375 :六部198:2006/05/15(月) 14:05:48.71 0
銀色の永遠 〜デュオU&U〜1

放課後の演劇部。
3月に入って卒業公演も間近に迫った部員達は、
それぞれ自分に課したレッスンに励んでいた。

ただ一人を除いて・・・

「んでさ〜、その後、楽器コーナーのところを
ちらっと見たらさ、あのエリック・プラトンがいたんだぜ!」
藤本美貴は椅子の上で膝を組みながら、向かいに座っている・・・
というか座らされている亀井絵里に、大げさな動きを交えて話しかけている。
「・・・誰ですか?それ?」
興奮気味の藤本とは対照的に、亀井はいかにも興味無さげにそれに応える。
無理も無い。彼女がダンスの練習をしているところに、
突然藤本が入ってきて中断させられたからだ。
かれこれもう、10分以上会話につき合わされている。

そんな彼女の気持ちなど知らない藤本は、『エリック・プラトン』なる人物の説明をしだした。
「オメー知らねーのかよ?!チョー有名なアーティストじゃねーかよ!
『フィアーズ・イン・ヘブン』とか名曲だぞ!」
「さあ?エリックといえばお父さんの名前しか思い浮かばないですね」
早く練習に戻りたい亀井は、そっけない態度で
会話を打ち切り、椅子から立ち上がった。

「お、おい、ちょっと!亀・・・ん?」
話相手がいなくなってしまうことを恐れた藤本は、あわてて
亀井の袖を掴もうとしたとき、ふと頭の中に疑問が湧いてきた。


376 :六部198:2006/05/15(月) 14:07:41.51 0
銀色の永遠 〜デュオU&U〜2

亀井の父、エリック亀造といえば、昨年藤本の家に押しかけてきて
怪しげな商品をスタンドを使って売りつけようとして、藤本とバトルした結果、
杜王町を去ることになってしまった人物である。
「そういえば、今はどうしてるのか?」という疑問もあるが、
今はそれよりももっと聞きたいことがあるのだ。

「ちょっと待った。『エリック』って本名なのか?」
「そうですよ。『亀井・エリック・亀造』です」
「マジデカ?!なんつーの?こう、芸名とかそういうのじゃなくて?」
「はい、ミドルネームがエリックなんです」
「え?じゃあ、なに?お前のお父さんハーフとかなの?」
藤本は父親とそっくりの彼女の顔を、興味深げにまじまじと見つめた。
「いえ、違いますよ。純日本人です。ちょ、顔近いですよ!」
亀井はうっとおしげに顔をしかめて藤本を手で制した。
「・・・・・・・・・・」
一瞬の間を置き、藤本は不機嫌そうに亀井を睨んだ。
「・・・はあ?じゃあ何でエリックなんて名前なんだよ?」
「そんなこと言われたって知りませんよ!」
なんとも自分勝手な藤本の言い分に、亀井もムッと来たのか、
少し強い口調で言い返した。
「何それ?!意味わかんないんですけど!」
しかし藤本は、そう言い放ってその場から立ち去ってしまった。

「いや、僕にキレられても・・・」
あまりにも自分勝手な藤本に半ば呆れながらも、
亀井はやっと開放されたことにほっと胸をなでおろした。
「さて、気を取り直して練習練習っと♪」
そう言って鏡の前に行き、現在練習中のバレエダンスのステップをとり始めた。


377 :六部198:2006/05/15(月) 14:09:07.61 0
銀色の永遠 〜デュオU&U〜3

亀井の元を離れた藤本は、部室内をウロウロしながら他の部員の練習風景を眺めていた。
(うーんどうしよ・・・暇だ・・・やることねーな・・・)
・・・暇とは言っているものの今は部活中。発声やらダンスやら、やることはあるのだが・・・
そこは我らがミキティ、素直に部活動に励む人ではないのだった・・・

(そうだ!亜弥ちゃんにでも会いにいくか)
そう思って藤本はドアを開け、携帯電話を取り出した。
(そういや亜弥ちゃん、彼氏とは仲良くやってるのかな?)
藤本は俯いて少し考える。
(つーかデート中だったりしたらどうしよう。そうなると、ますますやることがなくなっちまう・・・)

「ミキティ・・・」

(もしかして美貴って、実は孤独?)

「おい!ミキティ!!」

その声とともに、突然肩を掴まれた藤本は我に返って正面を見た。
「あ・・・」
いつの間にか目の前に部長の吉澤ひとみがおり、不審そうにこちらを見ている。
「『あ・・・』じゃなくて。何やってんだよ、そんなとこで。またサボろうとしてんのか?」
「え?ははは・・・まさか〜!ちょっと教室に忘れ物を取りに行こうとしてただけっすよ〜!」
図星を突かれ、藤本は慌てて苦しい言い訳をした。
「・・・まあいい、それはちょっと後にしてくれないか。ほら、通して」
そう言って吉澤は、藤本を横に押しのけて部室内に入っる。
「あ・・・ちょっと・・・あれ?」
そこにいるのは吉澤だけではなかった。
見慣れない人物が二人、彼の後に続いて入ってきたのであった。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・・


386 :六部198:2006/05/15(月) 21:13:40.90 0
銀色の永遠 〜デュオU&U〜4

(・・・誰だ?・・・)
季節はずれの新入部生の子だろうか・・・?
藤本がそう思っていると、一人目、軽くウェーブした髪をアップに束ねている小柄な少女と目が合った。
「・・・」
しかし、あまり友好的ではない表情で藤本を一瞥すると、黙って吉澤の後を追った。
すこし馬鹿にしたような表情だったような気もする。
(何アイツ?!)
「ちょっと・・・」
その態度に藤本はイラっときて、抗議するべく彼女を呼び止めようとする。
だが、続いて入ってきたもう一人の少女が「すいませんね」
と、すかさず藤本に詫びを入れた。

