銀色の永遠 〜イッツ・マイ・ライフ〜1

〜加護亜依〜

桃子ちゃんは、腕を賭けることを承諾した・・・
それに、不利な状態からのスタートと、明らかに大きなリスクを受けた・・・そこが怪しい・・・
せやけど、ウチにも腕を賭けることを要求した。
もしも桃子ちゃんがイカサマをするつもりなら、普通こんな要求はせえへん。
いや、『だからこそ』なのかもしれん・・・
あの子にはウチに指を潰された恨みがある。
せやから・・・・

・・・くッ・・・分からん・・・

まあ、ええ。
この勝負は普通に考えれば、こっちが圧倒的有利や。
ジョーカーを引く確率は16%、25%、50%の順に増える。
ふん・・・最後の2枚のときに揺さぶれば、その表情や言動でジョーカーかどうか予想できる。
そして、イカサマやったら、それまでにそのトリックを暴けばええ。
こっちからばらせばその時点で負けや。

「どうしたんですか?ゲームは始まってますよ」
桃子ちゃんが急かしてくる。
これも何らかの作戦やろか・・・
まあ、どっちにしろまずはカードを引かな。
16%に当たることはそう簡単には無い。
「そう急かさんとってえな。初っ端は重要やねんから・・・」
ウチはとりあえず、向かって右から2番目のカードを取ることにした。

銀色の永遠 〜イッツ・マイ・ライフ〜2

〜嗣永桃子〜

私は勝つためならどんな手でも使う。
例えそれが卑怯と誹りを受けるような手であってもだ。
それが私、嗣永桃子の生き方。
イカサマでも、それを見抜けなかった者が悪い。
騙されても、騙された者が悪い。
負けた後にどんなに言おうと、途中で見抜けなかったのが悪い。
結局は『そうされる隙』があったからだ。
隙を見せたらやられる・・・それは、この世の中の全てのことに当てはまる。
勿論、私自身にも・・・だ。

これは、私の勝負運を天に問うものでもある。
もしも策が成らずここで普通に負ければ、私は所詮それまでの女だったということ。
いや、先輩が逆に何かをしたとしても、それは私の責任。
先輩を相手に選んだこという愚を認め、これを戒めとして受け入れよう。

「どうしたんですか?ゲームは始まってますよ」
私はなかなかカードを取らない先輩を煽ってみた。
「そう急かさんとってえな。初っ端は重要やねんから・・・」
・・・冷静だな・・・そりゃそうだ。
これに負ければ、先輩は私のスタンドで腕を吹っ飛ばされるんだから。

「・・・これやな」
先輩がカードを取った。でもこれはジョーカーじゃない。
できればここでジョーカーを取って欲しかった。
そうすれば、この勝負はもらったも同然だったのにな。
まあ、そう簡単にはいかない・・・確実ではないのだから。

銀色の永遠 〜イッツ・マイ・ライフ〜3

〜加護亜依〜

引いたカードはダイヤのA・・・
桃子ちゃんが少しガッカリしたような顔をした。
ジョーカーを引かなかったからかな。

「・・・」
手札の中のスペードのAを合わせ、それを捨てる。
そして、自分の手札を差し出した。
桃子ちゃんは左手が使えないので、一旦自分の手札を置いてからウチの手札から1枚引いた。
案外すぐに引いたな・・・と思ったが、向こうは別に悩む必要はないから当然か。
お互いに悩むとしたら、ウチが桃子ちゃんのカードを取るときや。
こっちはジョーカーを引きたくない。向こうは引かせたい。

この後から勝負は動くな・・・
この子が何かをしているとすれば、この後で見抜いておかないといかん・・・

桃子ちゃんはスペードの10を引いた。
当然、向こうにも10はあるのでそれを捨てる。
そして、右手で残る4枚の手札を持ち、こっちに差し出してきた。

さて、ジョーカーの確率は1/4か・・・
どうしたもんか、考えもんやな・・・

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・

銀色の永遠 〜イッツ・マイ・ライフ〜4

〜嗣永桃子〜

1回目同様、先輩はすぐにはカードを取らない。
カードを取るフリをしながら、黙ってこちらの顔色を窺っている。
こういうことをするってことは、私の仕掛けに気付いていないってことだ。

