249 :六部198:2006/05/22(月) 01:31:08.72 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜1

加護との戦いから数時間後・・・

藤本は昼休みの悔しさを払拭するかのように、珍しく部活動に励んでいた。
昨日の仕返しのつもりなのか、亀井がしきりに話しかけてくるが、
藤本はそれを一切無視して、発声、とくに苦手な英語の発音の練習をしていた。
元々細かいことを気にしない性格なのもあるが、不思議なことに練習をしていると
昼間の一件のことは全く思い出さなかった。
だが、それだけではない。加護が部室に顔を出していないというのもあるだろう。
おそらく指令の関係であろう。
そして、辻も部室には現れていない。

藤本はそのまま、驚異的な集中力で休むことなく練習を続けた。
入部して以来、ここまで一生懸命やったのは、おそらく初めてであろう。
他の部員達も、その集中力に目を丸くしていた。

(ふふん・・・美貴が本気を出せば、これくらいできるんだぜ。やればできる子なんだよ!)
藤本はその視線を満足そうに浴び、自画自賛をした。

・・・やればできるなら、最初からやればいいものを・・・

そして時間は7時を過ぎ、閉校時間になる。
夜空には、いつの間にかまん丸の月が顔を出していた。
(ああ、今日は満月か・・・だから調子がいいのかな?)
そんなことを思いながら、椅子に置いてあったスポーツドリンクの入った
ペットボトルの蓋を開け、一気に飲み干した。


250 :六部198:2006/05/22(月) 01:34:58.80 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜2

バタバタバタバタバタバタ・・・・・・

誰かの足音が、こちらに向かって近づいてくる。

ガラァッ!!

扉が勢いよく開き、そこから息を切らした加護が姿を現した。
部員達があっけに取られている中、一人部室内を見回す。
ひどく慌てているようだ。
「くそッ!おらん・・・!」
加護は一度俯き、今度は部員達の顔を見回しながら、こう尋ねた。
「誰か!のん見いひんかったか!?」
「今日は来てないけど。あいぼん、どうしたの?前髪乱れてるよ」
石川が笑顔で茶化すように答える。
しかし加護は、それに舌打ちで返した。

「・・・あのアホッ・・・!」
加護はそう呟くやいなや、踵を返す。
「おい!どうしたんだよ!」
何となく気になった藤本が声を掛ける。
だが聞こえなかったのだろうか、加護はそのまま走り去ってしまった。
「おい!待てよ!」
藤本はジャージの上着を羽織って、加護の後を追いかけた。

「あれ?何で舌打ちされたんだろ?私なんか悪いこと言った?」
石川が気まずそうにそんなことを言っている。
「・・・」
隣にいた新垣は、黙って石川の肩を叩いた。


331 :六部198:2006/05/23(火) 16:01:34.52 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜3

加護に追いつくのは簡単だった。
藤本は加護の横につき、並走するような形になった。
「おい、どこ行くんだ?!何があったんだよ?!」
「町外れの廃病院や!多分そこに一人で行きよった!」
「廃病院?なんでそんなとこに?」
「指令や!昼間よっちゃんに呼ばれたやろ?ウチら二人に指令が降りたんや!」
「なるほど・・・つーか居場所がわからないなら、携帯に連絡すりゃいいじゃんか!」
「そんなんとっくにしたわ!ボケッ!!繋がらへんのや、多分電源切っとる!」
加護はキッと藤本を睨んだ。

二人はぶどうヶ丘公園を横切り、その先の丘陵地帯に入った。
「あそこや!」
加護が前方を指さす。
その先の小高い丘に、ポツンと大きな建物が建っているのが見える。

近づくにつれ、その姿がはっきりしてきた。
高い塀に囲まれており、病院というよりも監獄のようであった。
元は白く美しい外観だったのだろうが、今は灰色にすすけている。
(・・・なんか嫌な感じだな・・・)
夜、そして廃病院ということもあってか、その雰囲気に藤本は寒気を覚えて
思わず身震いをした。


332 :六部198:2006/05/23(火) 16:02:10.52 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜4

門を抜けて入り口に辿り着いた二人は、一度立ち止まって息を整えた。
横にある看板には病院の名が彫られているが、名前の部分が削り取られていてわからない。
(そういえばここって・・・)
削り取られたその看板を見て、藤本はある話を思い出した。

『ぶどうヶ丘の実験病棟』・・・
かつては優れた技術と、患者へのサービスで評判が好く、
町の外れにあるにもかかわらず、大変栄えていた大学病院だ。
しかし、一つの事件によって狂気の実態が世間に知れ渡ることになる。
院長と数人の医師による、おぞましい人体実験が内部告発によって明るみに出たのだ。
その結果、院長、及び関係者は全員逮捕され、病院も閉鎖されることになった。
まだ杜王町がS市のベッドタウンとして栄える前、今から20年以上昔の話だ・・・

・・・この話には後日談がある。
実験に関わった一人の医師が捜査の手を逃れ、この町に潜伏しているというのだ。
そして、夜な夜なここで実験を繰り返しているという・・・
勿論、噂の域を脱しないが、一部のマニア達の間では比較的有名な話である。

だがこの話と指令は関係ないのではないか。
演劇部は『なんとか探検隊』ではないのだ。

藤本は加護に指令の内容を聞いたが、「アンタには関係ない」と一蹴される。
だが、それでも尚しつこく聞くと、加護は渋々その内容を説明した。


333 :六部198:2006/05/23(火) 16:02:42.34 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜5

杜王町で行方不明者が多数出ているのは周知の通りであろう。
それは、『あの男』がいなくなってからも同様である。
いや、むしろ増加している気配すらあるのだ。
そして、この病院付近で消息を絶つ人が、ここ一年を境に急増しているのだ。
そこで寺田が、この廃病院の調査に乗り出すのことになった。


「でもさあ、それだけの理由で調査って、何か変じゃねーか?」
藤本は率直な意見を述べた。
そんなことは警察にでも任せておけばいいのだ。
加護はゆっくりと顔をこちらに向けた。
「最近、夜、ここで石の仮面を被った男の姿が何度も目撃されとる」
「石の仮面?・・・石仮面・・・まさか?」
「そう、吸血鬼や・・・この廃病院に吸血鬼が潜んどるかもしれへんのや」
そう言って加護は病棟を見上げた。
「・・・?っつーことは、お前ら『波紋』使えるのか?」
「いや、ウチらに波紋能力はあらへん」
「はあ?じゃあどうやって倒すんだよ?」
藤本がそう言うと、加護は馬鹿にしたような溜め息を吐き、藤本に視線を戻した。
「せやから、『調査』って言うとるやろ。『ちょ、う、さ』わかるか?
ウチらは、ここに本当に吸血鬼がいるかどうかを調べるだけや。
アンタ人の話聞いとらんやろ?」
加護はバカにしたような視線を藤本に向ける。
「う・・・」


334 :六部198:2006/05/23(火) 16:03:13.40 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜6

「で、でもさあ、何で辻ちゃん勝手に一人でここに乗り込んだのかな?」
「・・・」
その問いかけに加護はそれに答えず、藤本の前に回りこんで彼女を指差した。
「つーか、なんでアンタ着いてきたん?カンケー無いやろが」
「んー・・・」
藤本は腕組みをしながら少し考える。
「何だろね?わかんねーや」
「・・・はあ?」
「まあ、なんつーか、同じ仲間だしよ。あの子ってなんかほっとけない感じじゃん」
そう言って藤本は組んでいた腕を左右に広げてみせた。
そしてこう付け加える。
「まあ、オメーはムカつくヤツだけどな」
「・・・もう行くで・・・くれぐれも邪魔だけはすんなや」
加護は舌打ちをして病院の扉に手をかけたが、鍵が掛かっており開かない。
(ん?鍵か・・・のんはここに来とらんのか?)
加護がそんなことを思ったときであった・・・



「うあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」



「「!!!!」」


335 :六部198:2006/05/23(火) 16:03:43.44 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜7

耳を劈くような叫び声に、二人は顔を見合わせる。

「ちょっと待っとれ!」
加護はポケットの中からピッキング道具を取り出し、しゃがんで鍵穴をまさぐった。
だが、突然藤本に肩を掴まれて引っ張られる。

ドサァッ・・・

尻もちをついてしまった加護が、藤本を睨んだ。
「ちょ、何すんねん!?邪魔するなって言っ・・・」
「おおおぉぉぉぉ!BT03ィィィィイイイイ!!」


「VVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVV!!!!!」


ドッガアアアアアアアアァァァァァアアァァア!!!


BT03によって扉が破壊され、月明りに照らされた内部がうっすらと見える。
「お邪魔だったかな?ほれっ、掴まれよ」
そう言って藤本はニッと笑い、加護に手を差しだした。
「フンッ・・・上出来や・・・」
加護はその手を掴み立ち上がると、口の片端を少しだけ上げてみせた。


389 :六部198:2006/05/24(水) 21:21:56.23 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜8

・・・話は数時間ほど遡る。
藤本と加護が、くだらないバトルを繰り広げる直前の話・・・

辻は昼食を買うべく、学食の購買所にいた。
いつもは加護と一緒に、ここで買い物をして屋上で昼食をとるのだが、
今日に限って加護は、突然サンジェルマンに行くと言い出したのだ。
本当は一緒に行こうと思ったのだが、辻の現在の手持ちではサンジェルマンに行く余裕がなかった。
そこで別行動をとり、屋上で待ち合わせすることにしたのだ。

商品を選んでいると、不意に誰かに声を掛けられた。
「あれ?辻ちゃん!」
それは同じ演劇部の三好絵梨香であった。
「あ、絵梨香ちゃん」
辻は三好に向かって手を振った。
演劇部でも割と古い三好とは、前からの知り合いであった。
「どう?身体の調子は?」
三好は辻の背中をポンと叩いて笑いかけた。
・・・いつもイライラして、何かとトラブルを起こす彼女からは
想像しにくいが、これが普段の顔なのだろう。
「いやー、もうすっかり元気なのれす」
辻は腕を振り回しながらそれに答えた。
「あれ?そういえば、加護ちゃんは?」
三好はキョロキョロと、加護の姿を探す。
二人セットでいることが多いので、自然とそういう質問が出る。
辻は指を上に向け、こう言った。
「今日は屋上で待ち合わせをしているのれす。絵梨香ちゃんのほうこそ、唯ちゃんはどうしたのれすか?」
「いやぁ、唯やんはお弁当持ってきてるからさ、あたしらは2階の空き教室で待ち合わせ」
三好はそう言って、商品ケースから焼きそばパンと牛乳を取り出した。