一人目同様、小柄な少女だ。
すこし色黒で、前髪がばっちりキマッている。
藤本と目が合うと、テヘテヘと笑いながら頭を下げる。
「あ、いや、別に・・・」
彼女に合わせるかのように、藤本も同様に頭を下げた。
こころなしか、イライラが収まったようだ。

「のん!」
『ウェーブの少女』が、「のん」と呼ばれた『前髪バッチリの少女』に声を掛ける。
すると二人目の少女は、藤本にもう一度頭を下げてその後を追って
吉澤と共に黒板前の壇上に集まった。


387 :六部198:2006/05/15(月) 21:15:59.03 0
銀色の永遠 〜デュオU&U〜5

パン!!パン!!

「みんな、ちょっといいか?!」
吉澤が手を叩き、練習を中断するように促した。

吉澤の言葉に、彼女等の視線が吉澤達3人に集まり、
数秒の後に部室内がざわつき始める。
そのざわめきには2種類のものが入り混じっていた。

一つは勿論、見知らぬ二人への不審感と好奇心。
もう一つは、懐かしい友人に会ったときのようなもの。
後者の反応を示したのは、石川や新垣などの比較的古い部員であった。

「あー、知ってるやつもいると思うが、二人とも今日、めでたく復学、及び部に復帰することになった。」
ざわつく部員達を抑え、吉澤は二人の肩に手を置いた。
「あのー、復学とか復帰ってどういうことですか?新入生とかじゃないんすか?」
おそらく今、部にいる大半の者が思っているであろうことを藤本が代弁した。
「ああ、二人とも前からの部員だったんだが、それぞれ事情により
学校に来られなくなっていたんだ。部に関してはミキティ、お前より先輩だぞ」
「ある事情ってなんですか?」
続けて田中が手を挙げ、説明を求める。
「それについては俺から話すのもなんだから、後で二人に聞いてくれ」
そう言って吉澤は、まず右手にいる『ウェーブの少女』を前に勧めた。


388 :六部198:2006/05/15(月) 21:16:56.58 0
銀色の永遠 〜デュオU&U〜6

『ウェーブの少女』は壇上から一歩前に出て一礼すると、
部員達を見渡しながら簡単な自己紹介を始めた。
「えー、高等部1年の加護亜依です。
みんなからは『あいぼん』って呼ばれてます。新入生の気分で頑張ります♪」
そう言って加護は、首を少し傾げながら手を振った。
「あいぼん、ええでー!」
その日珍しく部に出席していた岡田唯が、すかさず合いの手を入れた。
それに対して、加護が彼女にピースサインを送る。
前からの知り合いだったのだろうか・・・。

その軽い調子に、少し緊張していた部員達に笑顔が見えだし、空気が和む。
(なにあれ?さっきの態度と随分違うじゃん)
藤本は出入り口の側で腕組みをしながら、
つい今しがたのできごとを思い返して顔をしかめた。


389 :六部198:2006/05/15(月) 21:20:25.35 0
銀色の永遠 〜デュオU&U〜7

続いて『前髪バッチリの少女』が、一歩前に出て一礼した。
「同じく1年の辻希美れす。よろしくお願いします」
加護とは逆に、簡単な自己紹介にとどまった。
舌っ足らずなのか、「で」が「れ」になってしまっている。
部員達に「よろしく」と声を掛けられると、照れたように笑ってもう一度礼をした。

自己紹介が終わると、吉澤は二人の背中に手を添えながら部員達を見回す。
「まあ、今日は全員揃ってないし、正式な復帰は
4月になってからだと思うが、とりあえずこんな感じだ。
じゃあ、俺はちょっと用事があるんで、後は自由にしてくれ。
ちなみに今日はもう戻らないから、最後の奴は戸締りよろしくな」
そう言って軽く右手を挙げ、部室を後にした。

藤本は横を通り過ぎる吉澤を見送ると、部室内を見渡した。
加護と辻の周りに人だかリができ、なにやら楽しそうに会話をしている。
タイミングを逃したのか、なんとなくその輪に入れなくなり、
その様子を見ているしか出来なくなってしまった。

「はあ・・・どっかいこ・・・」
藤本は頭の後ろで手を組みながら、だるそうに部室を出た。

・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・



390 :六部198:2006/05/15(月) 21:20:55.86 0
銀色の永遠 〜デュオU&U〜8

「ちょっと!」
夕方になり、生徒の姿もまばらになってきた廊下を
一人歩いている藤本を、誰かが後ろから呼び止めた。
「・・・?」
振り返ると、辻がこちらに向かって走ってきていた。
藤本の下にたどり着いた辻は、荒い息を吐きながら膝に手をついた。
「えっと・・・辻ちゃんだっけ?どうしたの?何か用?」
「はあ、はあ・・・え〜と・・・?」
「・・・ああ、私、美貴。藤本美貴」
辻の疑問を察した藤本が、自分の名前を明かす。
「藤本さん・・・」
辻は息を整えると、一度唾を飲み込んでから藤本が出て行ったわけを訪ねた。
「そっちこそどうしたんれすか?急に出て行っちゃうし」
「いや、別に・・・なんとなく・・・ね」
藤本がぎこちなく答えると、辻は申し訳なさそうに藤本の顔を覗き込んだ。
「やっぱ、さっきのあいぼんのこと怒ってるんれすか?」
「えッ?ああ、加護ちゃんのこと?いや、それはもう気にしてないよ」
確かにあれはムッときたが、実際、特に気にもしていないのは事実である。
部室を出た理由もあったわけでもないのだが、急に居づらくなってしまったのだ。