「・・・フフッ・・・」
先輩が突然、笑みを漏らした。
「どうしたんですか?」
「いや・・・よくよく考えてみれば異常やなって・・・」
「・・・?」
「そうやろ?こんなババ抜きなんかで互いの腕を賭けるなんて・・・
今まで部の指令なんかで幾つもの戦いを経験しとるが、
これは明らかに常軌を逸しとる・・・イカレとるわ・・・」
「かもしれませんね。でも、私は今誇り高い気分です」
「誇り高い?」
「ええ・・・どうしてだか分かりませんが・・・何故かそんな気がします」
私がそう締めると先輩は真剣な表情に戻り、こちらに手を伸ばしてきた。
どのカードを引く気か決まったんだろう。

・・・・・・・・・・・・

先輩はダイヤのQを引き、その後に私はスペードのKを引いた。
これで先輩のカードはスペードのJのみ。私のはダイヤのJとジョーカー・・・
つまり、次で先輩がジョーカーを引くかどうかで、この勝負の決着がつく。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・!!!

銀色の永遠 〜イッツ・マイ・ライフ〜5

〜加護亜依〜

ここが正念場やな・・・どちらかがジョーカー・・・1/2や・・・
これまでに桃子ちゃんに怪しい部分は無かった。
本当に運否天賦の勝負をしかけたんか?

とりあえず、カードを引くときの表情を見てみよう・・・
私は手を伸ばし、右のカードを掴んだ。

「・・・!」
微かに表情が動いた!
これがジョーカーか?!
しかし・・・演技かもしれん・・・ここでホイホイと、このカードを引くわけにはいかん。

もう一方のカードを掴んでみる。
「・・・」
こっちでも同じような反応・・・
いや、どっちでも同じような反応をするかもしれん。
ジョーカーなら、これで桃子ちゃんが勝ちを拾える可能性がでる。
違うたら負ける・・・
どっちにしろ、ここでのウチの行動一つで勝負が動く。

せやけど、ジョーカーちゃうかったら危機感が出るはず!
そこを見定めろッ!
安易に結論付けたら、勝ちを逃す。
こっちも左腕が懸かっとるんや・・・負けられん・・・ッ!

銀色の永遠 〜イッツ・マイ・ライフ〜6

再び右のカードを掴んだとき、妙な違和感を感じた。
なんや?何かが違う・・・
桃子ちゃんの表情じゃない、カードが・・・何かおかしい・・・

・・・???

よく見てみると、カードの隅に・・・赤い何かが付いとる・・・
これは・・・血痕・・・?

これは確か、さっきウチが電話に出ていたときに付いた血やな。
吹き残し・・・か・・・?
その時、ウチの頭にあの時の状況が浮かびあがってきた。

・・・ハッ!!!!

そうや、あのときダイヤのロイヤルのカードは一つにまとめられ、その上にジョーカーを置いた。
血が付いたのは、その後や!
・・・とうことは・・・これはジョーカー?

桃子ちゃんは自由の利く右手だけでカードを拭いた。
だから、完全に拭けずにこの血痕が残った。

一度右のカードから手を離して反対側のほうに手をやり、桃子ちゃんの顔に視線を移す。
その額には、冷汗のようなものが滲んで見える。
さっきとは全然違う感じ・・・これは・・・焦ってとる?
このカードを取られたくないってことか?
ここでこのカードを取られれば負ける・・・そのための冷汗・・・ッ!

銀色の永遠 〜イッツ・マイ・ライフ〜7

・・・なるほど・・・ヘマをしたな・・・
アンタはあろうことか、目印を付けてしもうたんや。
この血痕が付いとるカードはジョーカーや。
なら、ウチは血痕の無い、この左のカードを取ればええ。

フフフ・・・悪いな・・・どうやらこの勝負、ウチの勝ちや。
こっちも腕が懸かっとるからな、負けられん。
恨むなら、自分の気の回らなさを恨むんやな。
ウチは手に力を込め、掴んでいるカード・・・すなわちダイヤのQを引き抜く。


終わりやッッ!!!





ドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・・・・!!!!!!




