409 :六部198:2006/12/28(木) 16:16:44.94 0
銀色の永遠 〜ミスキャスト〜1

「はあ〜・・・」

私・・・嗣永桃子は、放課後の学校の自販機前で愛くるしい溜め息を吐いた。
そりゃあ溜め息も出るよ・・・
今月はもう、お小遣い厳しいのに・・・目の前の自販機にお金を入れちゃったんだから・・・

チャリン・・・ピッ・・・ガシャングタン!!

取り出し口の中から暖かい紅茶を取り出し、もう一度溜め息を吐いた。
結局、喉の渇きには勝てなかった・・・
財布の中には、まだ1000円ちょっと残ってるけど、今時こんなんじゃどうしようもない。
進学したってことで、新しいローファーもそろそろ買いたいし、
この前カメユーで見つけた可愛いジャケットも手に入れたいし・・・中間試験の結果も悪かったし

・・・
佳人薄幸とはよくいったもんだ・・・

何とかしてお金を稼がなくては・・・でも、中学生じゃバイトなんか出来ないし、したくもない・

・・
だったらどうやって・・・ん?

誰かがこっちにやってくる。見たことがある顔だ。
「あ、加護先輩!」
そう、あの人は同じ演劇部の先輩で、高等部の加護亜依さんだ。
勿論、彼女もスタンド使い。まあ、私も・・・っつーか、部員は全員そうなんだけどね。
「ん?ああ、え〜と、あなたは・・・え〜・・・」
私の呼びかけに気付いた彼女は、指を立てながら何かを言い出そうとしている。
多分、私の名前がパッと出てこなかったんだろう。
そう思った私は、自分の名を名乗った。
「嗣永・・・嗣永桃子です」


410 :六部198:2006/12/28(木) 16:17:27.09 0
銀色の永遠 〜ミスキャスト〜2

「ああ、そうだ、桃子ちゃんだ。ゴメンね、まだちゃんと部のみんなの名前覚えらんなくて」
加護先輩は顔の前で手を合わせて、にこやかに笑いかけてきた。
部の中では結構古い人らしいんだけど、長い間学校を休んでて最近復帰したから、
その間に入部した私や、その他のみんなの顔と名前を覚えるのに腐心しているみたいだ。
休んでた理由は、たしか傷害事件で停学って聞いてたから怖い人だと思ってたけど、何か違うのか

な?
ちなみに、本来なら2年になってるはずだけど、長期停学のせいで留年して、2度目の1年生をしてい

るみたい。

「で、どうしたの?もうすぐ部活始まるよ」
先輩はそう言って自販機の前に立ち、カバンの中から財布を取り出した。
そのとき、私の目はその財布の中身に釘付けになった。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・

なんてことだ・・・万札が入ってる・・・しかも3枚+千円札1枚・・・なんてブルジョアな・・・

ガシャン!!

ハッ・・・!!
取り出し口の中に勢いよくペットボトルが落ちる音で、私は我に返った。
「・・・桃子・・・ちゃん?」
先輩が私の顔を不思議そうに見ている。
「大丈夫?考え事?どっか調子でも悪いの?」

・・・アンタの金に目が釘付けになったんですよ・・・
なんて、とてもじゃないけど言えるワケがない・・・

「え?いや〜別にそんなことないですよ〜」
私は腕を振り回し、何とか誤魔化すことにした。


411 :六部198:2006/12/28(木) 16:18:33.56 0
銀色の永遠 〜ミスキャスト〜3

「・・・ふーん・・・まあ、とりあえず私は部室に行くから、
桃子ちゃんも出るんだったら、また後でね」
先輩はそう言って、私に背を向けて歩き出した。
その時、私の中で善からぬモノが鎌首をもたげていくのが感じられた。
そして、思うが早いか、私は先輩の手を掴んで引き止めていた。

「ん?なに?一緒に行く?」
私の無礼とも言える行動に、先輩は相変わらずニコニコと笑いかけてくる。
「いえ、ちょっと勝負をしませんか?」
「勝負?」
突然の申し出に、先輩はキョトンとしている。
でも、私は構わず話を続けた。
「実は・・・私、今月ピンチなんです」
「ピンチ?」
「いえ、私だけじゃないんです・・・家族全員がピンチなんです」
「・・・え?どういうこと?」
先輩が私に向き直る。
よし、興味を引けたぞ・・・ここからだ、頭をフル回転させろ・・・

「私の家は貧乏で、しかも借金がいっぱいあるんです・・・
それで、今月中にそれを返さないと、家を売り払われてしまうんです」
「・・・ちょっと、そこに座ろうか・・・」
先輩は側にあったベンチを指差した。
まずはこれでよし・・・
私は心の中でほくそ笑みながらも、促されるまま俯き加減にそこへ座った。


412 :六部198:2006/12/28(木) 16:19:15.09 0
銀色の永遠 〜ミスキャスト〜4

別に大きな借金なんてないし、家も売り払われるなんてことはない。
全部嘘。まあ、私が貧乏なのは本当だけどね。

「今までは、何とか少しずつ借金を返すことで持ちこたえられてたけど、
もうそれも限界。昨日、怖いおじさんが家にいっぱい来て、月末までに
500万返せって・・・うぅ・・・」
ここで私は涙を流す。演劇部で培った『技術』だ。
「・・・そんな・・・酷い・・・」
先輩は架空の借金取りに怒りを感じているようだ。
そして、それと同時に、私への同情も感じられる。
「今、パパもママも親戚中回って必死でお金を作ってけど、そんなんじゃ全然足りない。
私もそれに協力したいんですけど・・・中学生じゃ殆ど何も出来ない・・・」
「そっか・・・それでさっき考え事を・・・」
「・・・はい」

ラッキー!
先輩の財布に目がいって立ち尽くしていたことが、ここで効いた!
さて、一気にいけるかな?

「そこで、先輩にお願いしたくて・・・」
「なに?そういえばさっき勝負って言ってたけど・・・」
「はい。私と勝負をして私が勝ったら、少しだけお金を貸して欲しいんです」
「・・・」
先輩は急に黙り込んでしまった。


413 :六部198:2006/12/28(木) 16:19:49.99 0
銀色の永遠 〜ミスキャスト〜5

まずい・・・やりすぎだったかな・・・疑われてるかも・・・
でも、それは杞憂に終わったみたい。
先輩は私の肩を叩いて、嫌な顔も見せずに大きく頷いてくれた。
「うん、わかった」
「・・・本当ですか?」
私がそう言うと、先輩はもう一度頷いた。

やったあああああああああああああ!!!!!
内心、飛び上がりたくなりたかったが、そんなことをしたら全部台無しだ。
私はそれを堪えて、先輩を見つめた。
「でも、どうして勝負なの?少しなら普通に貸してあげるのに」
先輩は不思議そうに尋ねる。
「いえ・・・やっぱりタダでってワケにはいかないじゃないですか。
だから、お互い演劇部のスタンド使いでってことで、勝負でって・・・
同情は嫌だし・・・もし、これで私が負ければ、そういう運命だったとあきらめます」
さすがに、ただで貰うわけにはいかない。
それじゃあ、完全に詐欺師だっての。
「そっか・・・桃子ちゃんにも誇りがあるもんね。ごめん、私が無神経だった」
先輩が急に頭を下げた。
「え?ちょっと・・・止めてくださいよ!こっちが頭を下げないといけないくらいなのに」
私は慌てて顔を上げるように先輩を抱き起こした。

この態度、やっぱりお金持ちだな。貧乏な人に同情をしている顔だ。
なんてお人好しなんですか・・・そんなんじゃあ、この世の中渡り歩いていけませんよ、先輩。
騙したことには心が痛むけど、これも人生勉強だと思ってください。
貴女がいけないんです。私の前で、万札をひけらかさなければ良かったのに・・・


414 :六部198:2006/12/28(木) 16:20:46.67 0
銀色の永遠 〜ミスキャスト〜6

さて、問題はどんなことで勝負するか・・・と、勝てる勝負を模索しているときだった・・・

バシュウウゥゥゥゥ!!

何かが出現した気配・・・
顔を上げてみると、先輩が自分のスタンドを呼び出し、ストレッチを開始している!

「ちょっと!何するつもりですか??!」
私は思わず大声で叫んだ。
「何するつもりって、勝負でしょ?スタンド使い同士の勝負って言ったら、これしか無いじゃん」
先輩は何食わぬ顔でそう答えた。
しかも、早くお前もスタンドを出せと言わんばかりに構えを取りだした。
「ち、違いますよ!そんなワケ無いじゃないですか!スタンドをしまって下さい!」
私がそう言うと、先輩は少しガッカリしたようにスタンドを引っ込めた。

まったく・・・この人頭おかしいんじゃないの?
まあ、別にそれで勝負しても勝てる自信はあるけど、ほら、やっぱ疲れるでしょ。

それにしても、あまりちゃんと見えなかったけど、何か異様なデザインのスタンドだったな・・・
なんか、真っ白な顔に血の涙みたいな痕があった。
スタンドのデザインは本体の精神に反映するとか聞いたことがあるけど、
とてもこの人のものとは思えないな。
いや、もしかすると、この人はお人好しではなくて、単なる偽善者ってやつかもしんないな。
さっきの私への態度も心からの同情じゃなくて、自分の正義感を満足させたいだけの
上っ面なのかも。お金持ちってそういう感じの人多いしね。
だから、何か気持ち悪いデザインのスタンドだったんだ。
私のとは大違いだわこりゃ。


415 :六部198:2006/12/28(木) 16:22:22.87 0
銀色の永遠 〜ミスキャスト〜7

「じゃあ、何で勝負するの?」
先輩が尋ねる。
「そうですね・・・」
「あ、そうだ!」
私が顎に手を当てて考えていると、何か名案が浮かんだのか
先輩は自分のカバンをまさぐって、ある物を取り出した。
「トランプですか?」
「そう」

・・・トランプか・・・うーん、何で行こうかな・・・

「桃子ちゃん遅い。もう私が決めるね」
私が色々と勝てるゲームを思い浮かべていると、
しびれを切らした先輩が手を挙げた。
「私は一度、勝負を受けるっていう桃子ちゃんのお願いを聞いたんだから、
内容くらいは私に決めさせてよ」
先輩の言うとおりだけど、トランプのゲームは得意不得意がある。
ヘンなのに決まってしまったら、勝てなくなる。
「え、でも――」
「そうだな〜・・・」
先輩は、言い返そうとする私を無視してしばらく考えた後、こう言った。
「ポーカーなんてどう?知ってる?」
・・・なんか、今日はツイてるみたい。
知ってるどころじゃない。
あまり知られてはいないけど、ポーカーは私が一番得意としてるゲームだ!


416 :六部198:2006/12/28(木) 16:23:42.48 0
銀色の永遠 〜ミスキャスト〜8

「え〜、ポーカーですかぁ?私、あんまり強くないけど頑張りますぅ」
私はワザと自信なさげに、先輩の提案を受け入れた。
すると、先輩は表情を明るくして私の手を取った。
「そう?よかった。まあ、私もあんまり強くないし、いい勝負になりそうだね。
じゃ、場所変えようか」
「あれ?ここでやるんじゃないんですか?」
「いや、上に空き教室があるから。そこなら邪魔されずに集中してできるよ」
先輩はそう言うと、そのまま私の手を引いて歩き出した。
まあ、どこでやろうと別に関係ないか。
すみませんが先輩、あなたは完全に私のカモです。

・・・・・・・・・・・

高等部の校舎の2階。
そこは結構前から空き教室になってるみたいで、先輩は前からここをよく利用していたらしい。
長い間使われてなかったにしては、中は結構キレイだな。
先輩が掃除でもしてるのかな・・・私は部屋の中を見回しながら先輩を待つ。
なんか、道具を取りに部室へ行くとか言ってたけど・・・なんだろ。

しばらくすると、先輩が帰ってきた。
「おまたせ!」
その手には、オセロの箱があった。
もしかして、急に気が変わったのか?
「え?ポーカーじゃないんですか?」
私は不満そうな顔で言った。
「ん?ポーカーだよ。ちょっと待っててね」
先輩はそう言いながら教室の隅にあった机と椅子を並べ、その上でオセロの箱を開封した。


417 :六部198:2006/12/28(木) 16:24:41.69 0
銀色の永遠 〜ミスキャスト〜9

先輩はオセロのタイルだけを机に積み上げている。
何をするつもりなんだろう。
でも、すぐに意味がわかった。
「あ、なるほど、チップ代わりってことですか」
「そういうこと。さ、座って」
私は先輩に促されて椅子に座る。
そして先輩も正面に座ると、トランプを箱から取り出して机の上に置いた。

ここで私はあることに気付いた。
ん?チップってことは・・・私も賭けるってことじゃん!お金無いっつてんのに!
この人、私の話ちゃんと聞いてたのか?
「あの・・・私も賭けるってことですか?お金が無いって言いましたよね?」
私は恐る恐る聞いてみる。
「そうだよ、お金が無いってのも聞いたよ。えっと、今いくらあるの?」
・・・は?なに言ってんの?この人は。
まあ、いいや、一応答えよう。さっき紅茶買ったから・・・
「・・・えっと、1035円あります」
「そっか。じゃあ、私は31234円だから・・・チップ1枚500円ね。
タイルは全部で64枚だから、それでキリがいいし。細かいのは端折っちゃおう」
「はぁッ?!何言ってんスか?!」
思わず声が荒くなってしまった。
1枚500円だと?それじゃあ私には、たったの2枚しかチップがないってことじゃん!
2枚対62枚じゃあ勝負にならない!