「ああ、よかった」
藤本の答えを聞いた辻は、ほっとしたのか胸をなでおろした。
「ん?まさかそれだけのために美貴を追ってきたの?」
「気を悪くさせちゃったんだったら、のんのほうから謝っておこうかなって」
「そっか〜、ん〜・・・だったら・・・お詫びとして〜」
藤本は顎に指を当てながら少し考える。


391 :六部198:2006/05/15(月) 21:21:12.56 0
銀色の永遠 〜デュオU&U〜9

妙案が思いついたのか藤本はニヤっと笑った。
その様子を、辻は少し不安げに見つめている。
「あ、でも・・・のん、お金とかは・・・」
言いかけた辻を遮り、藤本は彼女の肩に手を回して自分のほうに引き寄せた。
「お詫びとして、ちょっと美貴に付き合ってよ」
「あ、それならお安い御用なのれす!」
辻は笑顔でその提案を受けた。
「オッケー!じゃあ、ドゥ・マゴにでも行こうぜ!」


「つーかさっき何て言いかけたんだ?」

「・・・別に・・・」

「・・・まあ、なんとなくわかったけどさ・・・」

「・・・」

・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・



392 :六部198:2006/05/15(月) 21:21:52.25 0
銀色の永遠 〜デュオU&U〜10

『カフェ・ドゥ・マゴ』に着いた二人は、外に置いてあるテーブルに座って一息吐いた。
夕方を過ぎてはいたが、店内は部活や仕事帰りの客で賑わっていた。
藤本はウェイターを呼び、オレンジジュースを注文した。
一方辻は、モンブランケーキを注文した。
彼女によると、ここのモンブランケーキは情報誌『Sウォーカー』にも紹介されたほどであるらしい。

注文したものが運ばれてくると、藤本はオレンジジュースを一口飲んで話を切り出した。
「辻ちゃんって、前からここに住んでたの?」
「いえ、中学の時にN県から引っ越してきたのれす。そういう藤本さんは?」
「・・・ミキティでいいよ。みんなそう呼んでるし」
「ん〜、でも先輩だし」
「いいよ〜、そんなん気にしないで」
遠慮する辻に、藤本は気さくに笑いかける。
「ん〜・・・じゃあ、ミキティで」
「ん・・・それでいい」
藤本は満足げに頷いた。

「それでミキティはどうなのれすか?ずっと杜王町に?」
「美貴?美貴も引っ越してきたんだよ。中学に入ったときに、ここに引っ越してきたんだ。
元々は北海道出身だし。」
「へ〜、北海道か〜。北海道のどこなんれすか?」
「えッ・・・?」
辻の何気ない質問に、藤本の表情が固まる。
「ど、どこって?」
「北海道っていっても、いろいろあるじゃないれすか」
「あ・・・まあ、あの・・・ま、真ん中らへんかな・・・」
「・・・よくわかんねーのれす・・・」
辻は眉間にしわをよせ、首をかしげる。
その頭上には、たくさんの『?』が浮かんでいるように見えた。

435 :六部198:2006/05/16(火) 21:12:46.97 0
銀色の永遠 〜デュオU&U〜11

「ま、まあ、いいじゃん、美貴の話はさ!それより、N県出身なの?」
難しそうな顔をしている辻をよそに、藤本は話を続けた。
何故か慌てているようにも見えるが、おそらく気のせいであろう。
「いや、本当は都内出身なのれす。中学に入ったときにN県にいって、そのあとこっちに引っ越して

きたのれす。
N県出身なのは『あいぼん』のほうなのれす」
「あい・・・ぼん?・・・ああ、加護ちゃん・・・だっけ?そういや、ちょっとそっちのなまりがあ

った気がするな」
そう言って藤本は、先程の加護の口調を思い出した。
「あの子とは、知り合いなの?」
「あいぼんとはN県の時からの親友なのれす。転入してたばっかりで不安だったのんに、
一番優しくしてくれたのがあいぼんだったのれす」
「ん?N県のときからって、一緒に引っ越してきたってこと?」
「いや、のんがちょうど演劇部に入ったすぐ後に、あいぼんも『偶然』こっちに来たのれす」
「偶然・・・ねぇ・・・」
そう呟いた後、藤本は腕を組み話を続ける。
「二人ともスタンド使いなんだよね?やっぱ寺田先生に?」
辻は頷き、それを肯定しながらも、こう付け加えた。
「のんはそうれすけど、あいぼんは元からだったみたいなのれす。
昔、『自分には不思議な力』があるって言ってたけど、
今思い返すとスタンドのことを言ってたんだと思うのれす」

(・・・なるほどね。『スタンド使いは互いに引かれあう』ってことか)
藤本は二人の奇妙な運命を想い、遠くを見つめた。
そしてまた自分も、その奇妙な運命の中に組み込まれていることに気づく。


436 :六部198:2006/05/16(火) 21:13:38.28 0
銀色の永遠 〜デュオU&U〜12

少し喋り疲れたのか、藤本はいったん話を止めて
オレンジジュースを一口飲んだ。
それに合わせるかのように、辻もまだ手をつけていないモンブランをほおばった。
そんな辻を見ながら、藤本は先程部室で吉澤が言っていたことをふと思い出した。
「そういえば、よっちゃんさんが言ってたけど、『復帰』ってどういうこと?」
「ふぉえ?ふぁあ、ふぉれふぁ・・・」
口いっぱいに詰め込みすぎたため、辻は言葉にならない声を出す。
「あ・・・食べてかからでいいよ」
藤本の口元から、思わず笑みがこぼれた。