390 :六部198:2006/05/24(水) 21:23:57.16 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜9

先に買い物を済ませた辻が、三好に手を振って購買所を出ようとしたとき・・・
「のの!」
またもや誰かに声を掛けられた。
見てみると、それは吉澤であった。
「ああ、やっぱここにいたか」
吉澤は辻に歩み寄ったちょうどそのとき・・・
「辻ちゃーん。ゴメン、10円持ってるー?」
小銭を切らしていたのか、三好が辻を振り返った。

「あ・・・」
吉澤と目が合った三好の表情が変わる。
「三好か・・・」
「なんスか?死にかけの鯉みたいな顔して。何か文句あるんスか?」
「つっかかるなよ。別に他意はない。それより・・・」
吉澤は三好を軽くいなし、辻に向き直った。
「寺田のおっさんから指令があるらしい。すぐに部室に行ってくれ」
「へ?は、はあ・・・」
素っ頓狂な声をあげる辻に、吉澤はさらにこう言った。
「そういえば、あいぼんはどうした?指令は二人にやってもらうみたいなんだが」
「サンジェルマンに行くって言ってたのれす」
「そうか、わかった。じゃあ、お前は先に部室に行っててくれ」
吉澤は辻の頭を軽くなで、急いで走り去っていった。

「よっちゃんと喧嘩でもしたのれすか?」
吉澤を見送った後、辻は三好に尋ねる。
「ん?いや、別に」
そう答える三好は既に笑顔に戻っていた。
「それより、部室に行ってきたら?」
「ああ、そうなのれす。じゃあ、また」
辻は三好に手を振り、部室に向かった。


391 :六部198:2006/05/24(水) 21:24:49.72 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜10

部室に着いた辻は、奥にある寺田の私室の前に行った。

コンコン・・・

「入りまーす」
辻は扉をノックした後、返事も聴かずに中に入った。

寺田はデスクの上で何かやら難しい顔をしながら書類を見ていたが、
辻の姿を見ると両手を広げて笑顔で迎えた。
「おお〜、よく来たな!ま、ま、座りや」
そう言って寺田は、ソファを手で示す。
辻が座ると、寺田もソファに移動してL字形に対面した。

・・・・・・・・・・・・

しばらく世間話をしていると、吉澤が加護を伴って部屋にやってきた。
寺田は吉澤を下がらせると、加護にも座るように勧めた。

「まあ、吉澤からちょっと聞いたと思うが、実は二人に頼みたいことがあるんや」
寺田は目の前にあるテーブルの上に、いくつかの書類を提示した。
その中には一人の男と、廃棄された病院らしき写真が混じっている。
辻と加護はそれを手に取り、一緒に眺めた。
難しそうな顔をしている辻を余所に、加護は寺田に要点を聞き出す。
「・・・つまり、この人を始末しろと?」
その言葉に辻は、不安そうに加護を見た。
部屋の中に張り詰めた空気が立ち込める。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・・・・


392 :六部198:2006/05/24(水) 21:25:18.97 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜11

寺田は真剣な表情で二人を交互に見やる。
だが、すぐにいつもの軽薄そうな表情を見せ、声を出して笑った。

「なんやねん〜、怖い顔してえ!そんな物騒なこと頼むわけないやろ〜!」

「てへてへ・・・」
それに釣られて、辻も一緒になって笑う。

「・・・」

しかし隣にいる加護見て、すぐに口元を引き締めた。
すこしイラついているようだった。

「なら、一体どういう指令なんですか?」
加護がそう言うと、寺田は一度咳払いをして身を乗り出した。
「言うなら、軽い調査や」
「調査?」
辻が鸚鵡返しをする。
「そうや。その廃病院に写真の男がいるかどうか調べて欲しいねん。
詳しいことは、その書類に書いてあるとおりや」
寺田が写真を指さすと、二人はそれに目をやる。

男は真正面を向いており、古い証明写真のような感じだ。
歳は30代中頃といったところか。なかなかのイケメンである。
胸から上しか写っていないが、白衣を着ているようであった。


393 :六部198:2006/05/24(水) 21:25:45.30 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜12

・・・指令の内容については『(S)aint5』を参照していただきたい・・・

「まあ、俺が行ってもええんやけど、二人ともずっと休んどったわけやし・・・」
寺田は一旦言葉を止め、ソファの肘掛に寄りかかって足を組んだ。
「今回の指令は本格復帰のための、リハビリみたいなもんやな」
「はあ・・・」
加護が力ない返事をする。
「まあ、ヒマな調査やけど、頼むわ。な?」
そう言って寺田はおもむろに立ち上がり、部屋に持ち込んだ冷蔵庫を開けた。
「何か飲んでくか?」
「いえ、私達はこれから作戦を立てるので」
その勧めを加護は断り、辻を連れて部屋から出ようとする。
「そうか。でも、まあ持ってけ」
寺田は缶ジュースをこちらに向かって投げた。
「ありがとうございます・・・では、これで」
「あ、そうや、一つ忠告」
寺田は二人を引きとめ、指を立てた。
加護が少し面倒くさそうに振り向く。
「なんでしょう」
「これは俺の勘やけど、もしかするとスタンド使いかもしれへん」
「なぜ、そう思うのですか?」
「いや、前にも前例があったもんでな。とりあえず、その点注意しとけな」
「・・・わかりました・・・」

・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・



394 :六部198:2006/05/24(水) 21:26:20.72 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜13

部室を出た後、二人は屋上にある給水塔の上に腰をかけていた。
指令が降りると、決まってここで作戦を練っていたのだ。
主にそれを考えるのは加護であった。

「とりあえず、今回はこの廃病院に吸血鬼かいるかどうかを調べるわけや。
でも、もしかするとスタンド使いかもしれへん。それもついでに調べとこか」
加護は寺田に貰ったジュースを一口飲むと、地図を広げた。
「場所はここ」
加護は、町外れの一角を指差した。
傍らにいる辻が、それを見て黙って頷く。
「吸血鬼かもしれんなら、昼間に行って太陽の下に引っ張り出してみればええんやろが、
行くなら夜やな。昼はかえって危険や」
「用心してるってこと?」
「そういうこと。わかっとるやんか。
まあ、昼間に吸血鬼のいる場所に乗り込むやつは、よっぽどのアホやな」

加護は一旦唾を飲み込み、一呼吸置いて話を続けた。
「ほんで、作戦の続きやが・・・まずウチが一人で病院内に潜入する」
「え?一人で?」
随分と大胆な作戦に、辻が声をあげる。
「そう、二人でいるより一人のほうが相手も油断するやろ。
それに二人でいたら、姿を現さないかも知れん」
加護は小首を軽く傾げて、片眉をクイっと上げた。
「ちょっと危なくないれすか?」
そう言って辻は、心配そうに加護を見つめた。
「危なくなったらスタンドで身を守ればええやろ。
そこでさらに相手がスタンド使いなら、それを見たとき警戒して一度立ち止まるはずや」


395 :六部198:2006/05/24(水) 21:27:07.33 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜14

「もし、ただの吸血鬼なら、ウチのスタンドで2、3回ぶっ飛ばせばええんや。
不死だかなんだか知らんが、スタンドが見えないヤツなんぞ、敵やあらへん」
「なるほど〜。んで、スタンド使いだったらどうするのれすか?」
「そこは、のんの出番や!」
加護はパチンと手を叩いて辻を指差し、ウインクをした。
「アンタの『NONSTOP』の能力で一気に脱出する。あらかじめ、ウチに影響を受けさせとくんや。
見たところそんなに大きくない病院。長距離タイプのNONSTOPなら、
外からでも十分射程圏内にあるやろ。
それに今回の指令は調査やからな。無理に戦う必要はないやろ?
とりあえず、今夜7時決行。学校の正門前で待ち合わせ」

一通り言い終わると、加護は真剣な表情で辻に顔を近づけた。
「今言ったとおり、ウチが潜入、のんは外で待機。アンタはあくまでウチのサポートやで」
「へ?」
「アンタは道路を横切る猫みたいに、後先考えず飛び出すクセがあるからな」
その発言に、辻は不機嫌そうに頬を膨らませる。
「そんなことないのれす」
「そんなことあるから言うとるんやろが。ええか、のんは余計なことはせんでええ」
加護は辻の肩に手を置き、まるで子供を諭すように言った。
しかし辻は、なおも抗議する。
「のんだってそんな簡単な調査くらいできるのれす!」
「無理や!もしも戦闘になったらどうすんねん。のんはそういうの苦手やろ!
それに、昔もそれで失敗したんやろうが。黙って言うこと聞き!」
二人の口調が少しづつ激しくなり、その声も大きくなっていく。
屋上にいた数人の生徒がそれに気づき、「何事か」とこちらを見ている。


396 :六部198:2006/05/24(水) 21:27:26.33 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜15

二人は野次馬の視線も気にせず、口論を続ける。
「大体あいぼんは、前からのんのこと子供扱いしすぎなのれす!」
辻は加護に詰め寄り、語気を強める。
しかし、加護もそれに負けじと強く言い返す。
「ガキやないか!いっつもヘラヘラヘラヘラしよってからに!
まあ、今はそんなことどうでもええねん!のんはウチの言うこと聞いとればええんや!」
「・・・ッ!」

バッ!

