銀色の永遠 〜ナイトメア・ビフォア・クリスマス〜1

いつからだったかな・・・私は普通と違うって思うようになったのは・・・

私は小さい頃から不思議な力を持っていた。
『幽霊』・・・まるで分身のようにそれを操ることが出来た。
ソレによって遠くのものを動かしたり、気に入らなければ壊したりすることも出来た。
友達にそのことを言っても誰も信じてくれなかった・・・
どうやら他人には『ソレ』が見えないらしい。

ある日、私は友達の前で『幽霊』の力を見せてみた。
実際にその力を目の当たりにしたみんなはそれを面白がり、私をもてはやしてくれた。
でも・・・そのうち気味悪がられ、私に近づく人は次第に減っていった・・・
いつの間にか一人で遊ぶようになった私を見て両親は心配してくれたけど、
やっぱり私の『幽霊』が見えず何も信じてくれなかった。「そんなのは妄想だ」と・・・
そして実際に力を見せると、私は病院に連れていかれ何日も入院させられるハメになった。

結局、誰も何もわかってくれない・・・
学校が変わり、そこで新しく仲良くなった友人も『幽霊』のことを話すと信じてくれない。
力を見せると、みんな私から離れていく。
そんなんだったら最初からいらない!私は・・・独りで生きていく・・・

銀色の永遠 〜ナイトメア・ビフォア・クリスマス〜2

「行ってきまーす!」
12月24日。冬真っ只中の朝、斉藤美海(みうな)は元気よく声を出し、
白い息を吐きながら家を出た。
「あ〜あ、何でイヴの日に補習なのよ・・・感じ悪い!」
バス停に向かう途中、みうなは足元の霜柱を踏みつけながら独り言の様に悪態をついた。
そんな中、みうなはふと妙な気配を感じて立ち止まった。
「・・・」
振り返ってみたが、はるか後方に人が数人歩いているだけで特におかしなことはない。
(なんか最近誰かにずっと見られている気がしているんだよな〜。まさかストーカーだったり?)
嫌な予感がする。だが、すぐに首を横に振ってそれを否定した。
「まさか・・・ね」
不安を払拭するようにわざわざ声に出して言うと、再び足を進めた。

バス停に着き、バスを待つ間に何気なしにカバンの中を見ていると、何かが無いことに気付いた。
(あ〜、しまった!ノート忘れてる!)
みうなは心の中で舌打ちをして、慌てて駆け出した。
しかし、このままでは遅刻してしまう。
そこで、普段通らない大きな自然公園を突っ切っていくことにした。
ここを走って突っ切っていけば、大幅に時間を短縮できるのだ。
いつもは余裕をもって家を出ているので、少し回り道になるが大通りを歩いて登校しているのである。
昔はよくここで遊んだが、近年はすっかり寄り付かなくなっていた。

銀色の永遠 〜ナイトメア・ビフォア・クリスマス〜3

(あれ?ここってこんな感じだったっけな?)
公園の中頃まで行くと、何やら周りの景色に違和感を感じるようになった。
普段から人の通りはそれなりにあるはずなのだが、それがまったくない。
鳥の鳴き声すら聞こえなくなっていた。
(なんか・・・変な感じ・・・でもまあ、今は冬だしこんな日もあるのかな)
気にしだしたらキリが無い・・・みうなはスピードを上げて奥へと向かった。

(そういえば、友達と最後に遊んだのっていつだったかな・・・)
そんなことを考えていると、辺りに霧が立ち込めるようになってきた。
さすがに少し怖くなってきたのか、みうなはさらに走るペースを上げた。
しかし、そのペースに合わせるかのように、霧はどんどん濃くなっていく・・・

しばらく走っていると、公園の出口付近にある噴水が見えてきた。
いや、噴水だけではない。その横に人影が立っているのだ。
(・・・ん?)