だが、先輩はそんな私を無視してチップを分け始めた。
けど、なんかヘンだ。
私のチップは2枚になるはずなのに、やけに多い。


418 :六部198:2006/12/28(木) 16:26:49.45 0
銀色の永遠 〜ミスキャスト〜10

私の手元に配られたチップは全部で32枚になった。
ちょうど先輩と折半する形になっている。
「あの、どういうことですか?」
意味がわからない。私は素直に質問してみた。
「どういうことって、見たまんまだよ。条件は同じにしないと」
先輩は財布からお札を取り出し机の上に置き、
「桃子ちゃんも出して」と言った。
私は一応、それに従って千円札を置いた。
すると先輩は、机に出されたお互いのお金を隅にまとめ、姿勢を正した。

「つまり、今、この上にある32000円は誰のものでもなく、
これからやるポーカーの結果に応じて、最後に与えられることになる。
現在、お互いのチップは32枚。チップ1枚=500円なので、
それぞれ16000円を所有する権利がある。
最後に笑うのは、果たして・・・」
先輩はそこで意味ありげに言葉を止め、眉をクイッと上げた。
なるほど、そういうことですか。それに最後に笑うのは誰ですって?

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・

・・・勿論、私ですよ。先輩。


422 :六部198:2006/12/28(木) 17:27:30.03 0
銀色の永遠 〜ミスキャスト〜12

まず、ルールからおさらいしとこ。
たしか、こんな感じだったかな。

ゲームは全8ゲーム。
それぞれに5枚ずつカードを持って、決められた役の強さで勝敗が決まる。
カードは1回だけカードストック(誰のものでもない山札)のカードと、自分のカードを交換することが出来る。
このとき、交換するカードは相手に見られないようにする。
・・・まあ、別に見せてもいいけど、自分が不利になるだけ。
交換できる枚数は1〜5枚。一度交換したカードは廃棄で、次のゲームまで使えない。
今回使うのは、通常のカードにジョーカーを1枚加えた全53枚。

まずは親決め。親は最初にトランプを引いて数が大きい人がなって、1ゲーム交替。
当たり前だけど、最初にカードを配るときは1枚ずつ交互にやる。
そして、親はドロップとオープン以外の全ての行動を子よりも先に済ませる。
チップは1枚=500円で参加料は無し。
ベットは2回あって、最低ベット数は前にベット(チップを賭ける)した人の枚数。
つまり、前の人より少なくチップを賭けることは出来ない。
例:親5枚→子7枚(レイズ)→親7枚(コール)・・・等。

ただ、所持チップが少なくなって、前の人以上の枚数をベット出来ない場合は、
所持チップを全部賭けなければいけない。
最初のベット数は最大10枚で、レイズ(上乗せ)は+5枚まで。
最初に親が10枚ベットして、そのあとお互いに最大限にレイズしながら行くと、
最終的なベット数は25枚か・・・結構多いな・・・
計画的に行かないと、途中でチップが無くなってゲームが続行できなくなるな。

以上が今回のポーカーの、おおまかなルール。
ちょっと特殊なのが混じってるけど、別に問題視するほどのものではないか。


423 :六部198:2006/12/28(木) 17:28:18.14 0
銀色の永遠 〜ミスキャスト〜13

えーと・・・用語を整理すると、こんな感じだった気がする。

親(ディーラー):カードを配り、ドロップとオープン以外の全ての行動を子よりも先に行う人のこと。

子:親ではない人。

ベット: チップを出す(賭ける)こと。

コール: 先のプレイヤーと同数のチップを出して、ゲームを続けること。

レイズ: 先のプレイヤーよりも多いチップを出すこと。(+5枚まで)

リレイズ:もう一回レイズをするって意味だけど、このゲームではちょっと仕様が違う。
     2回目のベットのときに子だけが宣言できて、1回目でレイズしてなくても出来る。
     それをやると、親は直前にベットしたチップを、リレイズされた枚数と同じにしないといけない。
     ただし、これは親の承諾が必要。

ドロップ: お互いがベットした後、勝負を降りることが出来る。賭けたチップは戻ってくるから、
     勝てないと思ったらドロップするのが懸命ね。ただ、全ゲームを通して1回しか出来ないから注意がいるな。

ドロー: 場に捨てたカードの枚数だけ、新たにカードをもらうこと。

チェック:2回目のベットをパスすること。つまり、最初にベットした枚数で勝負すること。
     ちなみに今回のルールだと、親の場合は1回目のベットで子がコールしたときだけ。
     子の場合は親がチェックしたときだけしか出来ない。

セット:ドローせずに、最初のカードで勝負に出ること。
オープン:お互いのカードを開示する。


424 :六部198:2006/12/28(木) 17:29:08.50 0
銀色の永遠 〜ミスキャスト〜14

役は強い順に並べると、こんな感じだって。

ロイヤルストレートフラッシュ:ストレートフラッシュで、更に並びが、10、J、Q、K、Aになっていること。ジョーカーはダメ。

5カード:4カードにジョーカーが加わっている状態。(ハートA、ダイヤA、クラブA、スペードA、ジョーカー・・・等)
     ちなみに、ジョーカーを含んだ5が揃う、文字通りの5カードってのもあるけど、今回のは違うみたい。
     勿論、それは1通りしかないからロイヤルよりも強い。

ストレートフラッシュ:フラッシュ状態のストレート。(ダイヤ9、ダイヤ10、ダイヤJ、ダイヤQ、ダイヤK・・・等)

4カード:同じ数字のカードが4枚揃っている状態。(ハートA、ダイヤA、クラブA、スペードA、他1枚・・・等)

フルハウス:3カード+1ペアの状態。(ダイヤA、ハートA、クラブA、スペードK、ダイヤK・・・等)

フラッシュ:5枚のカードの記号が揃っている状態。(ハート9、ハートJ、ハートQ、ハートK、ハートA・・・等)

ストレート:5枚のカードの数字が順になっている状態。(ダイヤ10、ハートJ、ハートQ、スペードK、クラブA・・・等)
     でも、K〜4のようにKを越えることは出来ないとか。

3カード:同じ数字のカードが3枚揃っている状態。(スペードA、クラブA、ハートA、他2枚・・・等)

2ペア:2種類の1ペアがある状態。(クラブA、ハートA、ハート8、ダイヤ8、他1枚・・・等)

1ペア:同じ数字のカードが2枚揃っている状態。(クラブA、ハートA、他3枚・・・等)

同じ役で勝負の場合は、役の中の数字の合計が大きいほうが勝ち。(当然、役に関わらないカードは無視)
数字じゃないカードはJ=11、Q=12、K=13、A=14or1、っていうふうに割り当てる。
それでも決まらない場合(ロイヤルストレートフラッシュとか)は、役の中にスペードが入っている方が勝ち。


425 :六部198:2006/12/28(木) 17:30:47.38 0
銀色の永遠 〜ミスキャスト〜15

えーと・・・以上のことを踏まえると、
ゲームの流れはこんな風になるのかな・・・?

まず、親がカードストックをシャッフルして一枚ずつ配って、
それぞれのカードが5枚になったら、同時に手持ちのカードを見る。
それで、親がベットして、子がそれに対してコールかレイズかを選択する。

お互いベットし終えたら、ドロー、セット、ドロップのいずれかを選択するわけだけど、
ここで親と子、どちらかがドロップすればその時点でこのゲームは終わって、親を交替して次のゲームへ進む。
どちらかがドローかセットをしたら、ドローした人はカードストックからカードを受け取る。
(親がドローなら、自分でカードを取る。子なら、親からカードを受け取る)
セットをした人はカードをそのままにして2回目のベットに移る。

2回目のベットでは、親はチェック(前に子がコールしたとき)、レイズ、コールのいずれかを選択。
子はチェック(親がチェックしたとき)、コール、リレイズのどっちかを選択。
リレイズをして親がそれを承諾したら、直前に親がベットしたチップをリレイズした枚数と同じに出来る。

そんで、ベットが済んだらドロップするかを決めて、どっちもドロップしなければオープン。
勝った側は場に出されたチップを受け取り、親子を交替して次のゲームに移る。

これが、今回のポーカーの流れ。
さてと・・・そろそろ勝負を始めますか。


460 :六部198:2006/12/29(金) 13:23:52.70 0
銀色の永遠 〜ミスキャスト〜17

先輩はカードを箱から出し、机の上に置いた。
「じゃあ、親を決めようか。どうする?どっちが先に引く?」
どうしよう・・・まあ、別にどっちが先に引いてもここでは、あまり意味はないかな。
「どうぞ、先輩から引いてください」
私は先輩に先を譲った。

・・・先輩のカードは、ダイヤの8。
私のカードはスペードの6と出た。
ということは、先に親を受け持つのは先輩だ。

「あ〜ん、負けましたぁ」
私は口惜しそうに身体をくねらせた。
「あ〜、ごめんね」
「謝っちゃダメですよぉ」
先輩の言葉に、私は口を尖らせる。
冗談っぽく言ったけど、勝った者が負けた者に謝るのは、正直あまり良い気分じゃない。
それは、相手に対する侮辱だと思ってるから。
まあ、どうにせよ1ゲームごと交替だから、どっちが先に親をやるかは重要じゃない。

「ふふッ・・・わかった、前言撤回ね。じゃあ、配るよ」
先輩はそう言うと、今引いたカードをストック入れて
再びシャッフルし、私と先輩それぞれに1枚ずつ配り始めた。

いよいよね・・・

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・


461 :六部198:2006/12/29(金) 13:24:25.65 0
銀色の永遠 〜ミスキャスト〜18

お互いのカードが5枚揃い、同時にそれを見る。
勿論、相手には見えないようにね。
さて、私のカードは・・・

ハート7、クラブ7、ハート8、スペード、8ハートJ・・・

よし!初めから2ペアだ!幸先いいスタートになりそう。
でも、先輩はどうなんだろ?

・・・先輩は難しそうな顔で自分のカードを眺めてる。
思いっきり眉間にシワが寄ってるわ・・・これはいいのが揃ってないってことだな。
表情で丸分かりですよ。
ポーカーフェイスってヤツをこの人は知らないのか?