口の中のものを一通り飲み込んだ辻は、改めて訳を話した。
「のんも、あいぼんも、ずっと学校を休んでたんれす」
「ずっと?いつから」
「んっと〜、去年の5月くらいから」
「のんはちょっと指令の関係で大怪我しちゃって、ずっと入院してたのれす。
おかげで、もう一回1年生をやり直すハメになったのれす」
そう言って辻は、恥ずかしそうに頭をかいた。
「はは、梨華ちゃんと一緒だなそりゃ」
悪いとは思いつつも、藤本は笑ってしまう。
「梨華ちゃんも、やり直しなのれすか?」
「ああ、大怪我しちまってな。まあ、二次審査の時に美貴がやっちゃったんだけど」
「あの梨華ちゃんを・・・オーノーなのれす・・・」
辻は驚きを隠さず、藤本をマジマジと見つめた。
「そんで、加護ちゃんは?」
続けて加護のことを聞くと、辻は表情を落とした。
「・・・辻ちゃん?」
藤本は怪訝そうに、その顔を覗き込む。
「のんの『せい』なのれす・・・」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・


437 :六部198:2006/05/16(火) 21:14:23.13 0
銀色の永遠 〜デュオU&U〜13

さっきまでの明るい表情とはうって変わって暗いものになってしまった辻に、
藤本は何故だか自分が悪いことをしてしまった気分になってしまう。
だが、俄然興味が湧いてきて、訳を訊いた。
「どういうこと?」
「・・・」
辻は数秒の間を置いたあと、意を決したように事の詳細を語りだした。

話を要約すると、こんな話だ。
辻は寺田の指令で、あるスタンド使いの調査を依頼されていた。
正確にいうと、指令を受けたのは現在行方不明中の石村舞波で、
辻はそのサポートという形であった。
調査事態は成功したものの、その途中で相手に見つかてしまう。
その人物は凶暴な性格だったらしく、戦闘状態に陥ってしまったのである。

二人とも戦闘は苦手な性質のためか、状況は悪くなるばかりであった。
そんな中、辻は石村を逃がすべく自らを囮役を買って出たのだ。
その甲斐あってか、石村は無事に逃げ延びることが出来たが、
辻は敵の攻撃を喰らってしまい、そのまま入院。
戦闘型のスタンドを持たない二人を組ませた、寺田らしからぬ采配ミスだ。

(・・・舞波ちゃんか・・・)
藤本は顔も知らぬ、石村の姿を想像する。
そして、彼女が死んだかもしれないということを辻に告げるべきか迷ったが、
結局それを口にはしなかった。


438 :六部198:2006/05/16(火) 21:15:31.77 0
銀色の永遠 〜デュオU&U〜14

「辻ちゃんのスタンドって、どんなやつなの?」
藤本が素朴な疑問を投げかけた。
しかし辻は、首を横に振る。
「それは言えねーのれす。たとえ仲間内でも、簡単に能力を明かすことは出来ねーのれす」
「悪い、そりゃそーだわな」
そう言って藤本は、素直に頭を下げた。
そして気を取り直し、たたずまいを改めて重要な部分を訊いた。
「そんで、それと加護ちゃんはどう関係があんのさ」
「・・・のんのことを聞いたあいぼんがキレて、その人をぶちのめしてしまったのれす。
しかも街なかでやっちゃったから、巻き添えを喰らった人も大勢いて、とうとう通報されてしまったのれす」
「警察に捕まったのか?」
藤本が言うと、辻は黙って頷いた。
「1ヶ月くらいで出てこれたんれすけど、
そのあと学校のほうから無期停学を喰らってしまったみたいで・・・」
「ちょっと待った!普通、そんなことがあったら停学っつーか退学になるんじゃねーのか?」
藤本の言うことはもっともだ。
そんな騒動を起こせば退学処分は免れない。
「のんもよく分からないけど、なんか寺田先生が上手く言ってくれたみたいで・・・」
辻も少し困惑気味な顔をする。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・・・・

(・・・どういうことだ?ただの教師にそんな影響力が?
部の活動もだけど、一番オカシイのは寺田自身だ・・・)
藤本は、改めて『寺田光男』という人物に不信感を膨らませた。


439 :六部198:2006/05/16(火) 21:15:48.13 0
銀色の永遠 〜デュオU&U〜15

「まあ、そんなことがあって、あいぼんは昨日停学が解けて
のんも退院したので、晴れて部に復帰したわけなのれす」
「なるほどね〜」
「思えば、昔からあいぼんには世話になってばかりなのれす。
こっちに来てからも人見知りでみんなに馴染めなかったのんのことを、ずっと気にかけててくれたし
指令でヘマしたときや、レッスン中によっちゃんに怒られたときも、いつも庇ってくれてたのれす」
「ふーん。そんなふうには見えなかったけどな〜」
「誤解されやすいタイプなのれす。本当はすげーいい子なのれす」
「まあ、辻ちゃんがそこまで言うなら、そうなのかな」
藤本はそう言って話しを打ち切り、別の話題を探すことにした。

その後は、とりとめのない世間話などになっていった。
元々藤本が話好きと言うのもあるが、辻のノリもよく、二人は時間を忘れて話し込んだ・・・。
辻の話には頻繁に加護が登場する。聞いてみると二人は殆どを共に行動しているようだ。
加護のことを随分と慕っているようで、彼女はそのことを嬉しそうに話す。

そうこうしているうちに時間は過ぎ、藤本は何気なく腕時計に目をやった。
時計の針は既に8時を回ろうとしている。
「あ、もうこんな時間じゃん」
藤本がそう言うと、辻も自分の腕時計を見る。
「本当れすね。じゃあ、そろそろ帰りますか」
「そうだな・・・」

二人は会計を済ませ、そのままそれぞれの自宅へと戻って行った。


そして、いつものように夜は更けていく・・・

・・・そう、いつものように・・・


44 :六部198:2006/05/18(木) 18:31:50.07 0
銀色の永遠 〜デュオU&U〜16

ドッギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!