辻は泣きそうな顔で、給水塔から飛び降りた。
「おい!どこ行くんや!」
加護が引き止めるが、辻はそれを無視して憤然と屋上の扉に手をかけた。
「チッ・・・7時に正門前やで!!」
その声が聞こえてるのか聞こえてないのか、辻は走って行ってしまった。
「はあ・・・まったく・・・」
取り残された加護は、溜め息を吐きながら書類をまとめた。

キーンコーンカーンコーン・・・

昼休み終了のチャイムが鳴り響く。
加護はもう一度溜め息を吐き、給水塔から飛び降りて
屋上を後にした。

・・・・・・・・
・・・・・
・・



394 :六部198:2006/05/24(水) 21:26:20.72 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜13

部室を出た後、二人は屋上にある給水塔の上に腰をかけていた。
指令が降りると、決まってここで作戦を練っていたのだ。
主にそれを考えるのは加護であった。

「とりあえず、今回はこの廃病院に吸血鬼かいるかどうかを調べるわけや。
でも、もしかするとスタンド使いかもしれへん。それもついでに調べとこか」
加護は寺田に貰ったジュースを一口飲むと、地図を広げた。
「場所はここ」
加護は、町外れの一角を指差した。
傍らにいる辻が、それを見て黙って頷く。
「吸血鬼かもしれんなら、昼間に行って太陽の下に引っ張り出してみればええんやろが、
行くなら夜やな。昼はかえって危険や」
「用心してるってこと?」
「そういうこと。わかっとるやんか。
まあ、昼間に吸血鬼のいる場所に乗り込むやつは、よっぽどのアホやな」

加護は一旦唾を飲み込み、一呼吸置いて話を続けた。
「ほんで、作戦の続きやが・・・まずウチが一人で病院内に潜入する」
「え?一人で?」
随分と大胆な作戦に、辻が声をあげる。
「そう、二人でいるより一人のほうが相手も油断するやろ。
それに二人でいたら、姿を現さないかも知れん」
加護は小首を軽く傾げて、片眉をクイっと上げた。
「ちょっと危なくないれすか?」
そう言って辻は、心配そうに加護を見つめた。
「危なくなったらスタンドで身を守ればええやろ。
そこでさらに相手がスタンド使いなら、それを見たとき警戒して一度立ち止まるはずや」


395 :六部198:2006/05/24(水) 21:27:07.33 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜14

「もし、ただの吸血鬼なら、ウチのスタンドで2、3回ぶっ飛ばせばええんや。
不死だかなんだか知らんが、スタンドが見えないヤツなんぞ、敵やあらへん」
「なるほど〜。んで、スタンド使いだったらどうするのれすか?」
「そこは、のんの出番や!」
加護はパチンと手を叩いて辻を指差し、ウインクをした。
「アンタの『NONSTOP』の能力で一気に脱出する。あらかじめ、ウチに影響を受けさせとくんや。
見たところそんなに大きくない病院。長距離タイプのNONSTOPなら、
外からでも十分射程圏内にあるやろ。
それに今回の指令は調査やからな。無理に戦う必要はないやろ?
とりあえず、今夜7時決行。学校の正門前で待ち合わせ」

一通り言い終わると、加護は真剣な表情で辻に顔を近づけた。
「今言ったとおり、ウチが潜入、のんは外で待機。アンタはあくまでウチのサポートやで」
「へ?」
「アンタは道路を横切る猫みたいに、後先考えず飛び出すクセがあるからな」
その発言に、辻は不機嫌そうに頬を膨らませる。
「そんなことないのれす」
「そんなことあるから言うとるんやろが。ええか、のんは余計なことはせんでええ」
加護は辻の肩に手を置き、まるで子供を諭すように言った。
しかし辻は、なおも抗議する。
「のんだってそんな簡単な調査くらいできるのれす!」
「無理や!もしも戦闘になったらどうすんねん。のんはそういうの苦手やろ!
それに、昔もそれで失敗したんやろうが。黙って言うこと聞き!」
二人の口調が少しづつ激しくなり、その声も大きくなっていく。
屋上にいた数人の生徒がそれに気づき、「何事か」とこちらを見ている。


396 :六部198:2006/05/24(水) 21:27:26.33 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜15

二人は野次馬の視線も気にせず、口論を続ける。
「大体あいぼんは、前からのんのこと子供扱いしすぎなのれす!」
辻は加護に詰め寄り、語気を強める。
しかし、加護もそれに負けじと強く言い返す。
「ガキやないか!いっつもヘラヘラヘラヘラしよってからに!
まあ、今はそんなことどうでもええねん!のんはウチの言うこと聞いとればええんや!」
「・・・ッ!」

バッ!

辻は泣きそうな顔で、給水塔から飛び降りた。
「おい!どこ行くんや!」
加護が引き止めるが、辻はそれを無視して憤然と屋上の扉に手をかけた。
「チッ・・・7時に正門前やで!!」
その声が聞こえてるのか聞こえてないのか、辻は走って行ってしまった。
「はあ・・・まったく・・・」
取り残された加護は、溜め息を吐きながら書類をまとめた。

キーンコーンカーンコーン・・・

昼休み終了のチャイムが鳴り響く。
加護はもう一度溜め息を吐き、給水塔から飛び降りて
屋上を後にした。

・・・・・・・・
・・・・・
・・



467 :六部198:2006/05/25(木) 18:04:16.15 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜16

午後7時・・・
加護は学校の正門前で、腕組みをしながら辻の到着を待っていた。
彼女とは昼休みから一言も会話を交わしていないのが気にかかるが、
今は指令に集中するため、それを心の奥に追いやった。

5分が過ぎた・・・

だが、辻は一向に現れない。
遅れて来るにしても、連絡一つよこさない辻にイライラしてくる。

10分が過ぎた・・・

業を煮やした加護は携帯電話を取り出し、登録欄から
辻の名前を検索してコールした。

-こちらはvadaphoneです。お客様がおk-

ピッ・・・

電源が切られているようだ。
「・・・ったく・・・なにしとんねん・・・もしかして、部室におるんか?」
加護はそう呟き、校舎を見上げた。
演劇部室には明かりが灯っており、ここから見える窓には数人の人影が見える。


468 :六部198:2006/05/25(木) 18:04:38.16 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜17

辻が部室にいるとふんだ加護は、正門を抜けて部室へと向かった。

その途上・・・加護の脳裏に昼間の一件が浮かんだ。
「・・・少し言い過ぎたかな・・・」
後悔の念が、胸の奥をチクチクと突き刺す。

だが、それと同時に嫌な予感がしてきた。
「・・・まさか・・・?」
次第に加護の足が速くなり、そしてついには走り出した。

バタバタバタバタバタバタバタバタ・・・・・

暗い校舎内に加護の足音が響く。

階段を駆け上がり身体を右に向けると、部室の明かりが暗い廊下を照らしている。
部室内からは笑い声のようなものが聞こえる。
「頼む・・・おってくれ・・・」
加護は祈るような気持ちで部室の扉に手を掛け、勢いよく開けた。

ガラッ!!

中にいた部員達の視線が、一斉にこちらに集まる。
しかし、その中に辻の姿はない・・・


469 :六部198:2006/05/25(木) 18:05:21.20 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜18

同刻・・・
辻は一人、町外れの廃病院の前に立っていた。
「・・・いつまでも子供じゃないのれす!」
はき捨てるように言うと、ポケットから携帯電話を取り出して電源を切った。
そして門を乗り越えて入り口の扉に手を掛て、そっと手前に引いた。

キイィ・・・

意外にも鍵は掛かっておらず、扉は簡単に開いた。
妙に冷たい空気が中から溢れてくる。
辻は生唾を飲み込み、なるべく音を立てないように侵入した。

内部は使われていないイスやゴミなどが散乱しており、
時折カビのような嫌な臭いが鼻の奥を突く。
肝試しなどで侵入した若者の仕業だろうか、壁や床にはいたるところにスプレーで落書きがある。
中にはどうやってやったのかは不明だが、天井にもマジックで書いたような落書きがあった。

辻は鞄からペンライトを取り出し、前方を照らした。
だが、そのか細い光は、光の当たっていない部分の闇をより一層深くする。
その雰囲気に一瞬立ちすくんだが、恐怖心を抑えつけて足を進めた。
「・・・ここで退いたら、またあいぼんにバカにされる・・・
のん一人でも出来ることを証明してやるのれす」
そんなことを言いながら、奥へ奥へと向かっていく。
そのとき一瞬入り口のほうで「カチャリ」と金属音が聞こえたような気がしたが、
振り返っても何もいなかったので、そのまま奥へと歩いていった・・・

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・


470 :六部198:2006/05/25(木) 18:07:45.99 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜19

「手術室は確か3階・・・」
辻は受付で見た案内表を思い返しながら、階段を上がる。
噂では人体実験をしているということで、安易な考えとは思いつつも
まずは手術室を目指すことにしたのだ。

「・・・」

不思議なことに、階段を上がるごとに落書きが少なくなっているのだ。
それは、この先が殆ど人に侵入されていないことを意味している。
それと同時に、何かに見られているような気配を四方から感じる。
まとわり着くような・・・そう、まるで獲物を狙うケモノのような・・・
いや、もっと恐ろしいモノのような気がする・・・

やがて目標の手術室前に到達した辻は、
一度呼吸を整えるために大きく深呼吸をした。
(・・・覚悟を決めるのれす・・・辻希美!)
辻は扉に手を掛け、一気に押した。

バアァン!

大きな音を立てて、勢いよく扉が開く。
「!!」
辻はすかさずライトを前方に向けて身構えるが・・・
「うッ・・・!!」
辻は思わず鼻を押さえた。

むせ返るような血の臭い・・・

そして部屋の中央にある手術台には・・・


494 :六部198:2006/05/26(金) 03:01:54.36 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜20

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・・・・・!!!

手術台の上には、かつて『人であったモノ』が横たわっていた。
頭はこちらに向いているようだが、既に息が無いことは明白であった。
顔が無いのだ・・・きれいにくり貫かれている。
その他にも胸や腹もくり貫かれており、どこの部分かは分からないが、
四角い肉片らしきモノが銀色のプレートの上に置かれている。
つい今しがたまで、『なにか』が行われていたようだ。

「こ・・・これは・・・!」
恐怖を飛び越え、辻の全身に一気に緊張感が高まる!

「URRRryyyyyyyaaaaahhhhhh!!!!!!!!!!!」

「うわあッ!!」

ズサアァッ!

背後で獣のような咆哮がした途端、辻は手術室の中に放りこまれた。
その衝撃でペンライトを落としてしまい、視界が利かなくなってしまった。
しかし辻はすぐに起き上がって身体を反転させ、自らのスタンドを呼ぶ。

「『NONSTOP』!!」

バシュウゥゥッッッ!!!