銀色の永遠 〜イッツ・マイ・ライフ〜8








・・・・・・いやッ!待てッ!!!



違うぅぅぅッッ!!!!!!!!








銀色の永遠 〜イッツ・マイ・ライフ〜9

・・・アホかッ!!拭き残しやと?!
何を考えとる!あるわけないやろがッ!!

自分の腕を賭けた、お互いに負けられない勝負。
こっちがジョーカーを持つならまだしも、桃子ちゃんが持つんやから、
わざわざ印を付けて相手に教えるような、そんな凡ミスをするわけがないッ!

いや、しかし・・・本当に拭き残したのかもしれへん。
滑る机の上で片手で拭いたんや・・・ありえないことではない・・・
そうだとすれば、みすみすこのチャンスを逃すことになる・・・
そして、ウチがジョーカーを引いてしまい、次に桃子ちゃんが
スペードQを引いてしもうたら・・・ウチの負け・・・
FLYHIGHとかいう、この子のスタンドに左腕を吹っ飛ばされる・・・

・・・くッ・・・コイツ・・・・

「・・・」
「・・・」

やはり、やりおったな・・・

ゴゴゴ・・・ゴゴ・・・・・ゴゴゴゴゴ・・・・・

・・・この土壇場で・・・

99.9%・・・いや『100%』・・・コイツは『何かした』・・・

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!!!!!!!!!

銀色の永遠 〜イッツ・マイ・ライフ〜10

何が『イカサマのしようがない』や・・・いけしゃあしゃあと・・・
喰わせもんッ!やはりこの女は喰わせもんや!!
毒蠍ッ!黒蜥蜴ッ!
とんだ策士ッ!!奸雄ッ!!狡猾な悪党ッ!!!

せやけど・・・それもまた好し・・・か・・・

「くっくっくく・・・」
思わず笑い声を漏らしてしまう。
「・・どうしたんですか?」
桃子ちゃんは何食わぬ顔で聞いてくる。
「くく・・『どうしたんですか?』やと?どの口で言うとんのや?」
「・・・え?な、なんのことですか?」
「白々しいな・・・まあええわ・・・」

・・・思い出せ、あの時の状況を・・・
カードに血が付着したとき・・・

・・・いや、待て!!
その前・・・ウチが電話をしていたとき・・・
ちょうど桃子ちゃんに視線を移したとき・・・何かかしていたような・・・
いや、確かに何かしていた・・・あの動き・・・右手を・・・

銀色の永遠 〜イッツ・マイ・ライフ〜11


あッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


右手の形・・・よくは見えなかったが、ちょうど何かを隠していたような・・・
何を隠した?・・・それは、あの状況やったら、一つしかない・・・カードや・・・
何のカードや?・・・それはジョーカー・・・!!!

まさか、あの時・・・一番上のジョーカーを手の中に隠し、それから血を付けて
わざと拭き残し、ジョーカーを戻したんちゃうか!?
血が付いたのは一番上だけやったから、普通に見ればジョーカーに血が付いたように見える。
だが、実は違う。
血が付いていないほうが、ジョーカーやッ!
ということは、ここで引くべきカードは血が付いているヤツ!!

危なかった・・・まんまと引っかかるとこやったわ・・・
ポーカーのときもそうやったが、見事な技や・・・
せやけど、やはり相手が悪かったな。
結局、ウチの方が一枚上手や。
紙一重かもしれんが、その紙一重が大きな差。
とくに、こういう真剣勝負においてはな・・・

「フフ・・・残念やけど、これでゲームセットや・・・桃子ちゃん・・・」
ウチは桃子ちゃんの手札に手を伸ばした。
・・・なかなかええ勝負やったで。

銀色の永遠 〜イッツ・マイ・ライフ〜12

〜嗣永桃子〜

「フフ・・・残念やけど、これでゲームセットや・・・桃子ちゃん・・・」
先輩がこちらに手を伸ばしてきた。
でも・・・この言葉は・・・まさか・・・この短時間の間に、
こっちの仕掛けに気付いた・・・?

・・・こ、ここまできて・・・私はこの人には勝てないの?