「じゃあ、親の私からベットするよ」
先輩はカードから目を離し、チップを3枚出してきた。
まあ、妥当なセンだな。次は私の番。
「う〜ん・・・コールで。私も3枚で行きます」
一応、油断は出来ない。もしかすると、あの表情はブラフかもしれないし。

そして、次の手順に進む。
「・・・3枚ドローしようかな」
先輩はそう言って3枚の手札を捨て、自分が親なのでストックから3枚取り出した。

3枚交換したってことは、1ペアだったか?
そして、交換したカードを見るや、またもや表情を曇らせた。
期待したカードが来なかったって感じだな。
つまり、1ペアのままか、役無しのブタの可能性が強い。


462 :六部198:2006/12/29(金) 13:25:19.95 0
銀色の永遠 〜ミスキャスト〜19

プププ・・・笑いがこみ上げてくる。
これで、確信できた。この人はド素人レベルだ。
「1枚ください」
私はハートのJを捨てた。
ハートが3枚あったから、ギャンブラー魂でハートのフラッシュを狙おうと思ったけど、
ここは手堅く2ペアキープ、あわよくばフルハウスを狙う。

先輩から受け取ったカード見てみる。
スペードのAか・・・まあ、こんなもんでしょ。
多分、このまま2ペアで勝てる。

・・・2回目のベットに移り、先輩はレイズしてしてチップを5枚出してきた。
ここで私はレイズして10枚でいきたかったけど、それを抑えた。
ド素人の先輩がビビッてドロップしたらたまらない。
しかも、いきなりそれをされちゃあ、やる気が殺がれる。
とりあえず初戦は様子見ってことで、私はコールで済ませることにした。
これでベットされたチップは、お互いに8枚。
そしてこの後、私も先輩もドロップはしなかったので、そのままカードオープンとなった。

「も〜、やっぱり〜!」
私が開示したカードを見て、先輩は天を仰いだ。
先輩のカードは、クラブとスペード4のワンペア。
当然、私の勝ちだ。
「うふふ、まずは私の勝ちですね。先輩」
私はチップを回収し、自分の懐に集めた。
これで、私のチップは40枚。先輩は24枚になった。
こりゃ楽勝かも・・・『技』を使うことも無いかも知れない。


463 :六部198:2006/12/29(金) 13:26:45.12 0
銀色の永遠 〜ミスキャスト〜20

2ゲーム目。
私が親のこのゲームも勝利で終わった。
ちなみに、こんな感じの内容だった。

ベット:桃4加4(コール)桃5(レイズ)→8(リレイズ承諾)加8(リレイズ)。
先輩のリレイズを受けて、ベットされたチップの枚数は最終的に桃12加12。
結果:桃、Qの3カード。加、10の3カードで、私の勝ち。
チップ数は桃52加12になった。

最後に先輩がリレイズしてきたときは、それを受けようか迷ったけど、
結果的に受けて正解だった。
でも、危なかったな・・・もう少しでチップ数をひっくり返されるとこだったわ・・・
次からは気をつけよっと。

そして先輩が親の3ゲーム目はこうだった。

ベット:加1桃3(レイズ)加8(レイズ)→11(リレイズ承諾)桃11(リレイズ) 
ベットされたチップの枚数は最終的に桃14加12。
結果:桃、ハートのフラッシュ。加、スペード7、スペード8、ダイヤ9、クラブ10、ハートJのストレートで、私の勝ち。
チップ数は桃64加0になった。

先輩が一気に最大までレイズして、その後の私のリレイズを受けたときは
ちょっと驚いたけど、結局フラッシュが揃ってた私の勝ちだった。
どうやら、今日はツイてる日みたい。

・・・ていうか、先輩のチップが無くなっちゃったんだけど、これでお開きになるのかな。


464 :六部198:2006/12/29(金) 13:27:23.95 0
銀色の永遠 〜ミスキャスト〜21

「・・・あの〜、先輩――」
この後どうするかを聞こうと思った矢先・・・

ガタン!!

突然、先輩が立ち上がり、
「桃子ちゃん、ちょっと待ってて!」
と言って教室から出て行こうとする。
「え?どうしたんですか?」
「すぐ戻ってくるから」

ガラッ!タッタッタッタッタッタッタ・・・・

引き止める私を置いて、先輩はどこかへ行ってしまった。

・・・???・・・なんなんだ、一体・・・

まあいいや、これでチップ64枚。
たった10数分で3万以上も稼げた。
「うふふ・・・」
私は堪えていた笑いを外に漏らした。

・・・・・・・・・・

しばらくすると、先輩は息を切らして戻ってきた。
オセロのセットを抱えて・・・


465 :六部198:2006/12/29(金) 13:28:08.03 0
銀色の永遠 〜ミスキャスト〜22

先輩は最初のときのようにオセロのタイルだけを取り出し、
それを机に並べた。
そして、さらに2枚の一万円札を机に叩きつけた。
もしかして・・・

「さあ、ゲームの続きをしようか」
やっぱりそうか・・・
先輩は荒い息をつきながら、私を見ている。
心なしか服が乱れているような気がするけど、気のせいかな。
「まだやるんですか?」
その目つきを見れば、止めても無駄だって分かってはいたけど、一応聞いてみる。
「あと5ゲーム残ってるからね。とりあえず、2万下ろしたからチップ40枚」
そう言って先輩は、自分手元にオセロのタイルを積み上げた。

・・・あーあ・・・ダメだ、この人。
ギャンブルで破滅するタイプだな。
「わかりました。やりましょう」
私はあきらめたように呟き、それを承諾した。

私に出来ることは、ここで完全に先輩を撃破することだ。
今私のことを酷いヤツって思った?
それは違うよ。すっからかんになって痛い目を見れば、この人の目を醒めるだろう。
これは人助け。善いことをしようとしてるだけだから。
まあ、一応勝負だから有り金は全部いただくけどね。
うふふッ・・・


466 :六部198:2006/12/29(金) 13:29:06.53 0
銀色の永遠 〜ミスキャスト〜23

「あ、その前に一つ提案があるんだけど」
次のゲームの準備をしていると、先輩がそんなことを言い出した。
「なんですか?」
「ちょっとしたルール変更」
「『ちょっとしたルール変更』・・・?」
ん?なんだ?
私は鸚鵡返して、とりあえずその内容を聞いた。
「レイズの最大数を+20枚にする」

「・・・はぁ?!」
一瞬。耳を疑った。
どうしてこの状況でそんな提案が出来るんだ?
今、私のチップは64枚。先輩は40枚。
次は私が親だから、私が最初に10枚ベットして、その後レイズで30枚にしたら
アンタは強制的に全チップをベットすることになるんだぞ!

・・・やれやれ・・・この人は完全に頭がイッちゃってるわ・・・
「分かりました。それでいきましょう」
私がそう言うと、先輩は「やったぁ!」と跳びあがり、カードを私に差し出した。

・・・この喜び様・・・多分、私が40枚ベットしたら乗ってくるだろう。
追い詰められたギャンブラーは大抵そうだ。負けを取り返そうとして、大勝負にあっさり乗る。
そして負ける・・・

この人を救済してあげるために、完全に息の根を止めてやろう・・・
私が親になるってことは、ほぼ『100%』勝つことが出来る。
どうしてかって?うふふ・・・まあ、見ててください。


467 :六部198:2006/12/29(金) 13:30:02.46 0
銀色の永遠 〜ミスキャスト〜24

4ゲーム目開始・・・
親である私はまず、リフル・シャッフルでカードを切った。
リフルシャッフルてのは手品師とかがよくやるやり方で、カードの山を半分ずつ両手に持って、
親指を使って交互になるようにバラバラとカードを落としてシャッフルするやつ。

私はカードを落とすときに、ギリギリで自分にマークと数字が見えるように混ぜた。
これはカードの配置を覚えるためだ。
先輩はそれに全く気付く様子が無い。当たり前だ・・・これは私が何度も練習して身に付けた技だから。
え?イカサマ?なにそれ?これは『技術』ですよ。
よっぽどの動体視力と記憶力がないと、出来ないんだから。

次に、ヒンズーシャッフルでカードを切る。ヒンズーシャッフルってのは、所謂普通のやつ。
カードの山を片手に持って、もう片方の手で山の下から数枚を山の上に持っていくやり方。
そして、ここからが腕の見せ所!
覚えたカードのうち、自分が有利になるカードを山の一番下へ持っていく。
経験と勘だけが頼りだけど、もう何度もやっていることだ。
現在なら、9割以上の確率でそれを成功させることが出来る。
ちなみに、この一連のシャッフルは、通常でもよくある事だから全然怪しまれない。
しかも切り方を変えてやると、複雑に混ざってるって思わせることが出来るから、
大抵の人はこれで安心感を覚える。全然逆なのにね・・・

シュッシュッシュッシュッ・・・・

これでよし・・・多分出来てるはず・・・私はシャッフルを終え、今度はカードを配る。
でも、当然普通にはやらない。
普通にやったら必要なカードを下に配置した意味無いでしょ。
そこで登場するのが『ボトム・ディール』って技。


468 :六部198:2006/12/29(金) 13:30:48.87 0
銀色の永遠 〜ミスキャスト〜25

簡単に言うと、カードを上から配るフリをして下から配るってこと。
目の錯覚と、人の思い込みを利用してやるんだけど、これがかなり難しい。
手を正確に素早く動かす技術と、山を変形させずに下から抜き取る技術が必要だから。

さて、どうでもいい解説はこの辺で切り上げよう。
私はカードを配り終え、自分の手札を見た。

ハートK、ダイヤK、クラブK、スペードK、ダイヤ5・・・

よし、完璧だ!
Kの4カード・・・これで勝負は決まったな。
一方の先輩は、表情を崩さずに私の顔を見ている。
様子を探っているつもりなんだろう。
ふふん・・・そんなことをしても、意味はありませんよ。

・・・・・・・・・・
・・・・・・


そして、3分も経たないうちに第4ゲームは終わり、
予想通り先輩は全てのチップを投入し、予定通りゲームは私の圧勝だった。
ちなみに先輩の役は、クラブのフラッシュ。
一応強い役だけど、Kの4カードには叶わない。

「じゃ、先輩。合計52000円。ありがたく戴きます」
私は机の上に出されたお金を手に取り、席を立った。
先輩はがっくりとうな垂れ、何も答えなかった。


469 :六部198:2006/12/29(金) 13:32:03.24 0
銀色の永遠 〜ミスキャスト〜26

少しだけ心が痛む気もするけど、これも先輩のためになったんだ。
私はそう思うことにして、先輩に背を向けたとき・・

ガシィッ!

急に先輩が私の手を掴んできた。

「ちょっと、何するんですか?!」
私は少し乱暴にその手を振りほどく。
「どこへ行くの?まだ勝負は終わってないよ」
先輩は顔を伏せたまま、ボソボソと言った。
あぁ・・・段々イライラしてきた。
「は?まだ終わってないって・・・先輩のチップは、もう残ってないんですよ。どうやって続けるんですか?!」
さすがに少し声が荒くなる。誰だってそうなるでしょ?
でも、先輩はそれにお構いなく、さらにこんなことを言い始める。
「チップが無ければ作ればいいじゃん。オセロのタイルはまだ余ってるし、ノートの切れ端でも代わりにはなるでしょ?」
「はぁ・・・先輩・・・もう終わ――」

バンッッッ!!!!!!!!!

言いかける私を遮るように、先輩は机を叩いて睨みつけてきた。
「ゲームは全8戦や・・・途中での勝ち逃げは許さへん・・・」
「・・・勝ち逃げって・・・じゃあ、もし次も先輩が負けたら、何とチップを交換するんですか?
また銀行かどっかから下ろしてくるんですか?!」
「いや、銀行には、もう殆ど残っとらん」
「じゃあ、結局無理じゃないですか。この後、私が勝っても何のメリットも無い。
そんな勝負は誰も受けませんよ!」


533 :六部198:2006/12/31(日) 14:49:28.12 0
銀色の永遠 〜ミスキャスト〜27

「要は、金に代わるもんがあればええんやろ?」
先輩は、なおも食い下がる。
まあ、質に入れられたり、私が欲しいものならいいけど・・・
っていうか、何か先輩の口調が関西弁に変わってるし。
昔のマンガのキャラで、本気になると関西弁になるっていうのがあったけど、
そういう感じなのかな。
「それに今、『私が勝っても』って言うたが、大層な自信やな・・・」
先輩の目が光る・・・何か、雰囲気変わってきたぞ・・・
でも、私はそんなのに呑まれる女じゃない!
「そりゃそうでしょ?全勝してるんですから。今日の私はツイてるんです」
私は強気に言葉を返す。
最後はまあ、アレだけど・・・それでも次も勝てる自信があった。
「わからんで?次はウチが勝つかも・・・」
「どうでしょう?」
「なら、やってみればええ」
「はあ・・・しつこい人ですね・・・わかりました、いいですよ」
多分、このままじゃ堂々巡りだろう。私はゲーム続行を引き受けることにした。
挑発に乗った感もあるけど、まあいいや。

「でも、さっきも言いましたけど、チップの換金はどうするんですか?」
私がそう言うと、先輩は身に着けている高価そうな指輪とペンダントを外し、それを机に置いた。
「今はこれしか身に着けとらんが、ラ・プレッツァのプラチナリングや、これでも10万相当。
そしてこっちはティファニーのオープンハート、こっちは4万相当。家に帰れば、まだ他にもある」
「・・・いいでしょう」
私はゆっくりと頷いた。