頭上の大きなリボンが特徴的な、褐色で小柄なスタンドが姿を現した。


495 :六部198:2006/05/26(金) 03:02:45.84 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜21

辻はスタンドを構えて入り口付近に眼をやると、うっすらと影が立っているのが見える。
おそらくコイツが犯人であろう。

「おとなしくするのれすッ!!」
辻はスタンドを構えながら、相手を威嚇した。
「それはッ、スタンド!!?」
目の前にいる影が、驚きの声を上げる。
「・・・ッ!!見えているのれすか?!」
「チッ・・・!」
影は舌打ちを鳴らして踵を返し、その場から逃げ去った。

辻は一瞬考える。
(どうしよう・・・一旦引き返して、あいぼんに連絡するべきなのか・・・?)
吸血鬼かどうかはさておいて、相手はスタンド使い!
このまま一人で追いかけていくのはあまりにも危険!
ここは一度引き返すのが賢明である。

だが、彼女のとった行動は・・・

「待ちやがれなのれすッ!」
影の走り去ったほうへ走り出したのだ!
(ここでアイツを再起不能にすれば、見返してやれるのれすッ!)

ダダダダダダダダダッッッ・・・・・


496 :六部198:2006/05/26(金) 03:06:37.19 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜22

かつてぶどうヶ丘中学に転入してきたとき、
陸上部に誘われたほどであった辻は、難なく影に追いつくことが出来た。
しかし、この時点で捕まえることはせずに一度追い抜き、急いで階段の方へと向かった。
(先回りして退路を塞いでやるのれす!)
辻は階段の前に立ちはだかり、影を迎え撃つ。

「これで逃げられない。観念するのれす!」
辻が目の前に迫る影に叫ぶ。
しかし、影は走るのを止めずにこちらに突っ込んでくる。
「人間無勢が・・・不死の吸血鬼である、この私に観念しろだとおおぉぉ?URRrryyyyyyy!!!」
奇妙な咆哮と共に、影の身体から2本の光の腕がのびてきた。
そして、次の瞬間・・・
左肩に斬られたような痛みが走る。

「くあぁぁ・・・ッ!これは・・・?」
見てみると左肩の辺りに正方形状の小さな切れ目が入っており、
今にもその部分が抜け落ちそうになっている。
辻は激しい痛みを堪えて、ソレが落ちないように右手で押さえた。
「kukkukku・・・せいぜい落ちないように押さえていたまえ!『アンダー・ザ・ブリッジ』!!」
影・・・改め、吸血鬼から光の腕が、再び辻に向かって伸びていった。
「くッ・・・NONSTOP!ガードするのれすッ!」
NONSTOPは腰を落とし、左手のみで構えを取る。

ガシィッ・・・!ガシィッ・・・!

NONSTOPに腕が弾かれると、吸血鬼は自分の腕をかばった。
弾かれた衝撃が本体に跳ね返っているのだ。
「Nuuu・・・」
吸血鬼は呻きながら忌々しげに辻を睨みつけた。


528 :六部198:2006/05/26(金) 18:44:38.15 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜23

ビシィッ!!!

吸血鬼の鋭い視線を意に介さず、辻は肩を押さえながらスタンドを構えた。
その精悍な表情は歴戦の勇士を思わせる。

パチパチパチ・・・・・・

吸血鬼が軽く拍手をする。
辻はその真意が読めずに首を傾げた。
「なんのつもりなのれすか?」
「見ての通り・・・敬意を表しているんだよ」
そう言って吸血鬼は拍手を止めて、ニヤリと笑った。
口の端からはチラチラと牙のようなものが、こちらを窺っている。
「名はなんという?」
吸血鬼は辻の全身を舐め回すように見ながら尋ねた。
「???・・・辻・・・希美・・・」
怪訝そうな顔をしながらも、辻は律儀にそれに答えた。
「ノゾミは希望の『希』のほうかね?」
「それに美しいの『美』がつくのれす・・・」
辻が補足すると、吸血鬼は満足そうな顔で2回頷いた。
「なるほど・・・いい名だ・・・実にイイ・・・」
「そういうお前は?吸血鬼・・・人に名前を聞くときは、本当は自分から名乗るもんれすよ」
「フッ・・・これは失礼したな・・・」
辻に指摘された吸血鬼は、素直に非礼を詫びた。
いきなり襲ったくせに、ヘンなところは紳士的である。


529 :六部198:2006/05/26(金) 18:45:13.13 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜24

「では、自己紹介させていただこう・・・」
そう言って吸血鬼は左手を腰の後ろに回し、
キザッたらしく礼をした。

「私の名は財前・・・『財前五郎』。ここ、S大学医学部第1外科教授だ。
『財前教授』と呼べ。」

(・・・ここはもう廃院になっているのれす)
そのセリフがのどまで出かかったが、辻は黙っていることにした。
辻がそんなことを考えているとはつゆ知らず、財前は懐から紙とペンを取り出した。
「ところで、辻希美君・・・いくつかな?14歳くらい?」
「16なのれす・・・」
「それは失礼・・・ふむふむ・・・16歳・・・と・・・血液型は?」
「???O型・・・」
「なるほど・・・」
財前は頷きながらペンを走らせる。
「念のために聞いておくが・・・性別は女性であってるね?」
「当たり前なのれす・・・それより、さっきから一体なにをしているのれすか?!!」
財前の行動が理解できない辻は、苛立って声を荒げた。
すると財前はペンを止め、その紙を辻の目の前に差し出した。
「カルテを作っているんだよ、カルテ。少し暗いが見えるかね?」
辻がそれに視線を向けたのを確認すると、カルテを手元に戻し再びペンを走らせた。
「さっきの君・・・片手のみで我がアンダー・ザ・ブリッジをガードするとは、
なかなかのスピードだ・・・だが・・・」

財前は顔を上げ、辻の腕をペンで指した。
辻もそれに釣られて、自分の腕に目をやった。
「・・・!」
「kukkukku・・・完全にガードできるだけのパワーは持ち合わせていないようだな」
財前が言うと、それと同時に辻の腕から赤い血が滴り落ちた。


530 :六部198:2006/05/26(金) 18:46:04.71 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜25

「それはそうと、スタンド使いの血と肉は一般とは違うのか・・・
そして身体の構造は違うのか・・・非常に興味深いな・・・」
財前がそう言うと、辻は緊張を高まらせた。

ヒュオオオオォォォォオオォォォオオオ・・・・

一陣の風が吹き、月が雲に隠れて病院内が一層暗くなる。

財前はカルテとペンを懐にしまい、腕時計を見た。
「3月2日。19時40分。クランケ、辻希美、女性、16歳のO型」

スウウウゥゥゥ・・・

財前は視線を辻に戻した。
その目には狂気の色が宿っている。
それに辻は、思わず後ずさった。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・



「執刀医、財前五郎。これより、緊急オペを開始する!!!」



ドッギャアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!


664 :六部198:2006/05/29(月) 01:39:27.03 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜26

UURRRRRYYYYYYYyyyyyy!!!!

財前が唸りを上げて辻に襲い掛かる!
そして身体からは光る腕が2本出ている。
実は、この光る腕こそがアンダー・ザ・ブリッジなのだ。
「NONSTOP!」
辻はスタンドを構え、攻撃に備えた。
「またガードするつもりか?今度はそうはいかんぞ!」

ブワアアアアアアアアア!!!!!

「!!」
その光景に辻は目を疑った。
財前の光る腕が突然5本に増えたのだ!

「ははははは!別に腕が2本だけとは限らないぞぉぉ!
ほら、傷を庇っていないで、両手でガードしなければなああ!!!」
腕・・・もとい、アンダー・ザ・ブリッジが辻に迫る!
「くッ・・・舐めてんじゃねーのれす!!」
辻は覚悟を決めて、左肩から手を離した。

ボトッ・・・

鈍い音を立てて、ブロック状の肉片が床に落ちた。
傷口をすべり落ちるときの摩擦で、悲鳴を上げたくなるような激痛が走る。


665 :六部198:2006/05/29(月) 01:42:04.69 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜27

「ぐッ・・・イテーのれすッ!!!」
辻は気を強く持って、迫り来るアンダー・ザ・ブリッジを睨めつけた。

「・・・いい目だ・・・だがッ!URRRYYYY!!」

ブワアァッッ!!

財前のスタンドの腕がさらに増え、10本以上にまでなった!

「なッ・・・?!」
「kukkukku・・・ゾッとしたかね?これぞ神の技を持つ財前五郎の『聖なる腕』だッ!」
財前はニヤリと牙を見せた。


「・・・『ゾッとした?』・・・んなわけねーのれす・・・」
辻は余裕の表情に変わっていた。
「なんだと?」
「その程度なら、十分対処できるのれす!
このNONSTOPならああああ!!!!」

ボオオオオオォォォォ・・・・!!!

NONSTOPが奇妙な唸りを上げ、その身体が光を帯びる!
しかし財前は、そんなことなど気にも留めない。
「なにをするつもりかは知らんが、悪あがきをせずにオペを受けろ!」

ドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・・・・!!!


666 :六部198:2006/05/29(月) 01:44:19.43 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜28

アンダー・ザ・ブリッジが辻に触れようとしたき、財前の視界から彼女の姿が消えた!
「何ッ?!!!」
なにが起きたのか理解できず、財前の動きが止まる。
「これは、一体・・・?」


「せいやぁ!!!」


背後の掛け声に振り返ったその瞬間・・・

ッ・・・!!!!バギイィッ!!

NONSTOPの拳に顔面を殴られ、財前がのけぞる!
「Nuu・・・!今のは、瞬間移動?・・いや、違う!・・・この感覚は・・・」
財前は殴られた顔を押さえ、目の前に現れた辻を指の間から忌々しげに睨んだ。
「自身のスピードを爆発的に高める能力かあァッ!!!?」

「・・・それに答える必要はないのれすッ!!」
辻はそう言って腰に手を当て、ポーズを決めた。

バアアアアアンンンンンン!!!


667 :六部198:2006/05/29(月) 01:45:14.35 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜29

辻の挑発的な行動に、財前の頭の血管が浮き出てきくる。
「Nuuuuhhhh・・・このちっぽけな人間がああぁぁぁ!!」
財前は牙をむき出しにして、アンダー・ザ・ブリッジと共に辻に飛び掛った。
しかし、今の彼女には通じない!
またしても素早く背後に回られてしまった。

「Muu・・・速いッ!」

「ここでケリをつけてやるのれす!」
辻は大きく息を吸い込み、バネのように身体を緊張させ
一気に解き放った。

「ののののののののののののののののののののののののののののののののののの
ののののののののののののののののののののののののののののののののののの
のののののののののののののののののののののののののののののの!!!!!」

バキグシャベグキカポルナレフウサヅキコドガボガ
ベギギギギゴバドバドガガッガガ!!!!!!!!