左腕を潰される光景が、頭の中に映し出される。
「・・・ッ!!」
私は思わず机に突っ伏した。

・・・カードが掴まれた感触が伝わってきた。
これは、どっちだ?
わからない・・・多分、恐怖で感覚が変になってるんだ。

そして、カードが引かれたのを感じた私は頭を上げ、
手に残ったカードを見た。

ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッ!!!!!

「・・・あぁ・・・」
思わず声が漏れ、額からどっと冷や汗が流れ出した。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・

銀色の永遠 〜イッツ・マイ・ライフ〜13

〜加護亜依〜

「バカなぁッッ!!!!!」
ウチは引いたカードの絵柄を見て叫んだ。
それは、ジョーカー・・・

「やったあああ!!!」
桃子ちゃんが自分のカードを見てガッツポーズをした。

まさか・・・本当に偶然に血が付いただけやったんか?!
さっきの考えは、全て取り越し苦労・・・無駄やったんか?!
この子はウチをハメようとしていなかった?
いや、そんなはずが無いッ・・・!

「さあ、次は私の番ですね。先輩、カードをシャッフルしたほうがいいですよ」
桃子ちゃんはそう言って、ゲームを続行するように促した。
・・・くッ・・・コイツ・・・
「ふざけるなッ!!!」
「・・・え?」
「シラを切るか・・・貴様はジョーカーに・・・」
ウチはそこまで言いかけて黙った。
「・・・???ジョーカーに?」
「あ、いや・・・」
もし、本当にイカサマちゃうかったら・・・印に気付いているのがウチだけやったら・・?
・・・ここは1/2に賭け、次で印の付いているカードを引かせれば・・・そう、文句なしにこっちの勝ちや。
「・・・なんでもない・・・続けよう」
行ったる・・・!話術で上手く誘導すれば、何とかなる。

銀色の永遠 〜イッツ・マイ・ライフ〜14

・・・あかんかった・・・

桃子ちゃんは何のためらいも無く、スペードのQを引いた。
そう、『ためらいもなく』・・・迷わずに、つまりそれは・・・やはり・・・

バンッッッ!!!!!!!

「何故やッ!!!」
ウチは机に両手を叩きつけ、桃子ちゃんに迫った。
「え?何がですか?」
「・・・もう、演技せんでええ。もうわかっとる・・・全部・・・
今更イカサマだなんだとは言わん・・・ただ、聞かせろ・・・カードをすり替えたんちゃうんかったんか・・・?」
「・・・これ以上は無理ですね・・・それ、いいですか?」
そう言って桃子ちゃんは、ウチの持っているジョーカーを手に取った。
「ええ、カードはすり替えませんでした・・・フリだけです。こうやって・・・」
「ッ!!」
・・・ジョーカーを持ち、それを手の中に隠してそのまま元に戻す・・・だと?

ぐッ・・・なんてことや・・・せやけど・・・

「どうするつもりやったんや?もしも、ウチがジ桃子ちゃんを疑わなかったら・・・
ジョーカーをすり替えとると思わんかったら・・・」
そうや、ウチはあの時、ギリギリで気付いた。
もしも、そのまま鵜呑みにしていたら、アンタは負けとったんや。

「・・・私は信じたんですよ。先輩を」
「何?信じた・・・?」

銀色の永遠 〜イッツ・マイ・ライフ〜15

〜嗣永桃子〜

「はい、信じたんです」
私の言葉に、先輩は「何を言っているんだ?」って感じの顔をしている。
まあ、当然だろうな。

「でも、誠実な人間としてではなく、その逆です。
疑り深く、人を騙すような権謀詐術に長じた策士として・・・
そんな人が、このカードの血に気付かないわけがない。
でも、それを簡単に鵜呑みにはしない。
なぜなら、それを持っている相手が私だからです。
先輩は私のことを『自分と似ている』と仰りましたね。
それは、『ここぞ』というときにでイカサマを使うということ。
このババ抜きは私から言い出したことで、しかも賭けるものが自分の腕。
ということは、そんなときに私が運否天賦なんかに頼るはずがない。
必ず、何かをしていると疑う・・・
先輩は思考をめぐらし、ゲーム前の私の不審な行動を思い出す。
そして、気付く・・・私がカードをすり替えているということに。」
私はここで一旦、話を止めて先輩の様子を窺った。