534 :六部198:2006/12/31(日) 14:50:00.28 0
銀色の永遠 〜ミスキャスト〜28

こうして、ゲームは続行されることになった・・・

正直言うと指輪とかが欲しいんじゃなくて、先輩から『奪う』ということに目的がいっていた。
はっきりいってこの人がウザイ・・・惨めな目に遭わせてやろう・・・
カードをシャッフルしている先輩には目もくれず、私はそんな昏い思いに浸っていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

カードが配られ、私は手札を見た。

クラブ2、クラブ7、スペードQ、ダイヤA、ハートA・・・

・・・1ペアか・・・

一方の先輩に目をやると、自分の手札を見てニヤリとした。
多分、いいカードが来たんだろう。
相変わらず、すぐに表情を出す人だな・・・

「ほな、ベット開始や・・・まず、10枚からいこか。桃子ちゃんは?」
先輩はそう言って、チップを出してきた。
・・・後が無いくせに、いきなりこの数・・・かなりの自信だな・・・
「・・・コールで」
ここは、様子を見ないと・・・私は同数のチップを出した。
「ふふ・・・」
先輩が笑う。


535 :六部198:2006/12/31(日) 14:50:54.62 0
銀色の永遠 〜ミスキャスト〜29

「なにがおかしいんですか?」
「いや、別に?じゃあ、ベットが済んだし、ウチは2枚ドローするわ」
先輩は私の問いに答えず、とぼけたようにそそくさとカードをドローした。
そして、手札を見た後、微かに厳しい表情を見せたが再びニヤリと笑う。
その態度・・・何か無性に腹が立つ。
でも、堪えろ桃子・・・ここは冷静に行くんだ。

私は自分のドローの前に考える。
先輩は2枚交換した・・・ってことは、3カードが揃ってたのか?
それとも、1ペアと1枚のこして、2ペア以上を狙ってる?
いや、先輩は初めの手札を見て嬉しそうにニヤリとした・・・
それに、後が無いくせにいきなり10枚もベットした。
この自信は多分、後者だろう。
てことは、私が勝つには3カード以上が望ましい。
今のドローの後、厳しい顔をしたのは、多分3カード以上が来なかったのかもしれない。
でも、全ての組み合わせの確率を考えると、3カードは7割がた負けない強い役だ。
だからその後で笑ったんだ。
ここは私も3カードを狙おう。
「・・・3枚ください」
私はクラブ2と7、スペードQを捨て、新しく3枚を受け取った。

「!!」
新たに来たカードを見を瞬間、私はガッツポーズをしたくなった。
そのカードは、ハート2、スペード2、クラブ2・・・
既に1ペアが揃ってるから、これでフルハウスだ!
3カードなんかより、はるかに強い!
やっぱり勝利の女神様は、この嗣永桃子に完全に味方している!


536 :六部198:2006/12/31(日) 14:51:56.03 0
銀色の永遠 〜ミスキャスト〜30

「随分と嬉しそうやな、桃子ちゃん・・・ええのが来たんか?」
先輩の声で私は我に返った。
そして、心を読まれないように無表情でそれに答る。
「さあ、どうでしょう・・・」
「せやけど、ウチも今回は自信あるで」
先輩はそう言うと、大量のチップを出してきた。

「!!」
私は思わず固まった。

「レイズ、30枚や・・・」

後が無いくせに・・・どういう神経してるんだ?
単なる3カードで、そこまで大きく出るつもりなのか?

・・・妙に気になるな・・・ここは揺さぶりをかけてみよう。
「リレイズで50枚いってもいいですか?」
私はチップを50枚出してみた。

だが、先輩はあっさりとそれを承諾した。
「・・・ええで、50枚と言わず、80枚くらいいったらどうや?この際、レイズは無制限にしようや。
それで勝てば合計90やから、このペンダントに相当するで。『勝てば』・・・な・・・」
「なッ・・・!」
私は言葉を失った・・・そこまで自信があるの?
もしかして・・・3カードどころじゃないってこと?

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・


537 :六部198:2006/12/31(日) 14:53:01.42 0
銀色の永遠 〜ミスキャスト〜31

もしかして、私と同じようにフルハウスが周ってきたとか?
さっきの先輩のあの表情は演技だった・・・?
いや、それとも、やっぱり弱いカードで私を揺さぶってるだけとか?

・・・まずい・・・疑心暗鬼になってきた。
ここで、もしも負けたら一気に60枚、もしくは90枚失うことになる。
せっかくここまで勝ったのに、そんなのはゴメンだ!

「早よせえや・・・どないすんねん」
うるさいッ!このダブりッ!!!!

なんか不気味だ。嫌な予感がする。
ここは、無理して勝負せずに、次のゲームで勝負したほうがいいんじゃないか?
フルハウスは惜しいけど、次は私が親だから、イカ・・・いや、技で勝てる!
よし、そうしよう。ここはドロップで降りる。

「先輩・・・」
「ん?80枚でいくか?」
「いえ、ドロップします」
私のその言葉を聞くと、先輩はあからさまに嫌な顔をした。
「は?あれだけ『今日の私はツイてるんです』とか言っといて?ドロップ?!」
先輩は私の口調の真似をして、思いっきりバカにしたように言った。
「・・・はい、お願いします。」
はらわたが煮えくり返るような気分だけど、ここは我慢だ。
私は感情を押し殺し、先輩に頭を下げた。


538 :六部198:2006/12/31(日) 14:53:57.42 0
銀色の永遠 〜ミスキャスト〜32

先輩はネチネチと小言を言いながらも、ドロップに応じた。
ていうか、ドロップするしないは自由だし、先輩に断る権限はない。

そして、私がドロップしたから次のゲームに進むわけだけど、
その前に気になることがあった。
「先輩・・・」
「なんや?」
「先輩のカードはなんだったんですか?見せてくださいよ」
そう、私の予感が当たっていたか確かめたかった。
すると先輩は、カードストックに戻そうとしていた自分の手札を黙って私に見せた。

ハートJ、ダイヤJ、スペードJ、ジョーカー、ダイヤ9・・・

ジョーカーを含んだJのワイルド4カード・・・どうやら、ドロップして正解だったみたい。

「よかったぁ・・・」
私は胸をなでおろした。
「かぁ〜、80枚発言がまずかったかんかな〜」
先輩は口惜しそうに頭を掻き、そのカードをストックに戻した。
「先輩、2回目のドローの後で一瞬厳しい顔になりましたよね。あれはやっぱり演技だったんですか?」
この際だから聞いてみた。
「ん?そんな顔になってた?気付かへんかったわ」
「・・・そうですか」
とぼけてるの?それとも・・・
怪しいな・・・まあ、いいや。とりあえず危機は回避したわけだし、次は勝てるゲームだ。
そう思うと一気に安心感が湧いてきた。
そして、私はカードをシャッフルをし始める。
勿論、仕込みは万全にね


539 :六部198:2006/12/31(日) 14:54:50.90 0
銀色の永遠 〜ミスキャスト〜33

仕込みは4ゲーム目のときと同じ。
予定通りに行けば、Qの4カードになる手筈。

実は、最初に4カードを揃えるのはやめておいた。
まずはハートQとスペードQだけを手元に置いて、他は全然関係ないやつ。
あとはドローで揃えることにした。
なんでかっていうと、前のゲームから先輩の雰囲気が変わったのが原因。
なんか嫌な予感がしたんだよね。そして、その嫌な予感はある程度的中することになった。

「なあ」
仕込みシャッフルを終えてカードを配ろうとしたとき、黙ってそれを見ていた先輩が口を開いた。
「シャッフルをさ、二人でやらへん?」
「え?」
「いや、よく考えたらカードを配る親だけがそれをするのは、ちょっとおかしいんちゃうか?
・・『イカサマ』をする絶好のチャンスやろ」

ギクゥッ!!!

緊張が走った。
「え、ああ・・・確かにそうですね・・・でも、そんな・・・イカサマなんて・・・」
ヤバイ・・・私キョドッてる。
「いや・・・別に疑ってるワケじゃなくて、一応・・・な?」
いや、疑ってる・・・目で分かる。私の連勝に疑いを持ち始めてる。
やっぱり、なんかこの人、勘が鋭くなってる・・・
「そ、そうですね・・・ハハは・・・」
その提案を拒否することは出来なかった。
そんなことをしたら、完全に怪しい。


540 :六部198:2006/12/31(日) 14:56:03.03 0
銀色の永遠 〜ミスキャスト〜34

私が提案を受け入れると先輩は笑顔になり、カードストックの上半分だけを取り上げた。
「えっと・・・さっき桃子ちゃんがやってたヤツ・・・こうだっけ?」
そう言って先輩は、たどたどしい手つきでリフルとヒンズーの2種類のシャッフルをした。
そして、シャッフルした上半分を元の場所へ戻すと、それを3つに分けた。
「あとは、桃子ちゃんがそれを入れ替えて終わり」

・・・つまりは、こういうことらしい。
初めに通常通り親がシャッフルして、その後に子がカードを二つに分けてどちらかをシャッフル。
そして最後にそれを3つに分けて、親がそれを組み替える。
ちなみに、最後の作業は『カット』っていうやつ。
イカサマ防止ってことで、親がシャッフルした後に別の人がやる『しきたり』みたいなやつ。
でも、今回はそれも意味が無い。
先輩は上半分だけをシャッフルしてカードが仕込んである一番下には触れてない。
しかも、カットには逃げ道があって、組み替えたように見せて全く動かさない『ブラインドカット』と呼ばれる技がある。
そして私はそれが出来るし、カットも親である私がやる。
うふふ・・・一瞬焦ったけど大丈夫だ。結局、先輩がやったことは無意味なんですよ。
私はホッと胸をなでおろし、ブラインドカットを用いてカットをした。

そして、やっとカードを配ろうとしたとき・・・
「あ、そうだ。もう一つ」
・・・またもや先輩が注文をつけてきた。
「まだあるんですか?」
ホント、イライラするなぁ。
「いや、難しいことちゃうねん」
そう前置きして、先輩は指を立てた。
「最初にカードを配るのは親がやるねんけど、ドローは自分でやる。それだけ」


541 :六部198:2006/12/31(日) 14:56:51.69 0
銀色の永遠 〜ミスキャスト〜35

自分でか・・・まあ、別にこれも意味は無いからいいか。
先輩のカードを操作するつもりはないし。
私は「はいはい」と適当に返事を返した。
「すまんな。途中で色々と注文つけて」
先輩は申し訳なさそうに言った。
「いえ、いいんですよぉ。じゃあ、始めますよ」
私は気を取り直して、予定通りのカードを配った。

手札はこんな感じになった。

ハートQ、スペードQ、スペードA、クラブA、ダイヤA・・・

うそ・・・いきなりフルハウスだ・・・
一瞬、このままいっちゃおうかと思ったけど、4カードの方が安心だ。
私は偶然巡ってきたフルハウスを捨て、予定通りに4カードを組むことにした。
どうせなら、次のゲームで来て欲しかったな・・・

先輩の方を見る。
すると、向こうもちょうどこっちを見ていて、目が合う形になった。
何となく気まずかったので、笑顔で返しておいた。

・・・・・・・・・・・・

その後、1回目のベットを済ませ、それぞれが自分でカードを交換してドローも終了。
ちなみに、1回目のベットは私が5枚、先輩が10枚ベットした。
そして、2回目のベットに入る。


542 :六部198:2006/12/31(日) 14:57:49.63 0
銀色の永遠 〜ミスキャスト〜36

私はQが揃って4カードが完成しているので、強気にレイズで20枚ベットした。
もっといっても良かったんだけど、あんまりやると、さっきの私みたいに
先輩がドロップしたら台無しになっちゃうからね。

「先輩、どうぞ」
先輩にベットを勧める。
「・・・リレイズで80枚・・・」
「・・・え?」
目の前には、オセロタイルのチップを、さっき作っておいた新たなチップがある。
「桃子ちゃん・・・どうやら、運はウチに向いてきたようや。
どうする?限界突破のオマケ付きリレイズ受けてくれるかな?」
先輩は唇の両端を上げ、不敵に笑った。

まさか、また・・・?
いや、でも・・・たしかに前のゲームで先輩はワイルド4カードを完成させたけど、
こっちは2連続でフルハウスがきた。
運ならまだこっちの手元にある。
まあ、Q2つは私の仕込みだけど、Aがいきなり3つも来るだけでも相当なもんだ。
ここでリレイズを断ってもいいけど、それは私のプライドが許さない。

やってやる・・・!!