人影に近づくにつれ、姿かたちがはっきりしてくる。
別にどうという事もない痩身の男だった。
しかし、その表情が見えてくると笑っているようにも見える。
・・・いや、確かに笑っている。
みうなは得体の知れない男に近づくのをためらったが、このまま行くことにした。
(いざとなったら私の『能力』で・・・)
そんな風に考えていると、男が口を開いた。
「みうなちゃん・・・ボクと二人だけの世界に行こうよ・・・」
(えっ、何?なんで私の名前を?)
その瞬間、目の前が暗くなり、みうなは意識を失って倒れてしまった・・・

銀色の永遠 〜ナイトメア・ビフォア・クリスマス〜4

サアアアアアア・・・・・・・

顔を打つ冷たい雨に気付き、みうなは目を覚ました。
仰向けになったみうなの目に映ったのは、冬の青空ではなく漆黒の闇であった。
「え?なんで夜に・・・さっきの人は?一体なにが起きたの?」
地面に手をついて立ち上がろうとしたとき、周りの景色が一変していることに気付いた。
コンクリートの地面は何故か錆びた金網のようになっており、
その下はまるで、奈落の底まで続いているかのような闇が広がっている。
噴水も石造りではなく、まるで鉄板を叩き付けたようなものになっており、
暗くてよく見えないが泥水のようなモノが噴出している。
木々は消え失せ、代わりに無機質な鉄で出来たようなオブジェが立ち並んでいる。

「そっか・・・これは夢だ」
みうなは、自分の頬を思いっきりつねった。
「痛ったあああああああーーーーー!!!!!!!」
あまりの痛さに悲鳴をあげたが、目は覚めない。
「夢じゃ・・・ない・・・なんなの?これ・・・」
そう言いながら、もう一度辺りを見回した。
「まるで悪夢が現実に変わった・・・いや、『現実が悪夢』になったような感じ・・・」
みうなは呆然とその場に立ち尽くした。

しばらく呆然としていたが、このままでは埒があかない。
とりあえず家まで・・・いや、家があるであろう場所まで行くことにした。

カンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカン!!!!!!

金網の上を走ると、靴音が鳴り響く・・・
その音が不快で、みうなは忍び足の要領で音を立てないように走った。
とてつもなく不安なのだ・・・無理もなかった、この状況では・・・。

おぞましい景色ではあるが、一応、町の造りと一緒のようだ。しばらくすると、『自分の家っぽいモノ』が見えてきた。
だがやはり、それは見慣れた自分の家の姿はしていなかった。
白く清潔感たっぷりの美しい外壁は赤茶け、まるで古い血がこびりついたような色になっている。
絶望しながらも近づくと、家(しかし自分の家ではないモノ)の前に誰かが立っているのが見えた。
(・・・誰・・・?)

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・

銀色の永遠 〜ナイトメア・ビフォア・クリスマス〜5

家の前に立っていたのは、朝出会った痩身の男であった。
男は腕を組み、暗くてよく見えないが朝と同じようににやにやと笑みを浮かべている。
笑みを浮かべながら男が口を開く。
「やっと二人っきりになれたね・・・これで誰にも邪魔されずに幸せに暮らせるよ・・・」
みうなはこの悪夢の世界がこの男の仕業だと直感した。
どうやって?だが何よりもこの男が恐ろしい!恐ろしい!!恐ろしい!!!

「これはアンタの仕業なの?!一体アンタは誰なのよ?!」
みうなは恐怖心を押し殺し、精一杯強気に叫んだ。
だが、その声は震えており、少し格好が悪い。
それを受けた男は腕を組んだまま発言する。
「やだなあ、みうなちゃん・・・ボクのこと忘れちゃったの?」
「・・・?」
「ついこないだオーソンの前で運命の出会いを果たしたじゃないか」
「・・・」
意味不明な発言に、みうなはしばらく思案する。
「はッ・・・!あの時の?」
みうなは思い出した。つい2週間ほど前の出来事を・・・

銀色の永遠 〜ナイトメア・ビフォア・クリスマス〜6

2週間前・・・

「ありがとうございましたー」

学校の帰りにコンビニエンスストア『オーソン』で買い物を済ませたみうなが、
店員の挨拶をを背に受けて店を出ようと扉を開けたときであった。

ドンッ!!!