・・・なんともいえない表情だな・・・でも、何かを言い出す気配はない。
黙って私の話に耳を傾けている。
じゃあ、このまま話を続けるか。

銀色の永遠 〜イッツ・マイ・ライフ〜16

「大抵の人は、一度何かのトリックに気付くと、その先を疑おうとしない。
しかし、そうではない人もいる。先輩のように策に長ける人はさらに疑う。
しかも、相手も同じようなタイプならなおさらですよね。
さっきは『紙一重』なんて言いましたが、こういった技にかけては私よりも先輩の方が一枚も二枚も上手です。
そんな先輩が、この血とカードのすり替えの機会に気づかないワケがないんです。
そしてその後・・・ジョーカーを引いた先輩は、そこでイカサマだなんだとは騒がない。
確証が無いのもありますが、こうも思ったはずです
すり替えが無かったとしたら、わざわざ私が持っているジョーカーにわざと血を付ける意味は無い。
やはり偶然の可能性もある。でも、それを拭いて最初からやり直すのも惜しい。
それだと普通に運が大きく左右する勝負になってしまうから・・・
血に気付いているのは自分だけ・・・ならば、それを利用しよう・・・と。
・・・以上が、このババ抜きの全トリックです」

「・・・ふう・・・」
話を聞き終わった先輩が、大きく息を吐いて腕を組んだ。

・・・全部言ってしまった。
賭けの支払いが終わるまでがゲームだ。
相手がトリックをばらしたのではなく自ら明かしたので、常識的にこっちの負けではないが、
終わる前にトリックを明かすということは、ゲーム不成立。
つまり無効試合。

でも、元々私には先輩の腕をもらうなんて考えてなかった。
ただ・・・最後に勝ちたかっただけ。
意地を見せたかったんだと思う。
先輩にいいようにやられて終わるなんて我慢ならなかった。
そして、私は勝った・・・それだけで十分。

銀色の永遠 〜イッツ・マイ・ライフ〜17

指を潰されたことにはムカついたけど、恨む気持ちなんて無い。
これは私の責任だ。自分で蒔いた種・・・仕方がない。

「じゃあ、片付けましょうか・・・」
私は出しっぱなしのトランプやらチップやらに手を伸ばした。
「おい!まだやろ・・・」
「はい?」

バンッ!!!!ガシャアアァァァァ!!!!!

突然先輩が机の上の物をなぎ払い、そこに自分の腕を乗せた。
「まだ、支払いが残っとる。片付けはそれからやろ」
「・・・え?ちょっと待ってください。
こういう場合って、普通はノーゲーム。引き分けですよね」
「いや・・・ウチの負けや・・・ゲームは引き分けやが、勝負に負けた・・・
約束通り、ウチの腕を破壊しろ」

な・・・何を言ってるんだ?!
「それはできません。どっちにしろ、私はそんなことをするつもりはありませんでした」
当然、私はそれを拒否する。
だけど、先輩は引き下がらない。
「アンタにそのつもりが無くとも、こっちにはある。早くやれ!」
「そんなこと言っても・・・」
「敗北は痛みを伴う・・・それが道理や。
ウチはそれを受け止める『義務』と『覚悟』がある。生半可ちゃうねん」

・・・無茶苦茶な道理だけど、先輩の瞳は本気だ。
どうする・・・?

銀色の永遠 〜イッツ・マイ・ライフ〜18

いや、どうするって・・・出来るわけない。
「やっぱり、できません・・・」
私はそう言って頭を下げる。
「これはゲームちゃう・・・真剣勝負やった・・・
それとも、桃子ちゃんにとって、今までのは単なるお遊びゲームやったんか?」

・・・それは違う。
本気だった・・・少なくとも、そうでないとこの人には勝てなかった。

「下手な情けで敗者を侮辱せんとってくれ。
それが、互いに知を競い合った者への礼儀や」

「うッ・・・」

人にどう言われようと、勝負にはどんな手を使ってでも勝とうとする姿勢・・・
歪ではあるけど、それが礼儀と心得ている・・・
そして、一切の容赦はしない・・・相手にも自分にも・・・
この人はそういう人なんだ。

だとしたら、ここでやらないのは逆に無礼。
敬意を払いつつ、先輩の腕をFLYHIGHで破壊する!