「いいですよ。受けてたちましょう」
私は追加でチップを60枚出した。
これで勝てばチップ90枚・・・先輩のペンダントと、ほぼ同価値。
いただきますよ・・・

ドドドドドドドドドドドドドドドド・・・・!!!!


543 :六部198:2006/12/31(日) 14:59:06.71 0
銀色の永遠 〜ミスキャスト〜37

「ふふッ・・・ええ目をしとるな・・・容赦とかそういうのが一切ない」
お褒めの言葉、ありがたく頂戴します。
「ええ、その通りですね、先輩・・・」
私はそう言って、手札を開示した。
「Qの4カード」
余裕たっぷりに見せ付けると、先輩の表情が凍りつく。
「うふふ・・・さあ、先輩のも見せてください」
「・・・さっき言ったな。運はウチに向いてきとるって・・・」
「・・・はい?残念ですけど、それはありませんよ。」
私は憎まれ口を叩いたが、先輩はそのまま表情を変えずに手札を1枚机に置いた。

ハート5・・・

「運は天下の回り物・・・桃子ちゃんは初めに勝ちすぎた・・・」
また1枚・・・

ハート6・・・

「勝ちすぎたから・・・運が使い果たされた・・・」

ハート7・・・

ハート8・・・

次々と開示されるカード・・・それに伴って、先輩の表情がにやけていく・・・
え・・・?まさか・・・これは・・・

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・


607 :六部198:2007/01/01(月) 13:06:03.93 0
銀色の永遠 〜ミスキャスト〜38

最後のカードは、ハートの9・・・そんな・・・

「ハートのストレートフラッシュ・・・ウチの勝ちやな」

ドオオオオオオオォォォオオオオオオオォォォォンンンンンンン!!!!!!!

「そんなバカなッ!!!????」
私は手を机に叩きつけるように立ち上がって先輩を睨んだ。
「どうしたん?そんな怖い顔して」
先輩は一瞬睨み返してきたが、直ぐに笑顔に戻ってチップを回収した。
「これで、ウチのチップは85枚やな。一気に取り戻せたわ。
とりあえず、この仮チップは横に置いとこう。ワケわからなくなるし」
そしてリフルとヒンズーを織り交ぜながら、カードをシャッフルし始めた。

「・・・」
私は呆然と立ち尽くした。
そんな私に向かって、先輩は1度シャッフルし終えたカードを二つに割って差し出してきた。
「さ、座ってどっちか選んで。まだチャンスはあるがな」
励ましてるつもりなのか?でも、それが余計にムカつく。
でもそうだ、まだ2ゲーム残ってるんだ。
そして、最後は私が親だ・・・チャンスはある。
私は気持ちを切り替え、カードをシャッフルした。

それでも、85枚のロスは痛い。
なんとか次を持ち堪えないと・・・


608 :六部198:2007/01/01(月) 13:06:42.32 0
銀色の永遠 〜ミスキャスト〜39

ズオオォォォォォオォォンンンンンン・・・・・・・・

・・・ああ・・・持ち堪えられなかった・・・

7ゲーム目での私の手札は、2と7の2ペア・・・先輩はあろうことか、10+ジョーカーの5カード・・・
連敗・・・その2文字が肩に圧し掛かり、私はその重みで机に突っ伏した。
チップを全て失ってしまった・・・0枚だ・・・

「さて、桃子ちゃんはチップが無うなってしもうた。
ここからは、新たにチップを作るわけやが・・・桃子ちゃんは、もうお金ないわな・・・
まあ、だからウチに勝負をふっかけてきたんやろうけど」
「・・・」
意地悪そうに言う先輩に、何も答える気にならない・・・
「金が無いなら、ウチみたいに何かを担保にチップを作らないかんな」
そんなのあるわけがない・・・いや、まてよ・・・

担保・・・お金・・・梨沙子に・・・

・・・ッ!!!!!!!!!!

私は首を振って悪魔の囁きを必死で振りほどいた。
・・・何を考えてるんだ私は!!!そんなことをしたら、誇りも何もないただのクズじゃないか!!

ギュゥゥ・・・

ん?なんだ?何かが私の手を握ってきた。
・・・それは先輩だった・・・


609 :六部198:2007/01/01(月) 13:07:36.77 0
銀色の永遠 〜ミスキャスト〜40

先輩が私の両手を机の下から握っている。
しかも、なんだ?この妖しい微笑みは・・・
「・・・あの・・・なんでしょう・・・?」
恐る恐る聞いてみると、先輩はその手に力を込めてこう言った。
「無いんやったら、体で払ってもらおうか」

え?か、体・・・?・・・ハッ・・・!!
そのとき、頭の中にあるワンシーンが浮かんできた。
ほら、時代劇でよくある、借金のある町娘がお代官様にアレされて帯をクルクル・・・みたいなやつ。

「ゲーム中ずっと見てたんだけど、キレイな指してるよね・・・小っちゃくてかわいい・・・」
その言葉が決定的だった。
この人、もしかして・・・『そういう特殊な趣味』が・・・?!

ゾオオォォッ・・・

「ッ!!」

私は寒気を覚え、すぐさま手を引っこ抜いて身構えた。
「あの、私、そういう趣味はありませんので。それだけはカンベンしてください」
私は毅然とそれを断った。
人それぞれだし差別するつもりは無いけど、私は至ってノーマルだ。それはいけない!
梨沙子にお金を借りるとかよりも、マズイ!

「・・・なんか勘違いしとるやろ?」
「・・・へ?」
ん・・・?勘違い?


610 :六部198:2007/01/01(月) 13:08:33.26 0
銀色の永遠 〜ミスキャスト〜41

「別にヘンな意味ちゃうわ」
「じゃ、じゃあ、どういう意味ですか?」
「はぁ・・・」
先輩が呆れたように溜め息を吐いた。
ああ、そんな目で見ないでください・・・
なんか凄く恥ずかしい・・・まるで私がヘンなことばかり考えてるみたいじゃないか。
だけど、先輩の要求は、それをはるかに上回るものだった。
「これや」
先輩が指を立てる。
「指を賭けぇ」

「・・・はい?」
今・・・なんて・・・?

「1本チップ40枚。40枚負けたら、指1本貰うで」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・

貰うって・・・それはつまり・・・所謂、指摘めってやつじゃないか?
な・・・何を言ってるんだ?!この人は!!
私が呆気に取られている中、先輩は眉一つ動かさずに淡々と説明を続ける。
「でも、次が最後のゲームや。せやさかい、次は40枚単位でベットすることを要求する。
ギリギリ39枚で逃げられては適わんからな。」
「何を考えてるんですか!!そんなの、無茶苦茶です!!!」
私は必死で抗議する。
やっぱり、この人イカレてるッ!!
完全な異常者だッ!


611 :六部198:2007/01/01(月) 13:09:32.66 0
銀色の永遠 〜ミスキャスト〜42

指1本、40枚?現金に換算すると、たったの2万円じゃないか!
いや、一億積まれたって嫌だ!
・・・どうする?こんな無茶苦茶な条件を呑んでまでやる必要は無い・・・
いっそのこと、ゲーム自体を放棄してもいいんだ。
先輩はごねるだろうけど、言わせておけばいい。
それにもしもの場合は、私のスタンドでぶっ飛ばせばいいんだ。

・・・いや、でも待てよ・・・?
どうせ、次は私が親だ。
普通に勝てばいいじゃないか。
いくら賭けてもいいんだ。
負けを全部取り返して、更に身ぐるみを剥いでやればいんだ。

・・・よし・・・

私は意を決して、答えを出した。
「いいでしょう、分かりました。私の指を賭けましょう」
「・・・Good・・・さすがやな・・・」
プッ・・・『Good』だって・・・余裕こいてカッコつけちゃって・・・
その顔が、あと数分もしないうちに泣きっ面になるのが楽しみですよ。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・


612 :六部198:2007/01/01(月) 13:10:10.49 0
銀色の永遠 〜ミスキャスト〜43

バラバラバラバラバラバラ・・・・シュッシュッシュッシュシュ・・・・

私は手際よくカードをシャッフルしながら、仕込みを始める。
今度はロイヤルを狙う。今回のルールでは、ロイヤルよりも強い役は無い。
まあ、はっきり言ってロイヤルなんて仕込んだら怪しさ抜群だけど、そうも言ってられない。
指が懸かってるんだ・・・確実に勝たないといけない。
さっきみたいに、偶然先輩の役が強いなんてこともありえるからね。

でも、さっきの細かいルール変更のせいで、私がシャッフルしたあとに
それを2つに分けて先輩がどちらかを選んで更にシャッフルするわけだから、
今までのようにカードの下だけにカードを集めるんじゃなくて、上にも仕掛けを施さないといけない。
都合のいいカードを、2枚おきに交互に置くのだ。
そして、配るときに上から2枚目のカード配る『セカンドディール』という技を織り交ぜる。

勿論、初めから揃うような配置にはしない。
初めにロイヤルが来る確率なんて100万分の1以下だから、
そんなことをしたら、それこそ『ザ・イカサマ』って感じでしょ?
まあ、上手い具合にドローで揃うようにやるわけですよ。うふふ。

「さあ先輩、選んでください」
仕込みを万全に終えた私はカードストックを2つに分け、先輩にどちらかを選ばせた。
それにしても、2箇所の仕込みを同時にやるなんて神業クラスのはずなんだけど、
このときの私は、まさに神がかってた・・・我ながら惚れ惚れするわ。
「う〜ん・・・じゃあ・・・」
先輩はしばらく迷ったあと、上のストックを手に取った。
そして、私と同様にシャッフルをしだす。


613 :六部198:2007/01/01(月) 13:11:03.49 0
銀色の永遠 〜ミスキャスト〜44

「どうや、上手くなったやろ?シャッフルのコツを掴んだで。
これでも結構器用なほうなんでな」
先輩はシャッフルしながら、得意げに私のほうを見てきた。
確かに、さっきよりも随分と上手くなった。
練習を重ねれば、私のような技ができるようになるだろうな。
「・・・こんなもんやろ」
一通りシャフルを終えた先輩はカードを一つにまとめた。
「では・・・」
先輩はさっき上のストックを選んだから、下を動かさなければいいわけだな。
私はまとめられたストックをを3つに分け、ブラインドカットを開始した。

「・・・じゃ、配りますよ」
「・・・」
先輩は無言で頷く。
・・・なんか嫌な空気だな。
まあいいや。さっさと終わらせて、戴くもん戴いちゃおう。

・・・・・・・・・・

さて、現在の手札は・・・と。

ダイヤ5、クラブ9、ダイヤJ、ダイヤK、ダイヤA・・・

・・・予定通りだ。
あとはドローのときに、ストックの下からダイヤの10とQを取ればいい。
たったそれだけで、私の勝利。


614 :六部198:2007/01/01(月) 13:12:15.18 0
銀色の永遠 〜ミスキャスト〜45

一方の先輩は険しい顔をしている。
緊張なのか、それとも・・・演技か・・・どうにも読み取れない。
ま、今回は問答無用で私の勝利だから、表情を読む必要は無い。

次はベットだ。
だけど、さっきの取り決めのせいで、私は40枚単位でベットしないといけない。
「・・・40枚からいかせてもらいます」
「40枚から・・・やっぱり怖いんか?」
先輩が挑発してくる・・・自信たっぷりだな。
別に片手指五本分の200枚でもいいんだけど、そんなのはやっぱり怪しまれる。
「いえ、あんまりチップを乗せたら、先輩がビビッてドロップしてしまうかもしれませんし」
・・・逆に挑発し返してやった。どうでるかな?
「心配せんでもええ。最終ゲームでドロップなんて無粋なマネはせんわ」
「その言葉・・・信じていいんですか?撤回は出来ませんよ?」
「フン・・・」
先輩が鼻で笑う。
「その態度、肯定と取りますけど・・・」
「ありのままに受け取ればええ・・・コール」
先輩はそう言って40枚のチップを出した。

・・・言質がとれた。
これで思いっきりいけるな。
「・・・じゃ、2枚ドローします」
私は要らない手札を2枚捨て、ボトムディールで下から必要なカードを抜き取る。
が・・・そのときだった。
「・・・しかし、あれやな・・・やっぱ桃子ちゃんの手は可愛いな・・・」
カードを抜き取っている最中、先輩が急にそんなことを言い出した。


615 :六部198:2007/01/01(月) 13:13:37.03 0
銀色の永遠 〜ミスキャスト〜46

「・・・はい?」
私はそう聞き返しながらも、抜き取ったカードを手札に混ぜた。
これで全てが揃った。
ダイヤのロイヤルで完全勝利だ。
でも、先輩の言葉が気になる・・・なんだ急に?
「ウチは3枚ドローするわ」
先輩は私の言葉に答えず、ストックからカードを抜き取って手札に混ぜる。
ドローはセルフサービスってことになったので、別に問題はない。
「・・・しかも・・・その可愛いお手手で、随分とナメたマネしてくれたな・・・」
先輩は一通り手札を見た後、そう言って私に視線を移した。
・・・恐ろしいほどの殺気を含んだ視線を・・・

ゾクゥゥッッ・・・!!