女は声一つ上げずに・・・
いや、『声一つ上げることすら出来ずに』冷たいベッドの上で絶命した。
胸には、まるでそこだけ綺麗にくり貫いたような大きな穴が開いている。
その傍らには、手術で使うようなマスクとゴム手袋をつけた一人の男が立っている。
手には、女性のモノと思しき立方体の肉片が乗っていた。

男はそれを一通り観察すると、なんと口の中にゆっくりと入れた。
そして満足気な表情で、女性に手を触れる。
すると、その身体に次々と切れ目のようなものが入っていく。
まるで『ハニートースト』のようになってしまった女性の欠片を、
再び観察しながらメモのようなものを取っている。

なんというおぞましい光景だろうか!
悪魔のごとき所業!
いや、違う・・・『悪魔ではない』のだ・・・彼は・・・

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・・・・


45 :六部198:2006/05/18(木) 18:32:27.68 0
銀色の永遠 〜デュオU&U〜17

昼休みッ!
それは休憩と呼ぶには、あまりにも過酷ッ!
学食や近所のコンビニでは、毎日のように熾烈な『戦<いくさ>』が繰り広げられているッ!
知略走り、策を巡らせて相手を出し抜くことこそが勝利への道なのだッ!!
それはここ、『サンジェルマン』も例外ではないッ!!

藤本は、人気商品の『テリヤキチキンサンド』を手に入れるために、
昼休みのチャイムと同時にサンジェルマンへと走った。

・・・だがしかし、既に大勢の人が長蛇の列を作っており、
割り込む隙も無い・・・。状況はかなり不利であった。
(・・・一週間ぶりのテリヤキチキン・・・この位置、ギリギリだな・・・)
藤本は自分の前に並んでいる生徒達を指で数えながら、心の中で呟いた。
冷汗が、いつの間にか頬まで伝ってきていた・・・。


46 :六部198:2006/05/18(木) 18:34:20.98 0
銀色の永遠 〜デュオU&U〜18

そんな中、誰かがこちらに走ってくる気配を感じた。。
「ミキティー!ごめん、遅くなっちゃった!」
その聞きなれない声と、やけに親しげな口調に藤本が振り返る。
「お、お前は・・・加護・・・亜依・・・」
「ちょっとすいません・・・よいしょっと」
そう言いながら、加護は藤本の前に割り込んだ。

「お、おい!ちょっと!」
周りの視線を気にしながら、藤本は迷惑そうに加護を押しのけようとする。
だが、加護はそれを意に介さず、笑顔で他の人達に聞こえるように藤本に話しかける。
「ごめんねー、トイレ混んでてさ。場所取りありがとね♪」
「はあ?なんで美貴がおめーの場・・・うげッ!」
言いかける藤本に加護は、すかさずその横腹に肘テツを入れた。
そして、藤本の耳元で囁く。

「ヒソヒソ・・・まあええやんか、そういうことにしたってえな・・・同じ演劇部の『よしみ』やろ・・・」
「・・・ふざけんな!しかも何で美貴の前に並ぶんだよ!・・・」
「・・・気にせんといてーな」
「・・・『気にせんといてーな』って・・・ここは美貴がテリヤキチキンをゲットできるか
出来ないかの瀬戸際なんだよ・・・つーか、おめーは何頼むつもりなんだよ?!」
藤本は焦っていた・・・加護が列に割り込むこと自体は特に気にしないが、
加護がもしテリヤキチキンを注文するつもりならば、
『おあずけ』を喰らう可能性が一気に高くなるからだッ!


47 :六部198:2006/05/18(木) 18:35:27.97 0
銀色の永遠 〜デュオU&U〜19

焦る藤本とは対照的に、加護は、こう耳打ちする。
「ヒソヒソ・・・大丈夫や。前に並んでる奴らの殆どは、テリヤキチキンを頼まん・・・」
「・・・なんでそんなことがわかるんだよ」
加護の言葉に、藤本が反応する。
「・・・前に並んでる奴らの顔見た?」
「・・・いや・・・」
「・・・ここに来るときに、前に並んでる奴らの顔を見てんねん・・・どう見てもひょろ臭い文科系って顔や・・・」
「・・・???・・・それとこれと、どういう関係があるんだよ?もったいぶらずに言えよ!」
要領を得ない藤本は、不機嫌そうに説明を求める。
「・・・物分り悪いな。つまり、体育会系とは違うて肉を欲してないっちゅうことや・・・
仮に欲していても、それは多分少人数!」


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・・・・・・・・・・


「・・・と、いうことは・・・」
藤本の顔が明るくなっていく。
「そう!一つといわずに、二つ三つ!余裕でゲットやがなぁッ!!」
とどめと言わんばかりに、加護がガッツポーズのように拳を作って声を張り上げた。
「おおぉッ!!!」
藤本も同じようにガッツポーズをし、加護の腕に絡ませた。
その瞬間、二人を覆っていた険悪な雰囲気が一気に瓦解したのだった!!