「きゃッ!」
「うわッ!」

つい余所見をしてしまったためか、ちょうど店に入ろうとした男にぶつかってしまった。
自分の買い物袋と男が持っていたクリアケースが地面に落ち、ノートやらオニギリやらが音を立てて散乱する。

「あー!ごめんなさい!!!」
みうなは慌てて男に謝り、自分の荷物もそっちのけで男のクリアケースの中身を拾い集めた。
一方、男のほうは自分の物がみうなに拾われているので、みうなの物を拾い集めている。

「すいません!ちょっと余所見をしてて・・・」
みうなは何度も頭を下げながら、拾った物を男に差し出した。
「いや、こっちもよく前を見てなかったから・・・」
そう言って男も、みうなの荷物を買い物袋に入れなおして差し出す。

「・・・フフッ・・・」
まるでお互い物々交換をするような形で受け渡すと、その状況が何故か可笑しくなったみうなは
失礼とは思いつつ笑みを浮かべた。すると、男もそれを見て笑みを返してきた。
「あの、本当すいませんでした」
みうなは改めて男に頭を下げて詫びた。
「あ、まあ別に大したものは入ってなかったし、お互い様ってことで」
男は頭を掻きながら、みうなに頭を上げるように促した。


・・・・・・・そして二人はそのまま別れた・・・
ほんの数分の出来事。たったそれだけのこと。
それで終わるはずだった・・・

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・

銀色の永遠 〜ナイトメア・ビフォア・クリスマス〜7

「やっと思い出してくれたね・・・」
相変わらず男はにやにやと笑っている。
あの時の少し照れくさそうな笑みは、まるで思春期の少年のようであったが、
今こうして対峙してみると何ともおぞましいモノに見える。

「そういえば・・・あの後くらいから誰かに尾けられているような気がしてた・・・アンタだったのね!」
気のせではなかった。
そう確信したみうなは、軽蔑するような目で男をキッと睨み付けた。
「そんな言い方ヒドイなあ、キミを見守っていたんだよ・・・」
そう言うと男は組んでいた手を広げた。
そのとき一瞬、彼の手に『翼』のようなものがダブって見えた。
「でもダイジョウブ、僕は気にシてなイヨ・・・」
男は手を広げたままみうなに近づく。
「ボクは心がヒろイカラね・・・フフフ・・・」
「来ないでッ!!!」
男の不気味な雰囲気に、みうなは思わず後ずさった。
だが、男はさらに近づいてくる。
「さあ、フタリだけの世界でシアワセニ暮らソう・・・」

銀色の永遠 〜ナイトメア・ビフォア・クリスマス〜8

「来るなっつってんだろ!!!!!!!」
みうなが叫ぶと、彼女の背後から何かが出現したッ!

バシュウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!

純白のウェディングドレスを着たような、この世界には相応しくない『人形』。
そう、それは『スタンド』と呼ばれるモノであるッ!!

みうなのスタンドが、男の手を払い除けるように思いっきり殴った。

メメタァッ!!

男の手は一瞬で折れ、あらぬ方向に曲がった。
「ぐああああッッ!!」
「アンタには何もわからないだろうけど、私を甘く見ると痛い目にあうわよッ!」
さらにみうなはそばにあった鉄柱をスタンドで捻じ曲げ、自身を鼓舞するかのように男をさらに威嚇した。
(そう、私にはこれがある!なにも怖いことは無いッ!)
男は驚いた表情を見せたが、その中に手を折られた怒りの表情はなかった。
そしてさらに不気味な笑みを浮かべるのであった。
「・・・ッ!!!」
「みうなちゃんのそれ・・・」
「えっ?これが見えるの?」
「もちろんだよ・・・みうなちゃんもボクと似たような『能力』をもっているんだね・・・」
男が再び両手を広げる。
すると、それに重なるように影が出現した。

ズズズズ・・・・ズズ・・ズズズズズズズズズズ・・・・・

銀色の永遠 〜ナイトメア・ビフォア・クリスマス〜9

人の形だが手は無く、代わりに漆黒の翼を広げ、顔はまるでガスマスクをしているような、
そして管のようなものがその身体中に巻きついている禍々しい『スタンド』であった。