「えっと・・・い、一体・・・な、何のことでつ・・・か?」
自分でも顔が引きつっているのが分かる。
しかも、呂律が上手く回ってないし。
「・・・・」
先輩は尚も私を見ている・・・いや、これは完全に睨んでるぞッ!
まさか、バレたッ?!

まずいまずいまずいぃぃッッッッ!!!!

頭の中の危険信号、赤青黄色の全部が真っ赤に染まって物凄い勢いで点滅している!
な、なんとかしないと・・・ッ!

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!!!!!


616 :六部198:2007/01/01(月) 13:14:26.00 0
銀色の永遠 〜ミスキャスト〜46

「まあ、ええわ・・・ウチ相手に『連勝などというナメたマネ』はもうでけへんやろし」

・・・え?

「さあ、桃子ちゃん。2回目のベットに入ってくれへんか?」
先輩がそう言うと同時に、あれほど溢れ出ていた殺気が潮が引いていくように収まった。

・・・『連勝などという』・・・ああ、そうか・・・ナメたマネっていうのは、そういう意味だったのか。
よかった・・・バレてないんだ。

「あ・・・ははは・・・じゃあ、チップを賭けさせてもらいます」
こういうのがまさに、『虎口を脱した』ってやつなのかな?
まったく・・・びっくりさせないでくださいよ。
私は額に滲出た脂汗を拭い、チップを出した。

「レイズします。160枚で」
私はここで一気に大量ベットした。
ゲーム続行となれば、もう怖いもんは無い。
「160枚?そんなに行ってええんか?もしもそれで負けたら――」
「片手の指を全て失う・・・ですよね?負けたらの話ですけど」
私は先輩の言葉に被せるように言った。
フン・・・心配でもしてくれてるんですか?
それなら、自分にしたほうがいいですよ。
「怖いですか?でも、ドロップもしないって仰いましたよね。
ドロップは無しですよ。まあ、どうしてもって仰るなら構いませんけど」


617 :六部198:2007/01/01(月) 13:15:14.24 0
銀色の永遠 〜ミスキャスト〜47

「いや・・・ドロップはせえへんよ。こんなにおいしいカードが揃ったんやし」
先輩はそう言って、私と同じ量のチップを出した。
「コールや。リレイズしたいけど、欲は抑えなアカンな」
・・・ほう・・・そんなにいいのが来たんですか。
でも、それも無駄ですけどね。
私の役はダイヤのロイヤル。つまり最強なんですよ。

「そろそろ、オープンといきますか」
ベットは終わった。先輩の泣きっ面が見てみたい。
「ああ、ええよ」
その言葉を受けて、私が必勝の手札を見せようとしたときだった。
突然先輩は手札を裏返しにして机のうえに置いてしまった。

「・・・先輩?どうしたんですか?」
不審に思った私は尋ねたが、先輩はそれには答えずに口を開いた。
「しかし、随分と余裕の表情やな、桃子ちゃん」
「・・・?そう見えますか?」
「そうや。負けたら片手の指を全部失うっちゅうのに、余裕たっぷりや。
いや、むしろ緊張が無いって感じやな」
「そうでしょうか・・・まあ、相当強い役がきたんで・・・」
・・・確かに、仕込んだカードで絶対に勝つから緊張感は少し薄れているのかも。
「でも、ウチのも相当なもんやで」
「私のものですよ。それに、先輩も随分余裕があるように見えますが」
「ふふッ・・・そうか・・・?」
先輩は笑いながら、机に片肘をついた。


銀色の永遠 〜ミスキャスト〜48

この自信・・・先輩の役は何なんだろう?
もしかすると、さっきのように5カードなんていう奇跡を起こしてしまったのかもしれない。
だとすると、ロイヤルを仕込んで正解だったな。
絶対に負けないというのもさることながら、仕込みという疑いは起こりにくい。
なぜなら、お互いに奇跡のような役だからだ。

「それにしても、この勝負を通して感じたことやねんけど・・・」
先輩は話を続ける。
「ウチと桃子ちゃんはよう似てると思うねん」
あんたみたいなイカレた女と似てるなんて、そりゃないですよ。
本当はそう言いたかったけど、一応無難な答えにしておこう。
「そうですか?」
「そうやで。しかも、ウチも桃子ちゃんも自分の役に
かなりの自信を持っとるみたいやし、もしかすると同じ役かもしれへんな」
先輩は机の上に置いた自分の手札を手に取った。
私と同じロイヤル?ありえないです。
ポーカーは100年以上の歴史がありますけど、一度もそんなの聞いたことが無い。

「当ててみよか」
自分のと私のカードをチラチラと見比べながら、先輩が笑みを浮かべる。
「ロイヤルストレートフラッシュちゃうか?」

「ッッッ!!!!!!」

私は耳を疑った。
「え・・・今、なんと?」

銀色の永遠 〜ミスキャスト〜49

「ん?当たってたか?」
「・・・」
呆然とする私をよそに、先輩は更にこう言った。
「そうやな、ハート・・・いや、ハートは10があったから無いな・・・
じゃあ、ダイヤかクラブ・・・うーん・・・クラブのロイヤルか?」
違う・・・私のはダイヤのロイヤルだ。
いや、そう言う問題じゃなくて、何で相手がロイヤルを揃えた言えるんだ?
普通なら、もっと現実的な役を言うはずだ。
「桃子ちゃん?どうや?・・・桃子ちゃん?」
「・・・」
答える気にならない・・・見たければ勝手に見ればいい。
そんな私の心の内を察したのか、先輩は私の手からカードを取り上げた。
「あ〜、ダイヤやったか・・・惜しかったな。でも、やっぱりウチと『同じ』やったな」

ん・・・?同じ?ちょっと待った・・・
「先輩?今、同じって・・?」
私は思わず身を乗り出した。
「ん?ああ、さっきも言うたやん」
「・・・てことは・・・」
「ああ、そうやで・・・」
先輩がゆっくりと自分の手札を見せてきた。
その内容は・・・

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・

「スペードのロイヤルストレートフラッシュ」

ドオオオォォォォォォォオォォッォオオオオ!!!!!!!!!

銀色の永遠 〜ミスキャスト〜50

そんな・・・先輩もロイヤルなんて・・・

「そんなッ!!!ありえないッ!!!」

ガタンッ!!!

勢いよく立ち上がったため、椅子が倒れてしまった。
でも、そんなことは目の前の光景に比べればどうでもいいことだ。
私は先輩のカードをひったくるように取り上げ、それを凝視した。
スペードの10からAまでがキレイに揃っている。
「何度見ても一緒やで」
先輩はそう言うが、信じられなかった。
私だって素でやって今まで出たことは無い・・・
普通にやってもこんな役は・・・ハッ・・・!
ここで私は、ある可能性に気付いてしまった。
そうだ、『普通』にやっても、まずお目にかかれる役じゃない・・・
だったら普通じゃなければいい・・・

「せやから言ったやろ?似てるって。きっと、やること考えることが似とるんやろな」

先輩の言葉が私の予想を決定づける・・・もう、『そう』としか言いようが無い!

『私と同じことをして』ロイヤルを完成させた・・・つまりそれは・・・

          イ カ サ マ ! ! ! ! ! ! !

ドッギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!

銀色の永遠 〜ミスキャスト〜51

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・

「先輩・・・あなたは・・・」
「フフ・・・やっと気付いたんか?」
先輩は足を組み、カードストックを手にとってシャッフルした。
「どうや?器用なもんやろ?」
その手つきは恐ろしく滑らかで、歴戦のギャンブラーそのものだった。

私は力なく椅子に座り込んだ。
・・・なんてことだ・・・今までのド素人丸出しの言動は、全部演技だったってことか・・・
そして、まんまと騙された。

「イカサマはあかんわぁ、イカサマは・・なあ、桃子ちゃん」
先輩はカードストックを置き、身を乗り出してきた。
「まあ、こっちもイカサマしとるんやけどな」
・・・気付いてたのか・・・そして、やっぱりこの人も・・・
「どこで、気がついたんですか?」
私は口惜しさを押し殺しながら、先輩に問うた。
「疑いを持ったのは、第4ゲームのとき。
あの時、ウチがチップを増量して、しかもベット数を大幅に増やすと言ったとき、
どうしてあっさりとそれを受けた?リスクも大きいはずなのに」
「それは――」
「それは、『絶対』に勝つ自信があったからやろ?
絶対に勝てる・・・それはつまり、イカサマをするからや。
でももしかすると、ただ単に上り調子なのかもしれん。
だからまだ、あの時点では確信できんかった」

銀色の永遠 〜ミスキャスト〜52

・・・そういうことだったのか・・・
いま冷静に考えてみれば、おかしすぎた・・・
でも、私は先輩のことを甘くみてた・・・ただ、負けを取り返そうとする敗者。
そう思い込んでいた。

先輩は話を続ける。
「結局4ゲーム目でイカサマをしてたかどうかはわからんかった。
本当に調子付いてたのかもしれへんかったからな。
せやから、第5ゲーム目からはこっちがイカサマをすることにした。
でも、正直金が底をついてたんでな、アクセを担保にしたんやけど、
あのとき、桃子ちゃんがウチを可哀想と思って勝負を降りたらどうしようかとヒヤヒヤしてたわ。
どうしてもってことで、勝負を終わらされたら敵わんからな。応じてくれたんでよかったわ。
ちなみに、どうやったん?4ゲーム目は、イカサマしてんたか?教えてえな」

「・・・」
私は無言で頷く。
すると、先輩は手を叩き、嬉しそうに笑った。
「おお、ウチの勘もなかなかのモンやな。
・・・話を続けるが、第5ゲームめ・・・桃子ちゃんはドロップした。
ここではどっちでも良かったんや。したらしたで、もう逃げられん。
それにどっちにしても、お互いのカードを見せ合うからな。
そして、ウチのカードを見たとき、桃子ちゃんはヒヤっとすると同時にこう考えると思った。
『次は自分が親・・・イカサマが出来る』・・・と」

・・その通りだった。
先輩が強いカードを出してきて、正直焦った。
でも、どうせ次は私が勝てる。なんせ、自分のカードを思い通りに出来るから。

銀色の永遠 〜ミスキャスト〜53

「でも、やっぱり桃子ちゃんはイカサマなんかしてないかもしれん。
そこで、ウチはそれを確かめるために桃子ちゃんを揺さぶり、
カードシャッフルとドローのときの手順変更を申し出た。
どっちにしろ、桃子ちゃんに拒否することは出来ん。
イカサマをしてれば、それを拒否するのは怪しい。
してなかったら、一度抗議するだろうが、ウチが説得して公平性をアピールすればいい。
そして、ウチがカードをシャッフルするとき、ある仕掛けを施した」
「・・・仕掛け?」
「そう、桃子ちゃんがイカサマをしているかどうかを、確実に確かめる仕掛け」

・・・なんだ?何をしたんだ?
「桃子ちゃん、6ゲーム目の最初カード・・・エースが3つ揃ってへんかった?」
「え?」
・・・?なんだ?どうして知ってるんだ?
「実は、ウチが上のストックをシャッフルしたときに、こっそりエースを全部上に集めたんや」
「ええ?!」
「フフ・・・別に驚くこともないやろ。桃子ちゃんも似たようなことをしてたんやから。
まあええ、話を戻すで。その状態で普通に上から配ればお互いに2枚ずつあるはず。
でも・・・桃子ちゃんは3枚、ウチのところには1枚や。
何かおかしいな・・・それはつまり、『普通に配らなかった』っちゅうことやろ。
そして、その時点で確信した。この子はイカサマをしてるって・・・」
「う・・・」
ニヤリと笑う先輩に対して、私はただ、呻くことしか出来なかった。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・

銀色の永遠 〜ミスキャスト〜54

「ちなみに、あのストレートフラッシュは偶然やで。イカサマちゃう」
うな垂れる私に、先輩はそう言った。
・・・え?偶然だって?