「・・・わかりました」

バシュウウゥゥゥゥッッ!!!

私は少し迷ったが、スタンド出してその右手を先輩に向けた。
既に触れているので、すぐに能力を発動させることができる。

銀色の永遠 〜イッツ・マイ・ライフ〜19

・・・私も先輩と同じつもりだった・・・なのに、さっきのポーカーに負けたとき、
私はそれから逃げようとした・・・情けない・・・
でも、ここでまた逃げたら、私は嗣永桃子ではなくなってしまう。

「やれぇッ!!」

くッ・・・!
「う・・・おおおおお!!!!FLYHIGH!!」


パアアアアンンンンンッッッッッッッッ!!!!!!!!


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
先輩の左腕が弾ける。
でも、先輩は叫び声一つ上げずに、それを耐えた。

・・・なんて人だ・・・イカレてるなんてレベルじゃない・・・
普通の人なら、こんな先輩を笑うか『頭のオカシイ人』と哀れむかもしれない。
でも、私はこう思ってしまった。

なんてロマンチックでカッコいい人なんだろう・・・と

・・・やっぱり私も、どこかオカシイのかも・・・

・・・・・・・・・・
・・・・・


銀色の永遠 〜イッツ・マイ・ライフ〜20

ガラガラッ!

「これは・・・あなた達、いったい・・・?!」

突然教室の扉が開き、それとともに誰かが驚きの声を発した。
そこにいたのは、先輩の紺野さんだった。

「ああ、こんこん」
加護先輩が右手を紺野先輩に向かって挙げる。
「『ああ、こんこん』じゃあありませんよ!
その怪我は一体どうしたんですかッ?!・・・まさか、敵がッ?!」
紺野先輩は教室内を見回しながらスタンドで身構えた。
・・・まあ、たしかに・・・ぱっと見そうだよな・・・

でも、紺野先輩はすぐにスタンドを引っ込めて、臨戦態勢を解いた。
私達の様子に、戦闘時特有の緊張感が感じられなかったからかもしれない。
そして、その視線は机とその周りに散らばっているチップやトランプに向かっていた。
「・・・まさかとは思うんですが・・・」
紺野先輩は指を顔の横で立て、目を閉じて眉間にシワを寄せた。
「まさかとは思うんですが、あなた達2人でゲームをして、
その結果がこの有様とか言うんじゃないでしょうね」
「おっ、ご名答!」
加護先輩が明るい口調で言う。
すると、紺野先輩の顔色が一気に暗くなった。
「なるほど・・・そして、まさかとは思うんですが、私をここに呼びつけた理由って・・・」

・・・ん?呼びつけた?
あ、さっき加護先輩が電話で話してた相手は、紺野先輩だったんだ。

銀色の永遠 〜イッツ・マイ・ライフ〜20

でも、呼びつけたってなんだろう?
そんな私の疑問は、紺野先輩の言葉で晴れることになった

「私を呼びつけた理由ってのは、もしかして、この怪我を
東方君に治してもらうのを頼もうってことじゃないでしょうね?」
「さっすがこんこん。勘がいいね!ほら、私と桃子ちゃんは東方君と面識ないし、
こんこんから紹介してもらえないかな〜って」
「・・・はあ〜〜〜〜〜・・・・・」
加護先輩の言葉に、紺野先輩が大きな溜め息を吐いた。
「でも、こんこんも東方君とは、そんなに懇意ってわけじゃないですよ」
「大丈夫、虹村君にお願いすればいいじゃん。親友の彼の頼みなら、
東方君も受けてくれるでしょ?それに虹村君ってほら、こんこんに惚れてるから一発で仲介してくれるよ」
「・・・はあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜・・・・・」
紺野先輩は更に大きな溜め息を吐いて頭を抱えた。
「お願い、こんこん。これじゃあ部活動に支障がでちゃうし」
加護先輩は両手を合わせるポーズを右手だけでした。
すると紺野先輩は諦めたように頷き、「ちょっと待っててください」と言って教室を出ていった。