バアアアァァアアァアアアァァァンンンンンンンンンンン!!!!!


48 :六部198:2006/05/18(木) 18:36:48.83 0
銀色の永遠 〜デュオU&U〜20

・・・しかし・・・
注文を済ませた客達の手に握られている袋からは、
ことごとく『テリヤキチキンサンド』の芳しい香が漂っている。
そう!二人の前に並ぶ者たちの殆どが、テリヤキチキンサンドを注文しているのだ!

藤本の顔に再び焦りの色が見え始める。
それを察した加護は、後ろを振り返り藤本の肩に手を置き、静かに頷く。
「大丈夫」と無言で語っているのだろう。

そして、順番が加護に回ってきた。
「すいません。テリヤキチキン一つ下さい」
そう言って加護は、人差し指を立てた。
その表情は硬い。
ここで「申し訳ありません」と言われたら、全てが終わるからだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「かしこまりました。少々お待ちください」

その言葉に、加護はホッと胸をなでおろし、藤本に笑みを見せる。
『勝利』・・・それを確信した藤本も、それに笑顔で返した。
そしてテリヤキチキンを受け取った加護が列の横に身体をずらすと、いよいよ藤本の出番だ。
「いらっしゃいませ、ご注文を承ります」
「・・・テ、テリヤキチキンサンド・・・一つ」
藤本はこみ上げる感情を押さえながら、待ちに待った瞬間に臨んだ。


49 :六部198:2006/05/18(木) 18:40:28.75 0
銀色の永遠 〜デュオU&U〜21

「申し訳ございません。テリヤキチキンサンドは売り切れになりました」
店員はそう言って、藤本に向かって頭を下げた。
「・・・え?」
藤本は聞き返す。
しかし、返答は変わらない。
店員は機械のように頭を下げ、同じ言葉を繰り返すだけである。
「代わりに『ハムチーズデラックスサンドX』などいかがでしょうか」
店員のその声は、崩れ落ちるように注文カウンターに前のめりになる藤本には届かない。
「あの、それでお願いします」
見るに見かねた加護が、藤本の代わり答えた。

・・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・



50 :六部198:2006/05/18(木) 18:42:23.03 0
銀色の永遠 〜デュオU&U〜22

サンジェルマンから少し離れた閑静な広場。
木々が鬱蒼と生い茂り、陽当たりはあまり良くない。
そのためか、いつもひと気が無い。
加護は藤本を近くのベンチに座らせ、自分も隣に座った。
サンジェルマンからずっと魂の抜け殻のようになった藤本を、
加護が抱えるようにここまで連れてきたのだ。

「ふう・・・まあ、しゃあないやん。運が悪かったんや。元気出しぃ」
そう言って加護は藤本の背中をポンポンと軽く二度叩いた。
しかし返事はなく、藤本はただ顔に手をやり俯いたままだ。
「・・・ほな、ウチは待ち合わせがあるんで」
加護はベンチから立ち上がり、学校の方へ足を向けた。

「・・・ちょっと待てよ・・・」
俯き座ったままの藤本が加護の袖を掴む。
「あ?なんや?」
「思えばおめーが美貴の前に割り込んだのがいけねーんじゃねーか!
しかも何だ?!前に並んでる奴らの殆どは文科系の顔だから、
テリヤキチキンを頼まないだあ?!殆ど全員頼んでたじゃねーか!!」
藤本は激しく抗議するが、加護はそれを鼻で笑う。
「おいおい、何をいまさら言うとんねん!そんなんデマカセに決まっとるやろうが!!」
「なッ・・・なんだとッ!騙したのかぁッ?!」
「プッwククク・・・今頃気づいたんか?ハハハハハハハ!!!!」
呆然とする藤本を見て、加護は抑えていた笑いを堪えきれずに吹き出した。
・・・そう、全ては加護の策略であったのだ。
「まさかここまでアホやったとはな!ハハハハハハハ!!!!」
加護の乾いた笑い声が中庭に響いた。


51 :六部198:2006/05/18(木) 18:42:59.91 0
銀色の永遠 〜デュオU&U〜23

「・・・てめぇ・・・」

バシュウゥゥゥッッッッッ!!!!!!

藤本の前にBT03が現れる。
それを見た加護の眉が、一瞬ピクリと動く。
だが、表情には余裕が窺える。

「美貴に何の恨みがあるっつーんだ?返答によっちゃあ、痛い目をみてもらうぜ」
藤本のこめかみの血管がピクピクを動いている。
ほんの少しのキッカケで爆発しそうだ。
しかし加護は、その表情を崩さない。
「恨み?そんなんあるわけないやろ?だたスカッとするから・・・」

バギィッッッ!!!!

加護が言い終える前に、BT03の拳がその顔面を捉える!
「ぐはぁッ!!」

「そうかい!なら遠慮はしねーぜ!この場でてめーをぶっ飛ばす!!!!!」
そう言って藤本は、一気に加護に向かって飛び掛った。

ギャーーーースッッッッ!!!!!!


117 :六部198:2006/05/20(土) 02:30:52.97 0
銀色の永遠 〜デュオU&U〜24

ドドドドドドドドドドドドド・・・・!!!!