そんな私の思いを見透かしたように、先輩は続ける。
「信じられへんって顔やな。でも、ホンマやねん。ウチもビビッたわ。
別に、あの時点でさらにイカサマをして勝つ必要は無かったからな。
せやけど、それが来たことで、更にもう一度イカサマかを確かめることが出来た」

その先の言葉は、もう分かってる。
あの不自然なリレイズだ。
今考えれば、あれはおかしかった。
でも、私は4カードということに胡坐をかき、先輩がそれよりも強い可能性が
あることを知りながらも、ケチなプライドと欲で引き受けてしまった。

・・・・・・・・・・・・

その後、7ゲームは先輩がイカサマをしてたと告白した。
そりゃあそうだ、5カードなんて普通にありえない。
そして、先輩の話はまだ続く。
そう、最終戦についてだ。

「さて、桃子ちゃんは、最終戦もイカサマをすることにした。
いや、『せざるを得なかった』・・・とも言うか?
そりゃそうやな。負けたら指を失う。どうしても負けるわけにはいかん。
まあ、そうするように仕向けたのはウチやがな」

銀色の永遠 〜ミスキャスト〜55

・・・『そうするように仕向けた』・・・どれを指しているのかは、もう分かってる・・・
どうして気付かなかったんだ・・・おかしいとは思ってたはずなのに・・・

「その顔だと、もう分かってるみたいやな。
指1本2万とか、ありえへんからな。まさに、ハイリスクローリターンや。
でもそれを受けた・・・イカサマで勝つから。でも、これは負けられないゲーム。
絶対的な役を揃えないといけない。そう、それはロイヤルに他ならんな・・・。
シャッフルのルールが変わったから、それは上下に仕込まないといけない。
言い換えれば、ストックの上半分と下半分にロイヤルのカードが絶対あるってことや。
せやから、ウチはそれを利用した・・・そこにあったスペードのロイヤルをこっそり仕込んだんや。
・・・こんな風に・・・」
そう言って先輩は机に置いてあるストックからカードを10枚取り、
その内の5枚を制服の袖に入れた。
そして、再びストックに手を伸ばしてカードを取るフリをして、ゆっくりと袖の中のカードを手中に収めた。

「・・・な・・・ッ!!」
言葉が出なかった・・・そんな古典的で簡単なトリックで・・・
だけど、その動きは恐ろしく滑らかだった。
今はわかりやすくゆっくりとやっているのだろうけど、本番ではもっとスピードを上げていただろう。
よっぽどしっかりと見ていないと分からない。
ただでさえ私は先輩を見くびり、そして自分の手札に酔いしれていたのだから、
あの時点では気付くはずもなかった。

先輩は手に取ったカードを元に戻して両手を広げた。
その表情は『どうだ』と言わんばかりだった。

銀色の永遠 〜ミスキャスト〜56

「でも、偶然スペードのロイヤルが出来るほうでよかったわ。
じゃないと、勝負は引き分けか負けになってまうからな。
まあ、そうだとしても、桃子ちゃんがボトムディールをしているところで
その手を掴めば、イカサマを証明してウチの反則勝ちってことにできるがな。
それだと、本当に勝ったことにならんしな」

・・・ん?

「ちょっと、先輩・・・」
私は先輩の言葉に疑問を持ち、口を開いた。
「おっと、『そっちもだろ!』なんて言わんとってな。
イカサマはばれなければイカサマちゃうねんからな」
先輩は唇に指を当てがいながら言ったが、私が言いたいのはそっちじゃない。
「あの・・・引き分けでは?同じロイヤルですし・・・」
「あぁ?違うやろが。同じ役で同位のカードの場合、
スペードがあるほうが勝ちって最初に言うたやろが」

ああ・・・そうだ・・・そういえば・・・
サアァ・・・と血の気が引いていく感じがする。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・

「つまり、最終ゲームはウチの勝ちやろ。
約束どおり、チップ200枚分・・・払ってもらうで・・・」

ドッバアアアアアアアアアアアアアンンンンンンン!!!!!!!!!!

銀色の永遠 〜ミスキャスト〜57

200枚・・・つまり、指5本分・・・
でも、まさか・・・本当に・・・?

「ところで桃子ちゃん、利き腕どっちや?」
なに?急に・・・
「・・・み、右ですけど」
突然の質問に私は戸惑ったけど、一応正直に言っておいた。
「じゃあ、左でええか。利き手の指はあんまりやからな」
先輩はそう言って立ち上がった。

「ッ!!!」

・・・こ・・・この人は本気だ・・・

じょ、冗談じゃないッ!
確かに負けたけど、そんなんで指を詰められるなんてゴメンだ!!!

バッ!!!

「・・・FLYHIGHッッッ!!!!」

バシュウゥゥゥッッッ!!!!!

私は素早く後ろに飛び退き、自分のスタンドを呼び出して構えをとった。
こうなったら仕方がない・・・やってやる!!
先輩をぶちのめして、ゲームセットだ!!

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!!!!!!

銀色の永遠 〜ミスキャスト〜58

私がスタンドを出したことで、先輩の表情が一変した。
「・・・どういうつもりや」
先輩のその言葉と同時に空気が凍りつく。
「残念ですけど、させませんよ」
「おいおい・・・それは無いやろ。約束は守らんといかんな。
それに、もしも桃子ちゃんが勝っとったら、容赦なく戦利品を戴くつもりやったんやろ?
いざ自分が負けたら駄々をこねるなんて、そんなの通らんなあ・・・」
先輩はそう言って、こちらに近づいてきた。

「来ないでください!」
私は右手を前に出し、先輩を制止した。
「それ以上来たら、攻撃を開始します。この距離なら私の方が早いですよ・・・」
「確かに、ここからウチが桃子ちゃんのところまで行って攻撃しようとすれば、
多分その前にやられてしまうわな・・・ウチのスタンドはスピードに欠ける」
「・・・その通りです」
私がそう言うと、先輩の足が止まった。
でも、何故か余裕の態度・・・それが不気味だった。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・

「・・・さっき・・・というか、結構前やけど、ウチが桃子ちゃんの手を机の下から握ったの覚えてる?」
しばらく睨み合いが続いたあと、先輩がそんなことを言い出した。
何?確かに覚えてる・・・
あれのせいで一瞬ヘンなことを考えてしまった。
でも、それがどうかしたの?

銀色の永遠 〜ミスキャスト〜59

私が無言で頷くと、先輩も同様に頷いた。
「覚えとるか・・・そうか・・・」
「何が言いたいんですか?」
「ウチのスタンドは、触れたモノを圧縮・・・潰してしまえる能力がある」
「そうですか。それが何か?」
「桃子ちゃんには見えなかったようやけど、確かこんな風に握ったと思うねん」
先輩はそう言って、右手を差し伸べた。
「・・・ですから、それが何か?」

・・・・あッ!!!!!!!!!!!

ズズズズ・・・・ズズ・・・・・

先輩の右手に重なるようにして、スタンドのビジョンが見える。

私がそれを確認したのを見計らって、先輩が口を開く。
「今からウチがこのまま桃子ちゃんに向かって行っても、
スピードに劣るウチは返り討ちやろ。
せやけど、既に触れていれば攻撃は一瞬で済む。
勿論、この距離は射程圏や・・・桃子ちゃんがウチを攻撃するよりも、圧倒的に早い」

・・・なんてことだ・・・あの時に・・・
寒気がしたのは、スタンドに触れられたからだったんだ・・・

銀色の永遠 〜ミスキャスト〜60

まずいぞ・・・!これはマズイ・・・ッ!!
距離を離して先輩の射程圏外へ逃げないとッ!!!

危険を感じた私は、先輩に背を向けて走りだした。
だがッ・・・!

「もう遅いッ!!!サイ・キスッ!!!」

ドッギャアアアアアアアアアア!!!!!

バキバッキボキカキャゴイキゴキゴキ・・・・・グシャアアアアアア・・・!!!!!!!!

左手に鈍い感覚がして、何かが潰されるような音が身体の中から響いてきた。
そして、それと同時に誰かの叫び声も聞こえた。

「うあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

聞き覚えのある声がする・・・ああ、これは私の叫び声だ・・・

「くっ・・・ぐあああああああああぁぁぁぁぁ・・・・・!!!」
・・・い・・痛い・・・ッ!!
左手の指が、5本ともグチャグチャに潰されている。

「チップ200枚分・・・確かに受け取ったで・・・これは領収書や」
先輩はそう言ってノートの切れ端のような物を、左手を押さえて膝をつく私の前に置いた。

銀色の永遠 〜ミスキャスト〜61

・・・左手の痛みが引いていく・・・いや、それに慣れてそう感じているだけなのもしれない。
どっちにしろ、少しだけ楽になれた。
でも、この絶望感と屈辱感は秒単位で増していく一方だった。

「そういや桃子ちゃん・・・家の借金とか言っとったが、あれ嘘やろ?
フフ・・・まあ、それはええか、別に興味は無いし」
そう言いながら先輩は机に戻って散らばっているチップを片付け始めた。
やっぱり気付いてたのか・・・でも、何かが引っかかる。
「この際、白状します・・・確かに借金は嘘でした。
でも、先輩は私に同情して勝負を引き受けてくれたんじゃないんですか?」
「ん・・・別に」
「え?」
「今も言ったけど、別に桃子ちゃんの身の上とかは興味無いねん。
まあ本当に金が無いのは、途中で気付いとったけどな。
ただ、どっちにしろ、桃子ちゃんのなけなしの小遣いを、『得意』のイカサマポーカーで
全部奪い取ってやったら面白いと思ってな。
フフ・・・実際、面白かったわ。特に、余裕から絶望に切り替わる最後の瞬間・・・」
先輩はそう言って、両手を拳銃の形にしてこっちに向けた。

なッ・・・!なんてヒドイ人だ!
持たざる者から、さらに取り上げるなんて・・・ッ!

くッ・・・!何もかも・・・私がしたことの何もかもが・・・
先輩の手のひらの上での出来事だったのか・・・
多分、最初にチップを山分けしたのは、私を勝負に乗せるためだったんだ。
そして私は先輩をただのお人よしと断じ、それにまんまと乗った。

銀色の永遠 〜ミスキャスト〜62

普通にゲームをしてても、旗色が悪くなれば先輩はイカサマでそれを取り戻でるし、
私がイカサマをして勝っていたとしても、逆にそれを利用するつもりだった。
実際、そうされた・・・
すべては、私が歓喜から絶望へと堕ちる様を楽しむためだったんだ。

・・・相手が悪かった・・・どうして私は、この人を対戦相手に選んでしまったんだ。
・・・今更悔やんでも仕方がない・・・もう、終わったんだ・・・
手痛いというには大きすぎる代償を支払って、勝負は終わった・・・

「・・・手伝います・・・」
私はふらふらと机に戻り、片付けの手伝いをするべく、出しっぱなしになっている
自分が持っていたダイヤのロイヤルが揃ったカードを手に取ろうと手を伸ばした。
「あ・・・」
私は声を上げる。
うっかり左手を机の上に出しちゃったせいで、そこ血が滴り落ちた・・・

先輩もそれに気付き、こちらを見てきた。
そして、「ん?ええよ、無理せんで。ほれッ、使いな」と言って、ティッシュをくれた。
「・・・すいません・・・」
私は力なく頭を下げ、机に付着した血を拭き取った。
・・・くそッ・・・右手だけじゃ上手く拭き取れない・・・

と、その時・・・

ある閃きが電撃のように走った。
この極悪非道な女を倒す、起死回生の策が・・・

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・

銀色の永遠 〜ミスキャスト〜63

・・・あれを、ああして・・・ああすれば・・・いける・・・ッ!!
でも、確実な作戦じゃない・・・そして、どうやってこの人を?
いや・・・ここは信じるんだ!
自分を・・・そしてこの人を・・・

「・・・あの・・・先輩」
「・・・なんや?」
「あ、いや・・・」
臆するな・・・行け・・・行くんだ桃子・・・ッ!
「もう1勝負・・・受けてくれませんか?」
「あぁ?」
「このまま全財産どころか、指まで失っておめおめとは引き下がれません・・・」
「あのなあ、もう終わったんや。ウチもヒマちゃうねん」

・・・うう・・・いや、押せ!このまま押すんだ!