「それは・・・さっきのは幻じゃなかったの・・・?アンタも同じような『能力』を・・・?」
男と彼のスタンドを交互に見やり、みうなは呟いた。
「昔からボクにも不思議な力があってね。コイツにお願い事をすると、願いが現実になることがあったんだよ。
ああ、でも全部じゃないんだ・・・本当に強く願ったことだけね・・・。そして今日ボクの願いが叶い、二人だけの世界を・・・」
男は一度言葉を切って辺りを見回すと、うっとりした表情でため息を吐いた。
「ふ・・・フHhuuuuuuu・・・」
そして、再びみうなに視線を戻す。
「アア・・・ウレれレシイよみうなちゃん・・・
やっぱりこれって運命なんだんンね。ボクたちは出会うべくして出会っタんダヨ」
「うるさいッ!!私のことを気安く下の名前で呼ぶなァッ!!」
強気な姿勢を見せてみたが、みうなは男の口調が
少しづつおかしくなっているのに気づき、一旦は消えうせた恐怖がまた甦ってきた。
「そうそう、この手のこロは気にシ無くていいいいよ〜。そんなことンよれ、
この発見ヲ喜ばなくちゃちゃちゃちゃちゃちゃtyたy!!!」
男は完全に正気を失った表情で、地面を滑るようにみうなに一気に迫った!

銀色の永遠 〜ナイトメア・ビフォア・クリスマス〜10

「うああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
自分に迫るその姿の恐ろしさに、抑えていた恐怖が爆発した。
そして「やられる!」そう感じたみうなは、スタンドで男を無茶苦茶に殴りつけた。

「くらららららららららららららららああああああああああッッッッッッ!!!!!!」

「無駄だよぉぉぉォォォォぉぉぉォォぉぉぉォォォォォんんんんんンンンンんnnnnn!」
みうなのラッシュは驚異的なスピードで全てかわされた。
そして男はみうなの目の前まで来ると、みうなの額を舐めた。

レロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロ

「ひぃっ!」
みうなは思わず額を手で押さえて後ずさる。
「人が紳士的に話しているのに、せっかくだなア・・・」
男の表情が強張ってきた・・・。しかしすぐに不気味な笑顔に戻る。
「やっぱり男は少し強引なくラいがいいのかなァァァァァ・・・じゃあ、力ずくにでも奪っちゃうよぉぉォんん」

「ナ゛ア゛アアぁぁぁぁぁァ!!!!!!!!!!」

男のスタンドが翼を広げ大きく鳴いた。
すると周りに泥のようなもので出来た人形が3体現れ、みうなに向かって襲い掛かってきた。

銀色の永遠 〜ナイトメア・ビフォア・クリスマス〜11

「くッ!ふざけんなぁぁッ!」

バスバスバス!

みうながスタンドで人形を殴ると、いとも簡単に人形は崩れる。
あまりにもあっけなかったが、それを破壊することで恐怖を忘れることができた。
「自分は戦える」そう思ったのかもしれない。

「こんなもんで私を思いどうりにできると思ってんの?!!!!
はっきり言ってテメエなんかキモいだけなんだよ!!
お・こ・と・わ・り・よっ!!」
みうなは自分のこめかみに人さし指を突き立てて挑発した。
だが、男はそれに怒るわけでもなく余裕の表情を見せている。
「ああ・・・強い娘って素敵だなァ・・・ますマス好きになっちゃうよ・・・」

「ナ"アアアぁぁぁぁぁァ!!!!!!!!!!」

ズズズズズズズズズ・・・・・

再びスタンドが鳴き、そして先ほどの人形が出現した。

「そんな・・・」
「そんなコとくらいじゃボクはめげないよ・・・愛は無敵なんだカラ」

ドッバアアアアアアアアアァアアアァァァァンンンンンンン!!!!!!!

(コイツ・・・狂ってる・・・)
「くっそおおおおお!」
男の異常さに圧倒されそうになりながらも、
みうなは彼のスタンドが作り出した人形に向かっていった。

銀色の永遠 〜ナイトメア・ビフォア・クリスマス〜12

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・

人形は倒しても倒しても蘇ってくる・・・

「はあ・・・はあ・・・」
みうなは膝に手をついて荒い息を整えた。
時折男の嫌な笑い声が耳に入るが、そんなことを気にしている余裕もなくなっていた。

(このままじゃやられる・・・何とかしてアイツをぶちのめさないと・・・
この世界がアイツのものなら、アイツを倒せば元に戻るはず!つーかそうじゃないと困る・・・)
敗北感に心を支配されそうになりながらも、みうなは必死で打開策を考える。
(アイツは何で妄想を現実化できるんだ?何か特殊な能力?
ものを殴るだけならアイツの『幽霊』にも出来るはず・・・
私の『幽霊』にも何かあるの?私はまだこの『幽霊』を使いこなせていないだけなの?)