辻はさらに加速し、まるでVTRを早回ししたかのような超高速の連撃!
その特異な能力に殆どのエネルギーが使われているせいか、
パワーは無く一撃の破壊力には乏しいが、いくつもの束になれば話は別ッ!
しかもそれを超スピードで繰り出されれば、避ける事など事実上不可能ッ!
大ダメージは必須!

「GUUUUAAAAAAHHHHHH!!!!!!」

財前の身体は後方へ吹っ飛び、無様に床に叩きつけられた。

ドッギャアアアアアアアアンンンン!!!


710 :六部198:2006/05/29(月) 23:41:31.51 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜30

「Nuuuuu・・・」
財前はなんとか上半身だけ起き上がり、前方を見た。
辻が荒い息を吐きながら、こちらに歩いてくる。
「ハア・・・ハア・・・まだ、終わらねーのれす」
闇の向こうからゆっくりと迫ってくるその姿は、まさに修羅であった。

やがて財前は、自分の身体が震えているのに気づいた。
それと同時に、とうの昔に忘れていたはずの感情が湧き上がる。
(この財前五郎が・・・恐怖しているだと・・・?バカなッ?!)
そうしているうちに辻が目の前に到達し、スタンドを構えた。
財前は、尻餅をつきながら後ずさろうとするが、自分の血で滑って思うようにいかない。
(ここで終わるのか・・・?)
再起不能を覚悟したとき、財前はあることに気づいた。
(・・・ん?そういえば・・・コイツ・・・)

辻がやけに息を切らしているのだ。
汗も異常な量だ。それに何故か歩いてきた・・・効果が切れたかもしれないが
それなら再び先程のように超スピードで拳を叩き込めばいいのに、だ。
たしかに、あれだけの連打を浴びせれば疲れるが、これは少し異常である。

「うう・・・」
辻が苦しそうに呻き、足元が大きくふらつく。

(そうか・・・そういうことか・・・少し、思い違いをしていたようだ)

「kukkukku・・・」
財前は余裕を取り戻し、尻餅をついたままスタンドを構えた。


711 :六部198:2006/05/29(月) 23:43:09.92 0
辻はアンダー・ザ・ブリッジに構わず近づいていくが、
足元がおぼつかなくなり、壁に手をついて寄りかかった。

「kukkukku・・・運命の女神は、この財前五郎に味方したようだな・・・」
財前はボロキレのようになった手で、親指を自分に向けた。
「ハア、ハア・・・そんなこと・・・は・・・無ぇーのれす・・・」
辻は強気に返すが、財前は薄ら笑いを浮かべながら話を続けた。
「ほんの少しの間に、随分とお疲れのようだ。それに・・・少し痩せたかな?」
その言葉に、辻の顔色が変わる。
「君の能力は『自分の中に流れる時間』を加速させる・・・ではないかね?辻希美君。
あるいは『対象のモノ』か・・・こっちのほうが正確かね?」
「・・・」
辻はそれに答えず、無言であった。
だがそれは、『そうだ』ということを何よりも雄弁に語っている。
「・・・君は通常の時間の流れの何十倍、いや、もっとか・・・。
なんにせよ、相当の時間を過ごしたわけだ」
「うぅ・・・」
「例えば8640倍加速させれば、10秒間で1日分の時間を過ごしているのと一緒だ・・・
飲まず喰わずで1日過ごしたのと同じ消耗をする。その中で動けば、さらに消耗するだろうな。
先程の素晴らしいラッシュからここまでの1分間強・・・君はどれほど加速できるかは知らないが・・・
その様子だと、一体どれ程の『日々』を『無休無食無飲』で過ごしたのかな?」
そう言うって財前は、アンダー・ザ・ブリッジで素早く辻を切りつけた。

シバッ・・・シバッ・・・シバッ・・・!

「!!」

反応はしたものの、辻はそれを避けることも出来ず、まともに攻撃を喰らってしまう。
身体からブロック状のモノがビチャビチャと音を立てて床に落ちた。


712 :六部198:2006/05/29(月) 23:45:04.28 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜32





「うあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」








713 :六部198:2006/05/29(月) 23:45:59.32 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜33

耳を劈くような叫び声を上げ、辻は空洞になった腹を押さえながら膝から崩れ落ちた。
「んんんnnnnnn♪良い響きだ・・・」
財前は耳に手を当て、その悲鳴に酔いしれるように目を閉じた。
そして床に落ちた肉片を手に取る。
「私の傷は・・・希美君、キミの血肉で回復させるとしよう」
財前はそれを一度辻に見せ、口の中に入れた。

スウゥゥゥ・・・

「m・・・mmuuぅぅうんnnn・・・いいぞぉ、見ろ!!
私の傷が治っていくぞ!ふははははははは!!!」
みるみるうちに傷が治っていく財前の姿に、
辻は絶望感に打ちひしがれたような表情を見せた。
「あ・・・そんな・・・」
「・・・kukkuk・・・やはりスタンド使いの身体は相性いいのか・・・
たった一欠片で、これだけ癒すことができるとは・・・」
財前は辻の目の前に立ち、スタンドの切っ先を辻の喉下に突きつけた。
「次は・・・」

シバッ・・・シバッ・・・!

「ッ・・・ゴボッ・・・!」
辻の喉下から血と共に鈍い音が流れる。
その様子を満足気に見ながら、財前は独り言のように呟き始めた。
「そういえば、私を『矢』で打ち抜いた学生が言っていたが、
この町にはスタンド使いが他にもたくさんいるらしいな・・・
フフ・・・他にも調べて試してみる価値はありそうだ・・・希美君は何か知っている―」
途中まで言いかけて、わざとらしく何かに気づいたようなしぐさをする。
「おっと・・・もう口が利けないんだったね・・・これは失礼」
財前は切り取った『喉』を手に、それを見せつけながら含み笑いをした。


714 :六部198:2006/05/29(月) 23:48:06.21 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜34

目の前に立つ吸血鬼を見上げながら、辻は後悔の念に駆られていた。
(・・・ああ、やっぱり言うことを聞いておけば良かったのかな・・・結局、のんは・・・)

そのとき・・・

・・・ンン・・・ンンンン・・・・・・

(・・・ん?)
下の方でなにやら音がしたような気がする。
何かが破壊されたような音だ。
財前もそれに気づいたのか、階段のほうに目をやっている。

(今の音・・・なんだろう?まさか・・・いや、今はそんなことどうでもいいのれす・・・)
痛みとダメージで気を失いそうになりながらも、音に気をとられている財前に焦点を合わせた。
(この落とし前は、つけてやるのれす!)
辻は重傷の身体をおして立ち上がり、
遠のく意識を呼び寄せて心の中でスタンドに命じる。

(・・・NONSTOP・・・!もう一度、加速するのれす・・・最大に・・・)

ズッキュウウゥゥゥゥンンンン・・・・

(まずは、準備完了・・・)


767 :六部198:2006/05/30(火) 23:17:54.00 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜35

加速したことにより、当然出血量も増える。
それは誤ってこぼしてしまったワインのように、音を立てて床を打ち付けた。
その音に財前は視線を辻に戻す。
「ん?なにをしているんだね希美君?重傷患者はおとなしく寝ていたまえ」
そう言ったところで、彼女の出血の速さに気づく。
「またかね?もう無駄だ。君は私に敗北したのだよ。
もう少ししたら楽にしてあげるから、我慢していたまえ」
財前は溜め息を吐きながら、辻の肩に手を置いた。

「・・・・・・・」
辻は何かを訴えかけるように口をパクパクさせた。
喉を失っているので、当然のように声は出ない。
「・・・?なにを言っているんだね?ふふ・・・よく聞こえないんだが」
そう言って財前がその口元に耳を近づけると、辻がぎこちなく抱きついてきた。

ガシイィッ!!

「なんだね?離したまえ!」
財前はそれを振りほどこうとするも、瀕死とは思えないような強さで掴まれて振りほどけない。
「貴様!なんのつもりだ?!」
(こういうつもりなのれす!)
辻はスタンドの手のひらを財前の顔にピッタリとつけた。

ズッキュウウゥゥゥゥンンンン・・・・

「貴様ああああああ!!!今何をしたあああ???!!!」
嫌な感覚を覚えた財前が、辻を問い詰める。
しかし辻は財前を睨んだまま、それを黙殺した。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・


768 :六部198:2006/05/30(火) 23:18:34.84 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜36

ゾオォォ・・・・

「くそッ・・・なんだこれは?」
言いようもない寒気を感じた財前は力づくで振りほどき、
一度距離を取ろうと2〜3歩下がろうとした。

しかし・・・足が止まらない・・・

「なッ・・・勢いが!くそッ・・・!!」

・・・結局10歩以上下がってしまった。

「これは・・・まさか私を加速させた?」
自分の腕時計をみると、その針が異常な速さで回っている。
「・・・ナゼ?・・・だが・・・」
辻の行動が理解できない財前だが、すぐに気を取り直してアンダー・ザ・ブリッジを構えて突進をする。
「貴様を始末すれば、関係ないの―」

ビタタァァァァン!!!

「―だ・・・?ゴボァッ・・・!」
財前は超高速で冷たい壁に激突して、その衝撃で血を吐いた。
腕時計の針は、既に見えないくらいに高速で回転している。
「ガ・・・さっきよりもさらに・・・!どんどん加速していくだと?
マズイ、これ以上の速さはマズイぞッ!!
F1マシンを素人が操縦できないように対応しきれないッ!!」

(・・・『のんすとっぷいんふぇるの』・・・誰にも教えていない秘密・・・
時代遅れの呪われた吸血鬼・・・お前は『無限に加速する時』に付いていけず、地獄を見るのれす・・・)


769 :六部198:2006/05/30(火) 23:19:14.83 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜37

「Nuuaaahhahhh!!!」
財前は気を吐き、アンダー・ザ・ブリッジを辻に狙い定めた。
「下手に動くからいけないのだ!
こうして落ち着いてやれば問題はなかろう!!」

そう、怪我の具合と、おびただしい出血で最早ろくに動けない辻を上手に狙えば勝負は決まるのだ。
ましてや今の財前は、常人には捉えきれないスピードにまで加速されている。
彼女を始末することなど、瞬きをするよりも速く出来るのだ!