「時間は取らせません。1ゲームだけ・・・それとも、怖いんですか?」
「なに?」
「私はこの手のゲームを得意としています。まあ、先輩が『ほんの少しだけ』上手でしたが、
次にやって私に勝てる確証はない。ですから、勝ち逃げておきたい・・・
誇らしげに色々とトリックを説明した手前、ここで勝負を受けて私に負けてはカッコつかない。
そんなケチなプライドを保つために、逃げておきたいんですか?
まあ、そうでしょう。そうすればしばらくは優越感に浸れるでしょうから・・・」
私は一度言葉を区切り、先輩の瞳を見た。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・!!!!!

おお・・・平静を装ってるけど、明らかにムカついてる・・・!

銀色の永遠 〜ミスキャスト〜64

この手のタイプは大体プライドが高い人が多い。
私の言葉を負け犬の遠吠えと思いながらも、その負け犬にいいように言われることに
我慢が出来ないでいる。
でも、先輩がムカついてるのは確かだけど、まだ疑ってる感じだ。
多分、何か裏があると思っているんだろう。

「・・・随分な言い様やが、人がどう思おうとウチには勝負を受ける義理はない」
「うッ・・・」
無理か・・・

「・・・せやけど、その言葉を聞いた以上、自分の中でそれは燻り続ける・・・
それは気分のええことちゃうな」
え?まさか・・・!
「ええやろ・・・桃子ちゃんが何を企んでるかはわからんが、
それも無駄だということを教えたるわ」
「・・・それは、勝負を受けてたつと捉えていいんですか?」
念のために聞いてみる。
「ああ・・・結構や」

・・・やった!!天は私を見放していない!
いや、まだ浮かれちゃダメだ!
ここからが問題・・・気を引き締めて慎重にいくんだ。

「じゃあ、やろか・・・最後の勝負を・・・」
先輩はそう言ってカードに手を伸ばした。
だけど、私はその先輩の手を掴みんで引き止める。
「ちょっと待ってください」

銀色の永遠 〜ワンダフル・オーポチュニティ〜65

「なんやねん?」
私の行動に、先輩は不満げな表情を浮かべた。
「ポーカーはやめませんか?」
「あ?」
「いや、またカードをシャッフルしてじゃあ、またイカサマの見抜きあいになってしまいます」
「・・・言われてみればそうかもしれんけど、そやったらどうすんねん?」
「ちょっと待ってください、考えます」
そこで私はしばらく考え込むフリをする。

そして、何かひらめいたような仕草をして
「・・・ちょっと貸してください」
と先輩からカードストックを受け取り、
その中からとあるカードを抜き出して先輩に見せた。
それは・・・

「ジョーカー・・・?」
先輩は私とジョーカーのカードを交互に見遣っている。
「勝負を決めるのは、このカード・・・ババ抜きでいきましょう」
「ババ抜き・・・か・・・」
「そして、そのババ抜きで使うのはこのジョーカーと――」
私は言いながら、さっきのポーカーで出た2組のロイヤルを指した。
「それぞれが出したロイヤル。この11枚でババ抜きをしましょう」
「なに?」
「お互いに何を持っているか知っているから、イカサマのしようがない。
それに、ババ抜きっていうのはつまるところ、このジョーカーをめぐる戦いです。
2人でやることですし、他のカードがたくさんあっても時間の無駄です」

銀色の永遠 〜ミスキャスト〜66

「そして、このジョーカーを――」
「ちょっと待った」
先輩が割って入ってきた。
「なんでしょう。ババ抜きではいけませんか?」
「いや、ババ抜きでやるというのには反対しない。せやけど・・・2つ条件がある」
先輩はそう言って指を2本立てた。
「条件・・・ですか?」
・・・なんだ?

「いや、別にヘンなことちゃうねん。ちょっとしたもんや。
聞いてみれば、至極当たり前のことや」
私が不審がっているのを察したのか、先輩はそう前置きして本題に入った。
「まず一つ。最初にジョーカーを持つのは桃子ちゃんや」
「・・・」
「これはウチが『しょうがなく引き受けてやる』ということで始まった勝負。
初めに少しくらいウチが有利な状態で初めさせてえな」

ジョーカーを持っているといことは、相手にそれを引かれなければ負けてしまう。
そして初めに6枚持ってるといういことは、相手にジョーカーを引かせられる確率が
最小で1/6、最大でも1/2。
言い換えれば勝てる確率が最大でも1/2しかないということだ。
仮に最後にジョーカーを引かせられたとしても、また1/2の戦いを強いられる。
逆にジョーカー無しは、最後の1/2に1度勝てばいいのだ。
つまり、最初にジョーカーを持っているほうは初めから不利。

銀色の永遠 〜ミスキャスト〜66

「嫌やというなら、この勝負は降りるまでや」
先輩は腕組みをして、こちらの出方を窺っている。
「分かりました。いいでしょう」
勿論、断るわけが無い。
どっちにしろ、初めに私がジョーカーを持つ算段だった。
そう、これは私の予測の範囲内の動き。
しかも先輩から言い出したって事で、こちらの思惑をぼやかせることができた。
でも、あともう一つはなんだろう・・・それが気になる・・・

「ふふ・・・じゃあ、もう一つの条件や」
先輩は立てていた2本指のうち1本をしまった。
あと一つってことだろう。
「このババ抜き勝負、桃子ちゃんが賭けるのはその腕や。腕一本賭けえ」

ドッバアアアアアアアアアアンンンンンンンンンンン!!!!

しまった・・・賭けるものをこっちから設定しておくべきだった。
でも、まさか・・・こんな・・・指だけでは飽き足らず・・・腕一本だって?!

「ふふ・・・そんな顔しいなや。
その代わり、こっちは現在の所持金5万2千とアクセ類全部を賭ける」
先輩はちっとも優しそうじゃない笑みを浮かべ、さっきと同じように私の回答を待った。
しかし、この人は何て人なんだ・・・繋がりは薄いけど、同じ部の可愛い後輩に向かって
どうしてこんなことが言えるんだ。
もはや、初めの人の良さそうな雰囲気は影も見せない。
ただ、残虐で狡猾なモノしか感じられない。

銀色の永遠 〜ミスキャスト〜67

正直いって、この人が怖い・・・それは否定できない。
でも、ここで逃げるわけにはいかない!
先輩がそんな条件を出すなら、こっちにも考えがある。

「・・・ダメですね・・・それでは」
私がボソリと呟くと、それを聞いた先輩は席を立った。
「そうか、これが呑めないなら勝負は無しや」
「勘違いしないでください。少しだけ、それに追加条件を加えていただきたいんです」
「どういうことや?」
先輩がこちらに向き直る。
「私が腕1本賭けるなら、先輩も賭けてください。その左腕を」
「なんやと?!」
言ってやった!!
先輩は案の定、びっくりしてる。

私はしてやったりとほくそ笑みながら、さらに続けた。
「腕1本失うリスクに対するリターンが、現金アクセ合わせて10万ちょっとじゃあ割りに合いませんよ。
公平じゃない。確かに勝負を挑んだのは私で、先輩はそれをしょうがなく受ける立場でも、
それはあんまりじゃありませんか?でもその代わり、アクセも現金もいりません。」
この際お金は要らない・・・お互いの『腕』を賭けての勝負に興じましょう。
「・・・」
先輩が、じっとこちらを見ている。
何を考えてるんだろう・・・でも、その答えはすぐに出た。
「ええやろ・・・ただし、もう後戻りはできへんで」
「元より覚悟しています。もしも私がこれで負ければ、結局はそれまでの女だったってことです」

途中ヒヤッとしたけど・・・ひとまず策はレールに乗った。
あとは、それが脱線しないように上手く運ばなければ・・・

銀色の永遠 〜ミスキャスト〜68

ジョーカーは私が持つということで、私はダイヤのロイヤルを重ねて
その上にジョーカーを置いた。
「じゃあ、シャッフルしますよ」
ここで、策を実行しないといけないんだけど・・・どうする・・・?
一旦先輩の目を逸らさないと・・・
が・・・ここで絶好のチャンスが訪れた。

チャーチャーチャーチャチャーチャー♪チャーチャーチャーチャチャーチャー♪ピ〜ス☆

携帯の着メロ・・・これは私のではない。
ということは先輩のだ。

きたあああああ!!!!!ここだ!!!!!!

「どうぞ出てください。その間にシャッフルするんで」
私は先輩に電話に出るように勧めた。
「ああ、すまんな」

ピッ・・・

「もしもし・・・?」

・・・・・・・・・・

・・・さあ、一世一代の大勝負!
決めてやるッ!

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!

銀色の永遠 〜ミスキャスト〜69

先輩が電話の応答をしている間、私はこっそりと一番上のジョーカーを持った。
そして・・・これをこうして・・・
・・・ここで、チラリと先輩を見てみる。

ギクウゥッッ!!!

心臓が飛び出しそうになった。
先輩と目が合ってしまった・・・
いつから見てた?電話をしながらも、こっちから目を離していなかったのか?
・・・とりあえず、笑っておこう・・・

それに対して先輩は一瞬眉をひそめたけど、笑顔で返してくれた。
でも・・・素直には受け取れない。
もしかして、バレたのか・・・?
いや、ここまで来たらやるしかない・・・続行だ!

・・・・・・・・・・・・

「うぅ・・・ッ!」
左手の激しい痛みに声が漏れる・・・当然だ・・・指が全部潰れているんだから・・・
そして傷口から血が飛び、カードに付着した。
「・・・あッ、ちょっと待ってて」
先輩が私に気付き、電話の相手にそう言うと、
こちらにティッシュを渡してくれた。
「す、すいません・・・」
私は右手でカードに付いた血を拭き取った。

銀色の永遠 〜ミスキャスト〜70

・・・・・・・・・・・・・

「・・・あ、そうだ、ちょうどいいや。
どうせ後で電話しようと思ってたんだけど、ちょっと頼みがあるんだ・・・
・・・うん、じゃあ、また・・・そうだな・・・10分くらいしたら・・・うん・・・じゃあね」

ピッ・・・

「さあ、準備できたか?」
電話を終えた先輩が向き直る。
私も仕込みを終え、姿勢を正した。
「はい。では、最後の勝負を始めましょうか」
私は自分のカードを手に取り、先輩のほうへ差し出した。
だけど、先輩はそれを手で押し戻してきた。
「どうしたんですか?」
「いや、ウチが負ければ、こっちも腕を失うとか言っとったが、どうするつもりや?」
・・・一瞬バレたのかと思った・・・相変わらず心臓に悪い人だ。

「ああ、それですか・・・」
私はカードを一旦置いて、スタンドを呼び出した。
「私のFLYHIGH は、殴ったもの・・・
まあ、触れたものでも良いんですが、それを破裂させる能力があります。
もし、私が勝ったときは、それでやらせていただきます」
そう説明すると先輩は何度か頷き、左腕を差し出してきた。
「・・・?なんのつもりですか?」
「いま、ここでスタンドで触れろ」
「え?」

銀色の永遠 〜ミスキャスト〜71

先輩の真意がよく分からない。
戸惑う私に先輩はこう言って来た。
「あらかじめ触れておいて、勝負がきまった瞬間にスタンドでそれを実行する。
そうすれば逃げられん。もちろん、ウチも同じようにさせてもらう」
先輩もスタンドを出し、私に左腕を出すように顎で促した。
「・・なるほど。確かに、そうですね」
私も左腕を差し出し、お互いのスタンドでお互いの腕に触れた。

しかし、よく分からない人だ。
世間一般では卑怯とさせるイカサマを平気で使い、
負かした相手の指を潰し、相手が貧乏だと知っていながら
更にその人から奪い取るという残虐非道とも言える行為をするくせに、妙なフェアプレー精神を持ってる。
最初のポーカーでチップを山分けしたのも、私を乗せるためとはいえ、
対等を望んだんじゃないか・・・?

いや・・・今はそんなことを考えている時じゃない。
どうにせよ、これに負ければ先輩は容赦なくやる・・・そういう人なのは確信してる。
今はただ策を実行し、先輩をハメる!それだけだ!

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・


嗣永桃子 所持金0。左手指0。左腕を賭け、ババ抜き勝負決行。
       手札はダイヤのロイヤルにジョーカー1枚。
加護亜依 所持金52000。左腕を賭け、ババ抜き勝負受諾。
       手札はスペードのロイヤル。

to the next episode 『イッツ・マイ・ライフ』・・・