「ふう・・・これで一安心やな」
加護先輩が大の字になって床に寝転んだ。
「あの・・・どうしてですか?」
私は加護先輩の隣にしゃがみ込んだ。
この人に聞きたいことがあった。

銀色の永遠 〜イッツ・マイ・ライフ〜21

紺野先輩を呼びつけた理由はわかった。
確か東方先輩もスタンド使いで、怪我を治すことが出来るとかいう話は聞いたことがある。
だから、私達の治療をしてもらうってことなんだろうけど、電話が掛かってきた時点では、
まだ私しか怪我をしていなかった。
加護先輩も、ならわかるけど、どうしてあの時に治療を頼もうと思ったんだろう。

加護先輩の答えはこうだった。
「あの時、『もう一勝負』と言ったときの桃子ちゃんの瞳・・・まだ何かあるって感じやった。
『このまま引き下がれない』・・・そういう気迫があった。
それに心を動かされたってことかもしれへん。『ああ、この子を潰すのは惜しい』ってな・・・」
そう言って先輩はウインクをして笑みを浮かべた。

・・・なるほど・・・
多分、私が最後の勝負を提案しなかったら、この件は無かったんだろう。
どうやら、私の行動は正解だったみたい。


・・・しばらくすると、紺野先輩が東方先輩と虹村先輩を伴って戻ってきた。
まだ校内に残ってて良かった。
東方先輩は既に事情を聴いていたみたいで、「グレートだぜ」とか言いながら怪我を治してくれた。
なんか奇妙な感覚だったな・・・指の骨がパキパキいってむず痒かった。

そして治療が終わり、東方先輩と虹村先輩はどこかへ行ってしまった。
なんかサザエさんみたいなダサい髪型だけど、東方先輩は背が高くてカッコいい人だったな。
友達の『くまいちょー』なら惚れてたかも。

・・・・・・・・・・・・・・・・

銀色の永遠 〜イッツ・マイ・ライフ〜22

「・・さて、片付けましょうか」
私は床に散らばったトランプやら何やらを拾い始めた。
治療も済んだことだし、ここに長居する理由もない。
「ん、そやな」
「私も手伝いますよ」
加護先輩、そして紺野先輩もそれに加わる。

「そういえば、紺野先輩は何で加護先輩に電話を?部活中でしたよね」
片付けの途中、私は素朴な疑問を紺野先輩に投げかけた。
「どうもこうもないですよ・・・突然この人が部室に現われたかと思ったら、
美貴ちゃんと『のんちゃん』が遊ぼうとしてたオセロを無理矢理奪っていったんですから。
しかも、その後予備のヤツでやってたところを、また奪い取っていったんです。
そこで、何故か私がそれを取り返すように美貴ちゃんに言われて・・・」
紺野先輩が呆れたように言うと、加護先輩は苦笑いをした。
「あはは・・・やっぱミキティ怒ってた?」
「当たり前です」
「じゃあ、今日は部活に出ないほうがいいかもな・・・」
「まあ、そのほうがいいと思いますよ。オセロは私が返しておきますんで」
「うん、そうしとく」

・・・・・・・・・・・・

片付けも終わり、私達は教室を出た。
私は部に顔を出すつもりだったので、紺野先輩と一緒に部室へ向かう。
加護先輩は当然、今日は部には出ないのでここで別れることになった。

ポーカーには負けたから結局1000円は帰ってこないけど、代わりに充実感と大きな経験を得られた。
指も治ったことだし、良しとしよう。

銀色の永遠 〜イッツ・マイ・ライフ〜23

別れ際、加護先輩が私に握手を求めてきた。
「またいつか、桃子ちゃんと勝負をしたいもんやな」

パン!ガシィッ!!

私は少し乱暴にそれに応じ、笑顔でこう答えた。

「二度とゴメンです」


チャンチャン☆


嗣永桃子 今月は奢ってもらうことでしのぐことにした。
スタンド名 FLYHIGH

加護亜依 次の日、藤本美貴と乱闘騒ぎを起こす。
スタンド名 サイ・キス

紺野あさ美 数日後、虹村億泰とデートをするハメに。
スタンド名 ニューオーダー


TO BE CONTINUED…