「ほうぅぅら、後ろがお留守になってるよぉぉんんんんnn!!!!」
気づくと、いつの間にか男がみうなの背後にまわっていた。

「クッ!!!」

ブウゥンッ!!!!

咄嗟にスタンドでパンチをしたが、あっさりかわされてしまう。
そして男は再び距離を取り、人形に攻撃させた。
「くそー!!」
もはやバテバテであったが、なんとか気力で人形を破壊する。
だが、人形はすぐに復活してしまう。さっきからずっと、この繰り返しだ。

(・・・私はこれまでなの・・・?このままアイツにいいようにされるの・・・?
いや、そんなのゴメンだ!私はこの闘いに勝つっ!負けられないっ!!)

「うおおおおおおおおおおおおおお雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄!!!!!!!!」

みうなは最後の力を振り絞って雄叫びを上げた。
が、その雄叫びもむなしく、人形と男が同時ににじり寄ってきた。

銀色の永遠 〜ナイトメア・ビフォア・クリスマス〜13

しかし、その様子が微妙におかしいことにみうなは気づいた。
確かに寄ってくるのだが、なにやら人形は抵抗しているようなのだ。
まるで見えない何かに無理矢理に引っ張られているような感じで、少しづつこちらに近づいてくる。
男とそのスタンドも同じ反応であった。
いや、男は嫌がっているような、嬉しいような・・・不思議なにやけた表情で近づいてくるのであった。
この場にいる全員がその状況を理解できておらず、
周りの景色と相まって奇妙な時間が流れていた・・・

その中で、みうながいち早くそのカラクリに気づいた。
「まさか・・・これが?!」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・

「こっ・・・これは?何もできない?!」
男が呻く。

       -相手の自由を奪いつつ自分に引きよせるッッッ!!!!-

ドッギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンンン!!!

銀色の永遠 〜ナイトメア・ビフォア・クリスマス〜14

男とスタンド、そして人形達が自分の目と鼻の先、1メートルも無い距離まで引き寄せられてきた!
みうなはそのおぞましいモノたちを見回すと、高らかに叫んだ。
「これでアンタのくだらない夢は終わりッ!!!
くらららららららららららららららああああああああああッッッッッッ!!!!!!」
スタンドは身動きの取れなくなったモノ達を、滅茶苦茶に乱打した。

ボコボバキメタクソニカボギャケコバポビスレアソニコボバキメタグッシャアア!!!!!

「うげああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
人形は破壊され、男は後ろに吹っ飛び地面に倒れた。

「クライモア(泣き叫べ!)」

バババアアアアアアアアアァァアアアアァァァァァァァアアアンンンンンンン!!!!!!!!!!!!

・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
・・


「私・・・ずっと悩んでた・・・自分のことを解ってくれる人なんかいないって・・・
口では解ってるって言っても、本当はこの見えない『幽霊』をみんな怖がってる・・・
怖がらないで喜んでくれるのはアンタだけ・・・か」
みうなは視線を落とし、無機質な錆びた金網を見つめた。
「多分、この世界は私の心の中も投影してるのかもしれない・・・何もない、無機質な闇の世界・・・」
みうなは顔を上げた。
「なんか矛盾した能力ね・・・回りを遠ざけてた私の力が、ものを引き寄せる能力なんて・・・」
「フッ」とみうなは自嘲気味に笑った。
「しかも無理矢理か・・・これじゃあ私もアンタと一緒ね」
その顔には深い悲しみが浮かんでいた。

銀色の永遠 〜ナイトメア・ビフォア・クリスマス〜15

シュウウウウウウウウウゥゥゥ・・・

異音に気付いたみうなは、新たな攻撃かと警戒したがそうではなかった。
再び霧が出てきて、少しづつ空が明るくなり始めたのだ。
(そうか・・・元に戻るんだ・・・よかった・・・)