(・・・マズイのれす・・・このままじゃ、こっちが・・・)

辻の心中を見透かしたかのように、財前は口元を歪めた。
「それとも、このまま君の命が終わるのを待とうか?
その傷では長くはないだろ。もって3分ほど、と言ったところか。
フフ・・・患者の余命はキチンと伝える主義なもんでね」

(くッ・・・)

・・・しかし、財前は気づいていない・・・
この能力の本当の恐ろしさに気づいていない・・・
仮初の永遠を与えられた吸血鬼が忘れてしまったモノに・・・

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・・


786 :六部198:2006/05/31(水) 09:46:57.18 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜38

財前が今まさにとどめを刺そうとしたとき、『それ』は訪れた。

ボロオォッ・・・!

「ッ?!」
財前は一瞬、自分の目を疑った。構えていた右腕の肉が突然削げ落ちたのだ。
そして、身体の異変に気づく。
「GUAA・・・な、なんだこれは?!」
もう片方の腕も異常に痩せ細っている。
いや、腕だけではない、全身がそうなのだ。胴回りは既に肋骨が浮き出ている。
それは今もなお、もの凄いスピードで進行している。

財前は思わず膝を着いた。
立っているだけで疲労感が高まっていくのだ。
「どういうことだ?なぜ、こんな・・・?」
財前が荒い息を吐きながら辻を睨むと、
彼女は手を突き出し親指をゆっくりと下に向けた。
(説明する義務は、ないのれす)

ドッギャアアアアアアンンンンン!!!!

・・・とはいうものの、ここはやはり説明をしなければなるまい。

『のんすとっぷいんふぇるの』
本体が限界まで加速したときに発動できる、究極の奥義といえよう!
密着状態で対象と向かい合い加速させると、その対象は『無限に』加速されていくのだ!
つまり、速さを手に入れると同時に凄まじいスピードで老いていく(もしくは劣化)ことになる!
そしてそれは吸血鬼とて同じ!それがこの世に生きる『全ての』生物のルール!
不死とは、『養分を取り続けてこその不死』なのだ!
養分を取らなければ代謝は行われない!すなわち、肉体は腐っていくことになる!


787 :六部198:2006/05/31(水) 09:47:16.03 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜38

「これはマズイ!なんとかしなければ!」
事を察した財前は直接養分を吸収しようと、辻に迫って首筋に指を食い込ませるが・・・

「・・・出来ない!そんな、バカな・・・」
そう、もはや養分を吸い取るパワーすらも残っていないのだ!
彼の顔には無数の醜い皺ができ、その姿はまるでミイラのようであった。

「この財前五郎がああぁぁ・・・貴様のようなちっぽけな小娘にいぃぃいいい!!!」
財前は激高しながら叫ぶが、力尽きたのか床に崩れ落ちた。

バタアァッ・・・!

しばらくは痙攣を起こしたようにヒクヒクと動いていたが、やがてその動きは止まった。
魂を失った肉体はあっという間に液状化し、そこには骨だけが残った。

「・・・」

財前の死を確認した辻は、壁に背を預けて座り込みスタンド能力を解除した。
そして、首に食い込んだままの財前の白骨化した腕を忌々しく払いのける。
床に落ちた彼の腕は、音を立てて崩れていった。

バアアアアァァァンンンンンンンン!!!!!


788 :六部198:2006/05/31(水) 09:47:32.93 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜36

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・

目の前には『時の流れ』で半ば風化した、財前の白骨死体が転がっている。
吸血鬼がそのような状態になるまでに、一体どれほどの時間を要するのかは不明だが、
とにかくこの間に膨大な時が流れたのは確実である。

(・・・やったのれす・・・これでもう、子供扱いされない・・・はず)
辻は傷を庇いながら、窓の外を見上げた。先程雲に隠れた月が、いつの間にか再び顔を覗かせている。
そして、まるでスポットライトのように彼女を照らしている。

(でも、勝手に行動したこと怒ってるだろうな・・・)
加護が腕を組みながら自分に説教をする姿を想像して、辻は思わず身震いをした。
(あ、先にメールで謝っておけば!・・・のん、あったま良いのれす)
辻はポケットから携帯電話を取り出して、電源を入れてメールを打った。

・・・・・・・・・・・

送信を完了すると、安心感と多量の出血で意識が遠くなっていく。
(・・・少し・・・休もう・・・)
そう思って目を閉じたときであった。
階下のほうから、慌ただしい足音と声が近づいてきた。


ダッダッダッダッダッダッダッダッダッ!!!


『おい!はやくしろ!こっちだ!』

『そんなん言われなくったって、わかっとるわ!!』
「・・・ったく、タバコなんか吸ってるから息切れすんだよ!」
「ほっとけ!」

先に2階に差し掛かった藤本は、まずそこを回ろうとしたが加護に呼び止められた。
「そこじゃない!多分もっと上や!」
「なんでそんなこと分かるんだよ!2階かもしれねーじゃんか!」
「『感じ』でわかる!あの子は多分、この上や!」
そう言って加護は、藤本を無視して上に走って行った。
「おい!待てよ!!」
藤本は慌ててその後を追った。


108 :六部198:2006/06/03(土) 00:50:18.50 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜37

加護の背を追って、藤本は暗い階段を駆け上がる。
そして3階到達した途端、前を走っていた加護が急に足を止めた。

「お、おい・・・!」

ドン!

急には止まれずに、藤本は加護の背にぶつかってしまった。
「おい!何やってんだよ!」
文句を言いながら肩越しに加護を覗き込むが、
彼女は一点を見つめたまま動かない。
「・・・?」
不審に思った藤本も、その視線の先を見つめる。

「!!」

・・・・・・そこには壁に寄りかかって、ちょこんと座っている辻がいた。
手には携帯電話が握られている。
そして・・・身体中に切り取られたような痕があり、彼女を中心に大きな血だまりが出来ている。

「ちょ・・・!!」
藤本は慌てて駆け寄り、その肩を掴んで乱暴に揺すった。
「おい!しっかりしろ!!」
しかし返事は返ってこない・・・
糸の切れた人形のように、力なく揺さぶられるだけであった・・・


109 :六部198:2006/06/03(土) 00:50:44.13 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜38

加護は辻に歩み寄り、その首筋に手を当てた。
そして、藤本の顔を見ながら静かに首を横に振った。
「・・・無駄や、もう死んどる・・・」
「そんなことねーだろ!ち、ちょっと疲れて気を失ってるだけだ!」
そう言って藤本は、なおも辻を揺すりながら「起きろ!」と呼びかけ続けた。
「藤本ぉッッ!!!!」
業を煮やした加護が掴んでいた肩を思いっきり引っ張り、
その勢いで藤本は無様に尻餅を突いてしまった。

そのまま立ち上がろうともしない藤本を横目に辺りを見回すと、
すぐそばに白骨が散乱しているのが目に入った。
血だまりの上にあることと辻の状態から推測して、
これは今回のターゲットで、彼女と交戦した結果こうなったと判断できた。
(・・・せやけど・・・)
「どうやって倒したか?」という疑問は残るが、加護は一息吐いて
藤本に手を差し伸べた。
「ミキティ・・・もう帰るで・・・」
「え?」
藤本が困惑気味に加護の顔を見上げる。
「帰ってこのことを報告せな」
「おい・・・辻ちゃんはどうするんだよ?」
「ほっとけや。ほれ、掴まりぃ」
加護は差し出した手を揺すって、「早くしろ」と促した。
「・・・!!!」

バシイィッッ!!!

藤本は乱暴にその手を払って自分で立ち上がり、加護に向き直った。
目には涙が溜まっており、いまにも零れ落ちそうである。


110 :六部198:2006/06/03(土) 00:51:22.58 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜39

「なんだよ、それ!お前ら親友じゃなかったのかよ?!」
余りにも冷たい態度の加護に、藤本は声を荒げた。
「あぁ?」
加護が眉間にシワを寄せて睨み返す。
「親友が目の前で死んでるんだぞ!!!お前なんとも思わないのかッ?!」
「なんとも思わないわけないやろ」
その言葉に藤本は冷静さを取り戻す。
「ご・・・ごめん・・・そ、そりゃそうだよな・・・」

『誤解されやすいタイプなのれす。本当はすげーいい子なのれす』

昨日『ドゥ・マゴ』で辻が言っていたことを思い出し、藤本は先走った自分を恥じた。

しかし・・・次に加護から出た言葉は、それを裏切るものであった。

「・・・勝手な行動とって、その挙句このざま。
ったく・・・昔から迷惑かけられっぱなしや。まあ、その心配はもう無うなったがな」
加護は辻に一瞬だけ目をやって鼻で笑うと、ポケットからタバコを取り出して口に咥えた。

その言動は、藤本の怒りを爆発させるのに十分なものであった。

「・・・・・・てめえ・・・こんなときに・・・」

藤本は紅潮した顔で加護の胸座を掴み、拳を握り締めた。

「親友のために涙ひとつ流さねーのかああああああああ!!!!」

ドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・・・・・・!!!!!


111 :六部198:2006/06/03(土) 00:52:32.27 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜40

シイイイイィイイィンンンン・・・・・

・・・藤本は加護の胸座を掴んだまま、瞬きもせずに
自分を真っ直ぐに見据えるその顔を見つめていた。

(・・・昔の美貴だったら、何も気づかずに
このまま怒りに任せて殴っただろうな・・・美貴も成長したってことか。
悲しくないワケ無いじゃねーか・・・
必死に抑えつけて強がって動揺していないフリをしているだけじゃねーかよ・・・)
藤本は手を離して加護の胸元を軽く払い、背を向けてガラスの無い窓に寄りかかった。

「どうした?殴るんちゃうんかったんか?」
加護はその行動を訝しがったが、相変わらず憎まれ口を叩く。

「あいぼん・・・」
藤本はあえてニックネームで言葉をかけた。
加護の心中を察したことで、彼女との垣根が取り払われたということなのだろうか。




「・・・タバコ・・・逆さだぜ・・・」




「あ・・・」
その言葉でやっと気づいたのか、加護は微かに震える手でタバコの向きを直した。


112 :六部198:2006/06/03(土) 00:52:59.08 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜41

ピロリロリン・・・!ピロリロリン・・・!

加護の携帯電話から、メール着信音が鳴り響く。
電話を取り出して着信欄に目をやると、
そこには辻の名前が表示してあった。
電波が届きにくい場所なのであろうか、少し遅れてメールが届いたようだ。


件名 任務完了!