「くッ・・・『サイ・キス(恋のバカンス)』!!」
加護は体制を立て直して、己のスタンド『サイ・キス』を出した。
フリルの付いた衣装を身に着けたスタンドだが、
無表情な白い仮面をつけており、その眼からはまるで血の涙を流したような跡がある。
本人の可愛らしい外見とは似つかわしくない、禍々しいスタンドであった。

「絵梨香や唯やんから色々と聞いとるで、藤本美貴・・・どれほどのもんか試したる・・・」
加護は舌なめずりして、サイ・キスを構える。
(絵梨香?唯やん?三好と岡田のことか・・・?まあいい、そんなことよりも
今はコイツをぶちのめすことに集中するッ!)
頭の中に湧く疑問を振り切り、藤本はそのまま拳を振り上げた。

「加護おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉおおぉお!!!!!!!!!!」

メメタアァッ!!!

「ぶべぇぁッ・・・」
BT03の痛烈なボディブローに、加護が嗚咽を漏らす。
だが、加護は反撃をしようと、スタンドの右手を藤本に向けて前に進んだ。
しかし、その動きはスローだ!
「このウスノロがぁッ!もう一発喰らいやがれいイィィィッ!!」
サイ・キスの右手ごと加護を粉砕しようと、BT03の蹴りが飛ぶ!


118 :六部198:2006/05/20(土) 02:31:24.99 0
銀色の永遠 〜デュオU&U〜25

BT03の蹴りが、サイ・キスの右手に触れようとしたとき、
加護の目が一瞬光った気がした。

「はッ?!BT03!止まれ!!」
嫌な気配を察知した藤本は、スタンドと共に身体を横にずらした。
そのせいでサイ・キスの右手は、藤本の後方にあるベンチに触れる。

そして次の瞬間・・・

バキバキバキ・・・グシャアアァァァァ!!!!

ベンチが大きな音を立てて潰れていき、50センチほどの塊となったのだ!

「なッ?!」
藤本は思わず驚きの声をあげ、加護に向き直った。
「そうか、これがお前の・・・」
「YES I AM!!」
加護は腰に左手を当て、もう片方の手で指を立てて
口元で左右に振った。

バアアアアアアンンンンン!!!


119 :六部198:2006/05/20(土) 02:31:55.55 0
銀色の永遠 〜デュオU&U〜26

藤本はその破壊力とパワーに驚きながらも、すぐに余裕の表情を
取り戻してこう言った。
「確かに、そのパワーは認めるぜ。だが、動きがスローなんだよ!
簡単に避けられちゃあ、宝の持ち腐れだぜッ!」

藤本の言うことは尤もだ。
だが、加護はそれに対しニヤリと笑って答えた。
「避けられた?違うな・・・これでええ、これがBEST!!」
そう言って加護はサッと身をかわし、地面に伏せた。
まるで何かから身を守るかのようであった。
「サイ・キス!!『圧縮を解除』や!!」
サイ・キスが潰れたベンチに向かって構えると、ベンチが一気に膨らんでいった。
ベンチを構成していた木の破片やパイプ部分が、膨らんだ勢いで辺りに飛び散る!


解説しようッ!
加護のスタンド『サイ・キス』の能力は、一度触れたモノを圧縮・復元する能力!
しかし、圧縮の際に壊れたものは直らない!
加護はその特性を利用したのだ!
圧縮の強さ、及び復元する限界スピードは本体とスタンドの距離に依存するが、
現在の距離、約2メートルの状態での復元スピードの初速は、約100メートル/秒!
銃などには及ばないが、その威力は十分ッ!


120 :六部198:2006/05/20(土) 02:37:54.40 0
銀色の永遠 〜デュオU&U〜27

物凄い破片飛沫と爆発さながらのスピードッ!
ベンチの残骸が藤本に迫っていく!

「くそッ・・・BT03で弾こうにも、数が多すぎる!こうなったら・・・」

バァッッ!!

藤本は飛び上がり、飛びくる破片に向かって足を向けた。
「当たる面積を最小にして、防御ッ!」
勿論スタンドを自身に重ね合わせることも忘れない!
-実体の攻撃は基本的にスタンドには影響しない。『ベンチ爆弾』はあくまで本体への攻撃-

バシバシバシッ!!!

ドガガガガガッガガガガガ!!!

嵐が止み、藤本は地面に倒れこんだ。
スタンドに受けた分と靴底のおかげで足はほぼ無傷だったが、
上半身にいくつかの傷が見受けられた。
(いててて・・・前にこっそり、れいなに教わった防御法。
さすがに完全防御とはいかなかったが、おかげでダメージは大したことはないぞ!)
藤本は胸の当たりをさすると、身体を回転させながら
素早く立ち上がってスタンドを構え直した。

だが、加護の姿が見当たらない・・・

(・・・どこだ・・・?)
藤本がそう思ったとき、背後に気配を感じた。
そして、何かが背中に触れる。



121 :六部198:2006/05/20(土) 02:38:23.20 0
銀色の永遠 〜デュオU&U〜28

「ッ!!」
藤本はすぐさま振り向いたが、その瞬間、顔を強く殴られ
勢いよく後方へ吹っ飛んだ。

ズザアアァァァ・・・!

