六部198:2005/11/30(水) 06:38:09 0
銀色の永遠 〜ストレイ・シープ〜15

バサッ・・・

男はこちらにボロボロになった手帳のようなものを投げてきた。
見てみると爆発の衝撃でかなりの部分が無くなってしまってはいるが、
演劇部の部員の写真が貼ってあった。
よくみると、道重の写真の欄に赤いペンでチェックが入っている。
亀井は手帳を道重にも見せた。
「これは・・・?」
「写真の裏も見てみな・・・」
男に促され写真の裏を見ると、そこには・・・

『中等部3年 道重さゆみ・・・シャボン玉の爆弾を吐く。注・・・射程もなかなかある』
『中等部3年 田中れいな・・・殴ったものを石みたくする。注・・・他に変な技みたいなのを使う』
・・・etc

「僕のもある・・・一体なんでこんなものが?!」
「おっと・・・これ以上は言えねーよ・・・こんな俺にも誇りがある・・・」
「もしかして・・・お前・・・山下や成宮と同じ・・・」
「・・・成宮・・・?誰だそりゃ?・・・まあとにかく、これ以上は何されても言わねーよ」
男の目には固い決意めいたものが窺えた。
おそらく本当に何をしても言わないだろう・・・
「お前・・・名前は・・・?」
その意思に少しばかりの敬意を感じた亀井は、男の名前を尋ねた。
「・・・香取・・・香取慎吾だ・・・」
「・・・そうか・・・さゆ・・・行こう・・・」
それを聞くと亀井は道重を抱きかかえて外に出ようとした。
「おい!止めを刺さなくていいのか?」
香取は亀井達の背中に声を掛けた。


201 :六部198:2005/11/30(水) 06:40:57 0
銀色の永遠 〜ストレイ・シープ〜16

「正直言ってさゆをこんな目に会わせたお前が憎い・・・
でも僕は殺人者にはなりたくないし、さゆもそこまで望んでないだろう・・・」
亀井は振り向かずに答えた。
「この期に及んで甘めー事言ってんじゃねーよ・・・
俺はまたお前らを襲いにくるかもしんねーぜ・・・」
「そのときは、またお前をぶちのめすだけなの・・・」
亀井の代わりに今度は道重が答え、こう付け加えた。
「たぶんもうすぐ救急車や消防車がくると思うの
動けないならそこで救助を待つの」
「・・・くそったれどもが・・・」

ウーーーー・・・ウーーーーー・・・・

サイレンの音が近づいてきた。
あと何分もしないうちにここに到着するだろう。
面倒になりたくないので、二人は急いでその場を離れることにした。


202 :六部198:2005/11/30(水) 06:47:12 0
銀色の永遠 〜ストレイ・シープ〜17

工場を脱出した二人は、そこから少し離れた小さな公園のベンチに腰をかけた。
「あいたたた・・・やっぱ僕達も救助を待てばよかったかな・・・」
「さゆみは平気だけど、絵里がヤバイなら、一人であそこまで戻って救助を待てばいいの」
亀井は自分と道重の身体を交互に見た。
「はあ・・・何言ってんだよ・・・さゆの方が重傷じゃないか・・・」
自分は腹を少し引っかかれた程度。
一方の道重は、肩の肉を喰いちぎられ、首筋からの出血は少しは収まってきているが
やはりダメージは大きい。
幸いなのは爆風をモロに喰らっていないことだった。

「それにしてもこの手帳・・・やっぱり気になるな・・・
香取はしらを切っていたけど、山下達と関係が・・・」
手帳を取り出して部員達のデータを見た。
「それに簡単ではあるけれど、スタンドの能力のことまで・・・
どうやって調べたんだ?」
言いながら焼けたページをパラパラとめくる。
「多分これには全員のデータが載っていたんじゃないかな?
もしかして・・・考えたくないけど・・・ん?」

フイに道重が肩に寄りかかってきた。
「・・・さゆ?・・・どうしたの?」
道重はそれに答えずに身体を預ける。
(ハッ!!)
亀井はあることに気づいた。
(・・・これは・・・チャンス?!)


203 :六部198:2005/11/30(水) 06:51:37 0
銀色の永遠 〜ストレイ・シープ〜18

ドキドキ・・・

(そうだ!僕はまたさゆのピンチを救ったんだ!
もしかして・・・さゆも僕のことが・・・)
亀井は道重の肩の傷に触れないように手を回した。

・・・・・
・・・

(やったー!拒否られない!!!)
心の中でガッツポーズした。
(そういえば何かの本で読んだことがあるぞ!
『危機的状況を共に切り抜けた男女には恋愛感情が生まれやすい!!』
そういうことなんだなッ!心で理解したッ!
よし!今が告白のチャンスなんだッ!)

ドキドキ・・・ドキドキ・・・

「さゆ・・・こんなときだけど・・・僕はずっとさゆのことが・・・」

ドックン・・・ドックン・・・

(ああ〜心臓が破裂しそうだアあっ!!)


220 :名無し募集中。。。:2005/11/30(水) 16:42:28 0
銀色の永遠 〜ストレイ・シープ〜19

「ボ・・・ボ、ボ、ぼ、僕はさ、さ、さ、さゆの・・こ、ことがああぁぁ・・・好・・」
「お姉・・ちゃん・・・」
「・・・え?」
「・・・・」

道重が震えている・・・それは寒さや傷の痛みではなかった。
いや、痛みであった『心』の痛み・・・
道重は亀井の背中に手を回して強く抱きしめた。
「お姉ちゃん・・・どこにいるの・・・?」
「・・・さゆ・・・お姉さんは・・・」
このとき亀井は、かつて藤本と共に迷う込んだ路地で出会った
幽霊との会話のことを言うべきか迷った。

『君のお姉さんは何者かに殺されたかもしれない』

しかし・・・言える訳がなかった・・・確証がないし、自分もそれを信じたくはなかった。


221 :名無し募集中。。。:2005/11/30(水) 16:51:00 0
銀色の永遠 〜ストレイ・シープ〜20

「ねえ・・絵里・・・」
「ん?」
道重は顔を埋めたままくぐもった声で言った。
「少し・・・泣いてもいい?」

「・・・うん・・・」
少し間をおいて答えると、道重は堰を切ったように声をあげて泣いた。
ずっと我慢していたのだろう・・・
亀井は「よしよし」と優しく背中をさすり、泣き止むのを待った。


道重さゆみ 重傷
スタンド名:シャボン・イール

亀井絵里 軽傷
スタンド名:サイレント・エリザベス(サイレント・エリーゼACT3)

香取慎吾 救急車に運ばれ入院、再起不能。
スタンド名:ネイキッド・キング

後日談・・・
香取は入院後、工場爆破の容疑がかかり、警察の取調べを受けたが
道重達のことは一切口にしなかった。そして、爆発物の痕跡が無く、動機も不明なため
爆破の容疑は晴れた。ただし、不法侵入の件で逮捕されている。


TO BE CONTINUED…