本文 勝手に行動してごめんなさいm(__)m
    まあ、でもその代わり吸血鬼はのんが
    倒しておいたんでプラマイ0ってことで♪
    話は変わるけど、来週の約束ちゃんと
    覚えてる?
    お揃いのネイル作りにいこうねo(^∇^)o
    留年しちゃったけど、これからも二人で
    頑張って行こうねヽ( ^ー^)人(^ー^ )丿


「・・・」
加護は俯いて静かに目を閉じた。
そして、震える声で呟いた。

「・・・約束くらい守れや・・・」


113 :六部198:2006/06/03(土) 00:54:30.14 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜42

・・・・・・・・・・・・

藤本は窓から夜空を見上げていた。
その後ろで微かに嗚咽のようなものが聞こえたが、
あえて見ないようにしていた。
ずっと気丈に振舞っていた加護を、
慰めの言葉や同情の視線で侮辱したくないからだ。

(・・・そういや、今日は満月だったな・・・ん?満月・・・?)
満月を見上げた瞬間、藤本は重要なことを思い出す。

「そうだ!今日は満月ッ!!」

「おい!まだ助かるぞッ!!」
藤本が興奮気味に、加護の両肩を掴んだ。
「はあ?なに寝ボケたこと言うとんねん」
「まだ辻ちゃんが死んでから5分も経っていないはず!
だから、BT03で辻ちゃんの状態を5分前に戻すんだよ!」
「ああ、アンタのスタンドにはそんな能力があるみたいやな。
でも、時間が経ったら元通りになるんちゃうか?意味無いやろ」
加護は俯いたまま、力なく言った。

「違うんだ!満月の夜だけ特別なんだよ!
満月の光を浴びてるときだけ戻した時間が固定されるんだ!!」
「なんや、それ?どういうこっちゃ?!」
加護の表情が変わる。
「何でかは美貴もよくわかんねーけど、とにかくそうなんだよ!
前にも実績がある!とにかくこうしているうちに、時間は過ぎていく!」
「だったら早くせんか!!」
加護は立ち上がって声を荒げた。その顔には、焦りと期待が見え隠れしていた。


114 :六部198:2006/06/03(土) 00:55:16.55 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜43

「BT03ィィ!!」

VVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVV!!!

ドガガアアアアアアアア!!!

藤本は窓側の壁を破壊して、月の光を目いっぱい浴びた。
それに伴うようにしてBT03が輝きだした。

「うおおおおおおおおッ!!!!満月のォォ流法おおォォォォォォォォッ!!!!!!!!」

ビカアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーンンンンンンッ!!!!!!!!

辻の身体が光に包まれる!

「RRrrrrrrロマンティック浮かれモォォォォォーーーーード!!!!!!!!!」

BT03の輝きが一層増し、それと共に辻を包む光も強くなっていく!
その眩しさに、加護は思わず目を細めて手をかざす。

「こ・・・これわああああああ???!!!」


ドッギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!


・・・・・
・・・



115 :六部198:2006/06/03(土) 00:55:52.44 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜44

光が止み、再び静寂が訪れた・・・

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・

「お、おい・・・どうなった?」
加護は心配そうに、辻と藤本を交互に見比べている。
「大丈夫・・・美貴を信じろ・・・」
そう言う藤本も、少し不安げであった。


やがて・・・


「・・・あれ?あいぼん・・・?それに、ミキティ・・・?」
辻は目をパチクリさせながらゆっくりと起き上がり、二人を不思議そうに見つめた。

「・・・ッしゃ!!!」
藤本が力強くガッツポーズをする。
加護は何も言わず、口を真一文字に結んだまま辻を見つめている。
その目には、うっすらと涙が溜まっていた。

「・・・?傷が治ってる・・・でも、肩の傷はそのまま・・・」
5分以上前の状態は戻らないのだ。
辻は頭上に『?』マークをいくつも浮かべながら、
自分の身体を不思議そうに眺めた。

「・・・グスッ・・・いつまで座っとんねん。早よ帰るで」
加護は顔を上に向けながら、辻に手を差し伸べた。
そんな加護を見ながら、藤本は頭の後ろで両手を組んで息を吐いた。
(・・・素直じゃねーな)


116 :六部198:2006/06/03(土) 00:59:31.13 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜45

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「しっかし・・・どうやって倒したん?あら、しばき倒したんちゃうやろ?」
病院の階段を下りながら、加護は辻に勝利方法を尋ねた。
しかし辻は、人差し指を口元に持っていき左右に振った。
「チッチッチッ・・・いくらあいぼんでも、それだけは言えねーのれす」
「まあええわ・・・それより、のん、後で説教な・・・」
「えええええ!!!何で?!!」
「何でちゃうやろが!アホッ!勝手に行動してからに!
それにミキティがおらんかったら、アンタ今頃お星様や!ちゃんとお礼言い!
ミキティがアンタの傷を治してくれたんやで!」
「・・・そうだったのれすか、ありがとうなのれす」
辻が頭を下げると、藤本は照れくさそうに笑う。
「あ、いや、いいんだ。はは・・・」
そして、ボソッとこう付け加えた。
「まあ、正確には『戻った』んだけどな」

「大体、こんなふざけたメールよこして・・・」
小言は続く・・・
加護は送られてきたメールを見せ付けながら、辻を睨みつけた。
「いや、それは・・・でもちゃんと謝ってるじゃないれすか!」
「こんなんで済むと思っとるんか?寺田先生への報告が済んだら、速攻説教タイムな!」
「うう・・・ミキティ・・・」
辻は泣きそうな顔で、藤本にとりなしを求めた。
しかし藤本はそれに巻き込まれないようにそっぽを向き、
意地悪そうにこう言った。
「説教る説教らねーは、お前らの問題だ。美貴は知らねーよ」
「しょんなああぁぁぁぁぁ・・・」


117 :六部198:2006/06/03(土) 01:00:05.82 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜46

そうこうしているうちに、やがて病院の出口に差し掛かかる。
そして病院の門を抜けようとしたとき、辻が何かに気づいたように立ちどまった。

「あッ!」

「ん・・・?どないしたん?」
加護が問うと、辻は手振りを交えながら答えた。
「ペンライト忘れてきたのれす!ちょっと取ってくるのれす!」
財前に遭遇したときに落としてしまったペンライトだ。
「すぐに戻ってくるのれす!」
そう言って、辻は振り返って走り出す。

・・・そして、ちょうど二人の後ろにいる藤本とすれ違う瞬間・・・



ズバアアアアアアアアアァァァァァッァアッァ!!!!!!!



突然、『(戻って)治ったはずの』首や腹に正方形の穴が開き、血飛沫を撒き散らした。

「・・・あれ・・・?」

何が起きたのか理解できなかったのか、辻は呆気にとられたような
表情をしながら前のめりになって倒れた。

ドサアァッ・・・・!!


215 :六部198:2006/06/05(月) 03:46:03.33 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜47

「のおおおおぉぉぉぉんんんんん!!!!!!」
加護は取り乱しながら辻に駆け寄り、その身体を抱きかかえた。
「おい!!しっかりせえ!!」
必死に呼びかけるも返事は返ってこない。
彼女のその瞳には、もう光は宿っておらず既に事切れているのがわかる。

「そんな・・・なんで・・・?」
すれ違いざまに鮮血を半身に浴びた藤本が、呆然と立ち尽くす。
「おい!どうなっとんねん?!!」
「まさか失敗・・・?どうして・・・?満月の日は平気なはずなのに・・・」
加護が藤本を見上げながら問い詰めるが、
藤本はあらぬ方を見ながらブツブツと呟いている。

ガシイィッッ!・・・グイッ!

「見ろおッ!!戻っとるやんか!!!!」
加護は藤本の頭を掴み、無理やり辻の亡骸に向けた。
しかし、藤本は辻のことなど目に入っていないかのように、
同じことをうわ言のように呟くだけであった。
「・・・平気な・・・はずなのに・・・亀の時だって・・・」

「くそおッ!」

ドンッ!

加護は藤本を突き飛ばし、辻の亡骸を抱きしめ天を仰いで叫んだ。

「くそおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉおおおおぉおおぉおおお!!!!!!!!」

しかし、その叫びは虚しく夜空に吸い込まれるだけであった・・・


216 :六部198:2006/06/05(月) 03:47:13.58 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜48

・・・・・・藤本は地面に力なく座り込み、再び魂の抜殻になってしまった
辻を抱きしめる加護を、虚ろな目で見つめていた。
時折彼女の肩が震え、その度に嗚咽が漏れてくる。

・・・しばらくすると、加護が手をついて立ち上がった。
「ブツブツ・・・」
「・・・?」
何か言っているようだが、声が小さくてよく聞き取れない。

やがて、ゆっくりと藤本に向き直って顔を上げた。
よほど強く歯をかみ締めたのか、口元からは血が流れている。
「お前が・・・」

「・・・」

「お前が殺した・・・」

「・・・え?」

加護は藤本に向かってふらふらと歩きだした。
その傍らには、彼女のスタンドが不気味なオーラを放っている。
「・・・おい、やめろ・・・」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・


217 :六部198:2006/06/05(月) 03:48:14.25 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜49

異様な殺気を感じた藤本は、すぐさま立ち上がって後ずさった。
「おい、落ち着け・・・」
藤本は両手を差し出して必死に加護をなだめるが、
彼女はゆっくりと、しかし確実に近づいてくる。

トン・・・

そのうち背中に硬いものが当たる感触がして、藤本は振り返る。
「うぅッ・・・」
後ろには塀・・・追い詰められてしまったのだ。

ビタアアァァァァァ・・・・・

加護のスタンド、『サイ・キス』の手が頬に触れる。
「な・・・なにをするつもりだ・・・?」
「『なにをするつもりだ?』・・・ふふッ・・・」
そう言って加護は引きつった笑みを浮かべ、
一呼吸置いて耳元で囁く。
「・・・わかっとるやろ?」

バギイイィイッッッ!!!!