その犯人は言わずもがな、加護であった。
「DADDY!!」
加護はそう言って両手の人差し指と親指を立てると、それを藤本に向けて
拳銃を撃つような仕草をした。

「てめえ!!」
藤本は血が滲む口元を拭い、加護に向かっていった。
「おっとぉ・・・それ以上近づかんほうがええで」
加護の言葉に、藤本の動きが止まる。
「・・・?今更怖くなったのか?」
「ちゃうわ、何でウチがアンタを恐れんねん。
それに、アンタのためを思って言っとるんやで。
もうわかっとると思うが、サイ・キスは触れたモノを圧縮・復元することができる」
「・・・!」
藤本は思わず自分の背中に手を回してさすった。
そして、さっき触れられたのは加護のスタンドであったと悟った。

加護は藤本の足元を指差し、横に線を引く動作をした。
「そこから先は、ウチの射程距離内や・・・
そこよりこっちにきたら、ミキティ・・・アンタは負ける」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・


122 :六部198:2006/05/20(土) 02:40:30.54 0
銀色の永遠 〜デュオU&U〜29

「フン・・・余計な心配はいらねーよ・・・」
藤本はそう言ってスタンドを構えなおした。
「てめーの行動より速く、BT03を叩き込んでやるよ・・・
幸いてめーはウスノロだからな・・・」

「・・・フフ・・・」
その含み笑いに悪意を感じた藤本は、加護を睨みつけた。
「何がおかしい?」
「そう言うと思ったで。実を言うとな、ミキティ・・・」
加護は、自分を睨みつける藤本の視線を愉しむように眺め、
スタンドを構えた。

「ホンマはもう、射程距離に入っとんねん・・・」

「何ッ?!」

ギッ・・・ギギギギギギギギギギギギ・・・・!!!

サイ・キスの能力で全身を強く締め付けられるような感覚に陥り、
藤本は膝をついた。
「てめええええええ・・・・!!!」
藤本は怒りに燃えるが、あまりの締め付けに立ち上がることも出来なかった。
「ハハハハハ!!!マヌケやな〜!」
加護は勝ち誇ったように笑った。


167 :六部198:2006/05/21(日) 02:07:18.90 0
銀色の永遠 〜デュオU&U〜30

「さて、このままアンタをぶちのめしてもええんやけど、そのまえに・・・」
藤本の無様な姿を見ながら、加護は不意にスカートのポケットから
手のひら大の箱を取り出した。
そして、さらにその箱から白い筒状の物を出し、それを口に咥えた。
箱には『VIRGINIA SLIMS』と印刷されている。
所謂タバコというヤツだ。
「お前ッ・・・それッ?!」
「まあ、ちょっと一服させてーな」
加護はさらにジッポーライターを取り出し、「カチン」と
心地よい音を鳴らして蓋を開けて火を点けた。

(コイツ・・・高校生のクセに・・・だが、それよりも
この美貴をコケにした態度がムカつくぜ・・・)

「くそおおおぉぉぉぉぉ!!!」
藤本は雄たけびをあげると、気合で立ち上がった。
それに気づいた加護は驚きの表情を見せ、火を点ける手を止めた。
「その状態で立ち上がるとは・・・DADDYッ!なかなかやるやんか。せやけどォッ・・・!」
加護はタバコとジッポーをポケットにしまい、藤本に向かっていった。

そして、藤本の目の前に立ち、彼女を見下ろしたときであった。

「あいぼん!!」

加護の動きが止まり、その声の方に顔を向けた。
藤本も同様に顔を向ける。

「サンジェルマンにいるって聞いたんだが、ここにいたのか」
・・・そこに現れたのは、吉澤ひとみであった。


168 :六部198:2006/05/21(日) 02:09:28.34 0
銀色の永遠 〜デュオU&U〜31

「ん?ミキティ・・・」
吉澤は藤本にも気づく。
そして二人を見比べると、その表情が変わった。
「・・・お前ら何してたんだ?!」
吉澤が怒声を上げると、加護はすぐさまスタンドを引っ込めて
気まずそうにそっぽを向いた。

サイ・キスの能力が解除されたのを感じた藤本は、吉澤に駆け寄った。
「よっちゃんさん、聞いてくれよ!こいつが・・・」
藤本が抗議をしようとしたが、吉澤はそれを遮って加護にこう告げた。
「まあいい。あいぼん、突然だが今すぐに部室に行ってくれ」
「え、私?」
「ああ、そうだ。行くぞ」
「ちょ、ちょっと!美貴はどうなるんだよ!」
置いてけぼりになった藤本が、困惑気味に叫ぶ。
「その程度の傷なら大したことはないだろ。事情は後でゆっくり聞くよ」
吉澤は振り返りもせずに言うと、加護の肩を抱いて学校の方へと去っていった。


169 :六部198:2006/05/21(日) 02:09:51.83 0
銀色の永遠 〜デュオU&U〜32

「・・・なんだっつーんだよ!ちくしょー!!」
その場に取り残されてしまった藤本は地面に仰向けになり、
空に向かってやり場の無い怒りをぶつけた。
しかも去り際に加護が、こちらに向かって
舌を出して悪態をついたのが、さらにイライラを増幅させる。

澄み渡った青空がやけに眩しい・・・

「・・・ったく・・・どこが『本当はすげーいい子なのれす』だよ・・・」
藤本は独り、昨日辻が言っていたことに反論した。


藤本美貴 イライラする

加護亜依 吉澤と共に部室へ
スタンド名:サイ・キス(恋のバカンス)

to the next episode 『(S)aint』・・・


今月の一品・・・『ハムチーズデラックスサンドX』<¥480>

杜王町で人気のパン屋、サンジェルマンのランチタイム限定の自信作。
自家製のパンに、S市の自然の中で育った豚肉を使い生産された無添加のハムと、
イタリアから取り寄せたコクのあるモッツァレラチーズ、近くの農家で生産された
無農薬レタスをはさんだヘルシーなサンドウィッチです。
注文すると目の前で、ホタテベースのサンジェルマン特製ソースをキレイにかけてくれます。
尚、150円増しでドリンク一品と、コーンサラダが付いてくるので、非常にオトクッ!

・・・「Sちょこっとグルメ☆」誌より抜粋。