「うぅ・・・」
その呻き声に、みうなは男に視線を移した。
鼻血は出ているが、その怪我は思ったより酷くない。
そして彼の表情に狂気じみたものはなく、
真面目そうでやさしい青年のモノになっていた。
「『君』・・・手加減したのか・・・?」
みうなはそれに答えはしなかった。実際わからなかったのだ。
本気だったと思うが、もしかすると無意識に手加減していたかもしれない。
「僕は・・・間違っていたのか・・・?今になって目が醒めた」
男は意外な言葉を口にした。
「君を好きな気持ちは変わらない。でも、それは君にとっては迷惑でしかない」
「・・・そう・・・ね・・・」
みうなは静かに頷いた。

「・・・」
男は観念したように静かに目を閉じた。
「僕が憎いだろ。煮るなり焼くなり好きにしてくれ。当然の報いだ」
みうなは一度スタンドの拳を振り上げたが、そのまま何もせずに下ろした。


恐らく彼も同じような悩みを抱えていたのだろう。
誰にも理解されず苦しんでいたのだろう。
どこか自分に似ている『闇』を持ったこの男を憎めなかった。

「なにもしない、あなたを許すわ。正直ぶっ飛ばしたいって気持ちはあるけど、
あなたのおかげで成長できたと思うし、殴っても何にもならないわ」
みうなの言葉に、男は少しほっとした顔で少し笑った。
それは2週間前に見せたあの笑顔であった。
そしてスタンドが、もう一度翼を広げた。
「あ・・・」
すると霧が晴れ、いつもと変わらない朝の風景になっていた。

銀色の永遠 〜ナイトメア・ビフォア・クリスマス〜16

「私は生まれ変わる。もう自分を閉ざさない!いつか私をわかってくれる人が現れるはず!
いや、待ってちゃ駄目ね自分から歩み寄らないと!」
そう言うとみうなは男に背を向け、いつものバス停に向かっていった。
そして、数歩足を進めたところで立ち止まり振り返った。
「手・・・折っちゃった事、ごめんなさいね。治療費は払うわ・・・」
「いや、いいんだこれくらい・・君にしたことに比べれば」
男は折れた手を見せないように、後ろに回して答えた。
「・・・そう、じゃあね」
再びみうなは歩き出してそのままバス停に向かった。

バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア・・・・・・・

「・・・なんてやさしい人なんだ・・・・ああ・・・やっぱり素敵だ・・・
僕はこれからも君を見守ることにするよ・・・」

バサアッッ!

男がうっとりとした表情をすると、スタンドが漆黒の翼を広げた。

銀色の永遠 〜ナイトメア・ビフォア・クリスマス〜17

「僕の願いは君の幸せだ・・・君が幸せなら、僕も幸せになれる気がする・・・だから」
男は青天の冬空を見上げた。
「近いうちに君は『ある場所』を訪れる・・・そこに君の理解者がいるはずだ・・・」
男はそうつぶやくと、その場を立ち去った。

・・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・


(疲れたぁ・・・まだ朝なのになんでこんな・・・しかも補習とか)
バスに乗り込んだみうなは、この後のことを想像してぐったりと座席に腰を掛けた。
(なんか部活でもしようかな・・・
そういえば演劇部が部員を募集してたな。今度見学に行こうかな)
窓の外の景色を眺めながらそんなことを考えている途中、
みうなはある重大なことを思い出した。

(・・・しまった!!!!!!ノート忘れてたんだッ!!!!)

「すいませんッ!!降ろしてくださいぃぃぃぃぃ!!!!!」
みうなは慌てて席を立ち、無理矢理にバスを止めさせて急いで家に走っていった。


みうな 結局補習に遅刻して、担当の先生から『ありがたい説教』を受ける。
スタンド名 スノー・ドロップ(白銀の貴婦人)・・・後にそう名付ける。

元・ストーカー(本名不明) 改心してまじめに生きる。
スタンド名 ウィッシュ・スター(星の王子様)

To be Continued・・・