218 :六部198:2006/06/05(月) 03:52:26.13 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜50

超至近距離での強烈なパンチを喰らった藤本は、
塀にもたれながらズリズリと腰を落とす。
しかし、加護はそれすらも許さない。
すぐにその首を掴んで無理やり藤本を立たせると、その身体を塀に強く押し付けた。
「のんは2回も死んだ!いや、『殺された』!!
藤本美貴ィ!!お前が殺したんや!!!」
加護は血の涙を流しながら、何度も藤本の身体を塀に打ち付けた。

「・・・」
何も言い返せなかった。
原因は不明だが、『ロマンティック浮かれモード』に失敗し、辻を再び死に追いやったのは事実。
一度で済むはずの苦しみを二度も味わうことが、どれ程のものかは想像を絶するものであろう。

「ウチの心の支えは、もう無うなってしもうた・・・」
そう言いながら加護は、狂気に彩られた瞳でサイ・キスの右手を突き出した。


「殺してやる・・・!!」


ドッギュウウウゥゥゥゥゥゥウウゥゥウンンンンン!!!!

「ぐああッ!!」

サイ・キスの能力で全身を強く圧迫され、激痛が走る!
それは昼間にやり合ったときとは比べ物にもならない。
「・・・や・・・やめろ・・・」
藤本はそれから逃れるべくBT03で反撃しようとしたが、
それに気づいた加護に膝蹴りを喰らい、それは適わなかった。


219 :六部198:2006/06/05(月) 03:53:41.85 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜51

ギギ・・・ミシ・・・ミシッ・・・

締め付けはどんどん強くなり、藤本の身体が悲鳴を上げる。

バギバギバギバギバギ・・・!!!!

全身の骨が圧迫に耐え切れずに砕けていく。
しかし、もはやどうすることも出来ない。
「あぁ・・・ガッ・・・ゴボッ・・・!!」
藤本は大量の血が吐き出しながら、目の前の加護を黙って見ているだけであった。
加護は顔にかかったその血を忌々しげに手で拭い、
スタンドにさらに力をこめる。


(そ・・そんな・・・こんな・・・ところで・・・美貴は・・・死・・・)


バギバギバギバギ・・・・・・グシャアァッッ!!!!









                          プワアァァァァン・・・・・・・・・








28 :六部198:2006/06/06(火) 08:56:47.38 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜52

・・・・・・
・・・


「・・・ティ・・・」

誰かが呼ぶ声が聞こえる・・・
(・・・この声は・・・?)

「おい!!」

肩を揺すられ、藤本は我に返る。
目の前には・・・『さっき自分を殺したはずの』加護亜依の姿があった。

「うわああああ!!!!!」

藤本はたまらず悲鳴をあげて後ずさった。
そのとき、背中に何かが当たる感触がした。
しかしそれは廃病院の冷たい塀ではなく、迷惑そうにこちらを睨むサラリーマンであった・・・
周りを見渡すと他にも人が大勢おり、自分を不審そうに見ている。
「あ・・・すいません・・・」
藤本はサラリーマンに謝って、腕時計を見やる。
時刻は12時過ぎ。
それは昼休みにサンジェルマンの列に並んでいた藤本の前に、
加護が無理やり割り込んできた直後の時間であった。

(そうか、戻ったんだ・・・)
藤本は安堵の溜め息をついて、胸をなでおろした。


29 :六部198:2006/06/06(火) 08:57:21.44 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜53

「なんやねん・・・鬼でも見たような声上げて。ちゃんと人の話聞いとるんか?」」
加護は憎悪と怒り燃える瞳でもなく、不思議そうにこちらを見つめている。
「ああ聞いてるよ・・・それよりッ・・・」

ダッダッダッダッダッ・・・

「おい!どこ行くんねん?!」
突然列を離れて走り出す藤本を、加護が呼び止める。
「大事な用事が出来た!テリヤキチキンはおめーにやるよ!!」
そう言って藤本は、急いで学校へと向かった。
そう・・・彼女には、やらなければいけないことがある。
これから起こる悲劇を避けるために。

(・・・このままじゃあ、また同じことになる!そうならないようにするには・・・!)

藤本が向かった先は、演劇部であった。
(あの後、加護ちゃんとやりあったときに
よっちゃんさんが来たってことは、今は多分部室にいるはずだ!)

ドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・!


30 :六部198:2006/06/06(火) 08:57:43.65 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜54

バアン!!!

藤本は部室に着くなり、寺田の私室の扉を勢いよく開けた。
予想通り中にはデスクに座る寺田と、その正面に立っている吉澤がおり、目を丸くしてこちらを見て

いる。
「おぉ、ミキティ!なんや?そんなに慌てて」
「ミキティ、ノックくらいしろよ!」
「悪い、よっちゃんさん、ちょっと出てってくれ!」
藤本は文句を言う吉澤を、無理やり部屋の外に押しやった。
「お、おい!今、打ち合わせ中なんだぞ!」
「・・・吉澤・・・すまん、外してくれ」
藤本の剣幕に何かを感じ取った寺田は、吉澤に退出を命じる。
「・・・え?・・・あ、はい・・・」
納得のいかない様子の吉澤だが、
寺田がそう言うなら、と、渋々部屋を後にした。

「・・・で、一体どうしたん?」
寺田は両手を組み、藤本を見上げた。
「今回の指令を取り消してほしい」
藤本はデスクに手を叩きつけて寺田に詰め寄った。
「指令を中止?お前、どこで指令のことを・・・?」
「・・・」
「・・・『戻ってきた』んか?」
勘のいい寺田が事態を察知してそう言うと、藤本は黙って頷いた。
「・・・説明せぇ・・・」
「ああ、実は・・・」

・・・・・・・
・・・・



31 :六部198:2006/06/06(火) 08:57:58.13 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜55

事の経緯を聞いた寺田は、背もたれに身体を預けて
伸びをしながら頭をかいた。
「なるほどな・・・ようわかったわ」
「じゃあ!」
「ああ、指令は取り消す。とりあえず今回は、あの廃病院に
吸血鬼がおるっちゅうことが分かればええねんからな」
寺田は引き出しから指令書を取り出して、シュレッダーに入れた。
「よかった・・・これでもう・・・」
機械に吸い込まれていく指令書を見て、藤本の表情がやっと明るくなる。

「しっかし、加護もなあ・・・辻のことになると、見境が無うなってしまう・・・
可愛い顔して、まったく困った娘やわ」
寺田は引き出しから部員名簿を取り出し、加護のページを眺めた。
右上に写真が貼っており、そこには満面の笑みを浮かべる加護が映っている。
「はは・・・でも、そのおかげで美貴はここに戻ってこれて、やり直すことが出来たんスけどね」
そう言いながらあの時のことを思い返すと、背筋に冷たいものが走った。
もしも時間が戻らなかったら・・・と考えると、思わず寒気がする。

「それにしても、あの辻がどうやって不死の吸血鬼を倒したんやろか?」
「美貴も聞いてみたんすけど、『それだけは言えねーのれす』って・・・」
藤本は辻の物真似をしながら首をひねる。
「ははは!辻らしいわな。ああ見えて意外と用心深いからな。
ま、奥の手ってやつは、あまり口にしてはアカンねん。たとえ親友同士でもな」
「ふーん・・・」
藤本は適当に相槌をうち、自分の奥の手について考える。
(美貴のはやっぱ、時間を戻してやり直すってことになるのかな?
でも自分の思うようにならないんだよな〜。それに『浮かれモード』も絶対じゃないみたいだし・・


もしかして美貴って、全然スタンドを使いこなせてないんじゃないのか?)


32 :六部198:2006/06/06(火) 08:58:57.10 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜56

・・・・・・・

「・・・それじゃあ、美貴はこれで」
用件はもう済んだので、ここにいる理由はない。
それに、寺田と長い間二人っきりにはなりたくなかった。
吉澤を退出させたのは、話をややこしくしたくないからである。

藤本がノブに手を掛けて扉を開けようとしたとき、寺田が呼び止める。
「藤本ぉ・・・」
「はい?」
「その力・・・しっかり磨いときな・・・」
「???・・・どういうことっすか?」
よく理解できない藤本は、振り返ってその意味をを尋ねた。
「自分の意思で、しっかりコントロールできるように・・・ってことや」
寺田はそう言って、指をパチンと鳴らした。


33 :六部198:2006/06/06(火) 08:59:37.24 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜57

部室を出ると、扉の横で腕を組みながら待機していた吉澤と目が合った。
「話しは終わったか?」
藤本は扉を閉め、吉澤に向き直った。
「よっちゃんさんはさ・・・」
「ん?」
「よっちゃんさんは、自分のスタンドを使いこなしてると思う?」
そう言われた吉澤は、少し考え込むように視線を宙に泳がせる。
「さあ・・・どうだろうな。まあ、付き合いも長いから、それなりに使いこなしてるとは思うが」
「・・・だよね・・・」
藤本は一言呟き、部室を後にした。
「・・・?・・・なんなんだ?」
吉澤は不思議そうな顔でそれを見送り、首をひねった。

(・・・美貴は全然使いこなせてない・・・『浮かれモード』には、他に条件があるのか?
亀のときや、エネスコのときと何が違っていたんだ?)
藤本は部室を出た後、昔、エネスコという吸血鬼の館に
乗り込んだときの状況を思い返しながら考えていた。
(必死さ?やる気?)
しかし、すぐに頭を振りそれを否定する。
(んなワケねー!少なくとも気持ちは一緒だった!)

(・・・BT03・・・自分のことなのに、謎が多すぎるぜ・・・)

なんとなく重い気分になり、藤本は昼食を摂る気にもなれず、
そのまま自分の教室に戻っていった。


34 :六部198:2006/06/06(火) 08:59:55.43 0
銀色の永遠 〜(S)aint〜58

藤本美貴 BT03について悩む
スタンド名 ブギートレイン03

加護亜依 指令は降りずに、普通に昼食
スタンド名 サイ・キス

辻希美 同上
スタンド名 NONSTOP

財前五郎 後日、田中れいなによって消滅させられる。
スタンド名 アンダー・ザ・ブリッジ


TO BE CONTINUED…

名所案内・・・杜王町の廃病院

20年以上前、医師達によって狂気の人体実験が繰り返された病院だ。
廃院となった今でも取り壊されずに残っており、その不気味な姿を見ることができる。
医師達は逮捕されたが、実はその内の一人が捜査の手を逃れ、
夜な夜なここで実験を繰り返しているらしい。
我々が調査に行ったときは、残念ながらそれに遭遇することは出来なかったが、
噂の舞台になった手術室には、何故か今でも血のにおいが漂っていた。
もしかすると、本当に今でも実験は行われているのかもしれない。
・・・「噂の奇妙な冒険」誌<春の増刊号>より抜粋。